gapとアン vol.05
私はgap。
今年で30歳になる普通の男だ。
結婚して娘もひとり、仕事もなんとかやっていけてる。
別に彼女と会うのに深い意味はないんだ。
ただ興味があっただけ。
京都 鴨川。
恋人たちが川辺に等間隔に座り、淡く甘いひと時を過ごすことで有名である。
平日の昼過ぎでも、やはり恋人たちが川辺で会話を楽しんでいる。
その横を身長183㎝の私より頭ひとつ背の高い
「てる子」が並んで歩いている。
カッポカッポ。
レッドウィングのブーツを履いた「てる子」は
目測175㎝はある。
加えてブーツの底も厚い。
カッポカッポ。
歩くたびにブーツの底が音を鳴らし、音につられて川辺の恋人たちはこちらに目を向ける。
そして、みんなが二度見をする。
カッポカッポ。「てる子」のメイクは舞台メイクそのものである。
客席からみるにはちょうどいいが、近距離では迫力がある。
時代が江戸なら「鬼」と呼ばれたかも知れない。
時代が幕末なら壬生の志士達に討伐されたかも知れない。
「てる子」の様相は、皆様の想像より特異であった。
「久しぶりだね。もう少し歩いて話そうか」
うなずくだけの てる子。
私は平静を装ってみたものの、会話がない。
静かな時間がただ過ぎる。
鴨川を南へ。
空ではトンビが飛んでいる。
五条通りがみえてきた。
つづく。