テクシーさん。#8

-じゅうひくご。-

平日の夜、ラブホテルは盛況だった。


かろうじて残っていた一部屋に私はrumiと背を向け合い座っていた。


rumiに聞きたいことは山ほどあるが、なぜか言葉を出せずにいた。

...なんで仕事を依頼してきたのか。なぜそこまでして手袋が欲しかったのか。...なんで指がないのか。

ちょっと動揺している。


別に興味本位で聞く訳ではない。どうでも良いといえばどうでも良い。

身体的特徴なんてその人の個性と思えば気にはならない。



「ねぇ、何か飲む?」

rumiが沈黙に飽きたのか、気だるそうに私に聞いてきた。


「う、うん。そうだね、何か飲もうか」

私は動揺を隠すように少し声を明るく答えた。


「ホテルの飲み物って高いんだぞ、ほら。」

勢いよく冷蔵庫の扉をあけ、彼女に落ち着いている大人を装ってみた。



「.....ちょっと。それわざと?おもんないけど。」

rumiが呆れた様子で呟く。私は冷蔵庫ではなく、"大人のおもちゃ"の自販機が設置された棚を開けていたようだ。


再び沈黙。



「ゆび。 なんでないのか教えてあげようか?」

rumiは会話のきっかけを作る様に軽くつぶやいた。


「え....   別にイイよ。特に聞きたい訳じゃない。」

私はそう答えると腰を下ろしていたベットから立ち上がりソファーへと移動した。


「顔に書いてるよ。

あいつなんで指ないんだって。」


rumiはいたずらっぽく笑い、こちらに顔を向けた。


ふと目が合った瞬間、rumiは真顔で私を見つめていた。


そしてゆっくりと話し始めた。



「この左手はね、生まれつき小指と薬指がないの。たまにいるんだって、生まれつき四肢の一部が欠損している赤ちゃん。

そして、この右手は..」

私は思わず、あっ。と声に出してしまった。


rumiの右手は親指と人差し指しの2本だけ。

「.....右手もなんだ。」

「10マイナス5は5。私は両手の指が5本しかないの。

まぁ右手は自分が悪いんだけどね。」


右手は幼い頃にある事故で失ってしまったらしい。



「....だから手袋。 手袋を盗んだの?」


rumiは大きく伸びをしてベッドに横たわった。



「手袋していると、指があるでしょ。だから手袋に異常に執着があるみたい」

彼女は今度は大きく笑い、うつ伏せになった。

そして顔だけこちらへ向け、また真剣な顔になった。


「でもね、指がなくても平気なんだよ。食事もできるし、スマホも使える。友達とも遊べるし、彼氏とセックスもできる。」



げほげほ!

私は咳き込んで下を向いてしまった。

なんだよ、女子高生が簡単にセックスとか言うなよな....



「ねぇ。」

顔を上げるとrumiが目の前に立っていた。

「え?」



rumiは戸惑う私の左手に指を重ねてきた。


「私はなんでもできるんだよ。 欲しいものは人を襲ってでも奪うし。年上の男に抱かれることだってできる。」

私は彼女の迫力に押され、彼女から逃げる様に後ろにのけぞった。


そして彼女は私の上にまたがり、胸ぐらを掴んだ。

「だからって好きな相手とじゃないと簡単にはヤらないよ。私には指一本触れんなよ。」

凄む彼女が怖かった。



「ば、ばか! 初めからそのつもりないって言ってるだろ! ふざけんな。」

rumiは振り返りベッドに足を組みながら座り、私に左手を見せた。

左手の中指を立ててつぶやいた。

「でもねfuckはできても、薬指に指輪ははめれないんだよ。」




外でサイレンの音が鳴り響いていた。




つづく。






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