テクシーさん。 #5

-ひと束ねの髪と数珠-

kaoriは扇町公園の西側にあるワンルームマンションに住んでいる。

関西テレビ社屋を望む阪急東通り商店街を抜け数分の場所だ。

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「.....またいる。あの男。」

kaoriが振り返ってそう呟くと、また前を向きゆっくりと歩き出した。

商店街を抜けた通りにタバコ屋がある。

店の前に目をやると自動販売機に寄りかかるように立つ30代くらいの小柄な男がいた。

長髪を束ね、パーカーにジーンズといったラフな格好である。

私はkaoriと少し距離を取り、男の様子を観察した。

横を通り過ぎるkaoriを男はゆっくりと目で追い、後ろ姿を視線が捉えて離さない。

街で見かけた美人をついつい見てしまうことはよくある。連絡先を交換したいと思ってもなかなか声をかけづらいものだ。

しかし男がkaoriに送る視線はそれとは違う、何か見定める様な..


私が近づくことを察してか、男はスマホを操作し目を伏せた。

足元から顔まで一瞥すると目が合いそうになり、誤魔化すように私もスマホに目をやった。

新着のメッセージが表示されていた。

『3 日連続よ。その男と会うのは。気味わるい。』kaori

kaoriが送った、絵文字もない素っ気ないメッセージが気になった。

少し離れたkaoriとの距離を縮めようと小走りで駆け出したその時。



ガシャーン!!

後方から突然何かが割れる音が鳴り響いた。


音の先を反射的に目で追うとバーの店員が酒の空き瓶を落として割っていた。


-あーあ、また割っちゃったよ。ジャックダニエルだけ瓶が手から滑り落ちるんだよな-


「なんだ。瓶が割れた音か」

あれ、あのパーカー男がいないな。

横を通り過ぎてから10秒も経ってはいないはず。男の姿が見当たらない。



「ちょっと大丈夫? 怪我でもしたの?」

kaoriが私を心配し声をかけてきた。

「大丈夫です、私が瓶を割った訳ではないですから。

ところでさっきの男は?」

再び歩き出したkaoriを私は少し早足で距離を詰めた。

「知らない男よ。昨日も一昨日も帰り道で会ったのよ。今日よりももっと早い時間だったから別に何とも思わなかったけど。この時間にも会うって気味悪くない?」

「そうですね。恋をした相手に送る視線にしては少しセンスも配慮もかけていましたね。」

「あんなのに恋されたら、たまったもんじゃないわよ。タイプじゃないし、見た目がダメ。男でポニーテール、手首に数珠よ。どっかのカルト教団の教祖か売れないプロレスラーじゃあるまいし。」

kaoriの持つカルト教団のイメージが私にはツボで笑ってしまいそうになるのだが、わからなくはない。

「ちょっと気になりますね。夜遅いだけとは言わずに夕方でもご依頼くださいね。用心に越したことはありませんから。」

肩をすくめて目で " 了解 " を伝えるkaoriは私に明日の予約を告げると、そそくさと自宅マンションへと入っていった。

部屋の電気がつくのを確認し、私は再び阪急梅田駅へと走り出した。

時刻は23:45。

今きた道を戻ると先ほどのバーが目に入った。カウンターにはポニーテール、手首には数珠をつけた男性がウィスキーをロックで飲んでいた。

「・・・・ポニーテールと数珠。 

青い海も波打ち際もありゃしねぇな。」

店の横をやり過ごし、駅へと向かう。

本日ラストのご予約様-rumi-との待ち合わせまで後5分。



つづく

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