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もう森へ帰ろうか?

ザッ……


僕は暗い路地裏から大通りを覗いた。そこには溢れんばかりの人が行き交っていた。


僕が育った故郷ではこんな噂があった。

『トウキョウに行けば何でもある。あの地こそ我々のユートピアだ』

僕らは小さい頃からその噂を信じて育った。そして、オトナの仲間入りをした頃に僕はこの街に出てきた。


しかし、それは風の噂による洗脳で僕が想像していた世界は蜃気楼のように存在しないものだった。

確かにこの街では美味しいご飯もあれば故郷よりも快適な寝床もあった。

しかし、この街に暮らす人は眉間に皺を寄せ、俯いたまま歩き、信号待ちで隣に立っている人にすら興味を持っていないような人々ばかりだった。

コンクリートジャングルとは上手く言ったものだ。場違いな僕を見下すような巨大なビル群には僕の故郷の土や緑のような温もりの欠片もなかった。


なぜ人はこんな空気の汚れた狭い街に憧れるのか。僕には理解できなかった。

いつも何かに追われるように足早に駆け回る人々を見て僕はため息を着いて空を見上げた。

故郷と繋がっているはずの空は故郷の空のように青くなく、濁った色をしていた。


「ねぇ、あれ……」

女子高生らしき2人組が僕を指さした。

「やば!たぬきじゃん!」

僕は路地裏の奥に逃げ込んだ。ストーリーがどうだと言う声から逃げるように走った。


換気扇から漏れる油っぽい匂いに顔を顰めながら僕は思った。



もう森へ帰ろうか?


〈完〉



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