高齢者のアンテナは、低いが広い

長年勤めあげた企業からリタイアし、しばらくはのんびり過ごそう。趣味に勤しむのもいい。園芸、読書、映画鑑賞(もちろん、ネットで)など、いろいろな選択肢があるのはうれしいものだ。

 夜の付き合いや、仕事着であるスーツやネクタイの購入などがなくなるだけで、思っていた以上に小遣いの節約になる。『そうか、いままでずいぶん無駄遣いをしてきたものだ。まあ必要経費、仕事への投資の一部だとすればしょうがないか』最初のうちはそう思う。しかし原資である小遣額そのものも縮小しているので、無駄遣いをやめるだけではなく、一歩踏み込んで節約に取り組まなければならなくなる。

 新聞の購読はまだしも、ビジネス雑誌は買わずに図書館で読もう。
気分転換によく利用したカフェは、回数を減らさなければ。外食だってそうだ。
映画はできるだけテレビで見るようにし、可能なら家族と話し合ってNET FLIX、、Disney Prime、WowWow などの加入を検討しよう。
服は、いままでのものを再利用しよう。と思っていたが、普段着は部屋着以外はほとんどないので、最低限はそろえなくてはなるまい。
 
 といったように、いままでとは少し違った情報を集めたり、準備したりする必要がある。その時に役立つのは、息子や妻の情報だ。雑誌やネットで得られる情報というのは、どこかの焼き直しや流用が多くて、意外によく知られている情報が多い。あるいは発信者は若い人が多く極端に個人的な趣味なので、高齢者にはあまりピンとこないことが多い。その点、女房の情報は年齢も近く、金銭感覚も近いので、役立つものが多い。特に近所や最寄り繁華街の食事やカフェなどはそれが言える。

 そう考えると、自宅周辺の情報は家族からの情報が、かなり有用だということに気づく。では、少しビジネス的な刺激が欲しい、今までの経験を錆びさせない情報が欲しい、という時に頼りになる情報はどこにあってどうやって手に入れるか。

 この場合、かつての同僚は見事に役に立たない。それはそうだ。同じような生活を送ってきて同じような世代なら、自分でも知っている。あるいは、趣味などに走った仲間からは、自分には興味のないことのほうが多い。
 それに加えて、退職してから気が付くのは、会社員の衣を脱ぎ捨ててからの一人ひとりの経済的なギャップの大きさだ。会社勤めをしているときには、給料もほぼ同じ、したがって小遣いも同じ位という条件の中での付き合いだったから、毎日の付き合いのなかでは気にするほどのことはなかった。せいぜい、夏休みなどの長期休暇で海外に行くとかの話を聞くくらいだから、『へえーすごいな』くらいで済んだ、そもそも休みの日に会うほどの付き合いではなかったのだから、それほど気にならない。
 しかし、毎日が休み、あるいは余裕だらけの生活になると違う。親の財産がある、子供がいない、あるいはもう立派な社会人になっているという人たちがいる反面、子供がまだ高校生だ、家のローンがかなり残る、親の介護でお金どころか、時間も体力もギリギリという人もいる。離職後はそうした個人の環境の違いが、はっきりと出てくる。自然、もう個人的な付き合いはできなくなる。繁華街への交通費だって、負担感は人によってばらばらだ。

 だからちょっと一杯やるか、というタイミングで、ヨーロッパ旅行などの予定を一度ならず二度三度聞くと『リタイア後にまた海外旅行かよ!』ということになる。
どれをうらやましがるのは、その人の勝手なので、どうでもいいのだが、仲間同士の集まりが調整できない。年寄りは意外に忙しい。用事が多いのではなく、活動時間が限られてくるせいで余裕がないのだ。
 夕方あって遅くとも8時には家路につく。夏なら日中は暑い。あさは習慣になったラジオ体操、そして図書館で新聞の順番待ち、とかなんとか。

高齢者のアンテナが低いのは、活動時間が少なくなり、行動エリアが狭くなり、情報源が少なくなるからだが、その分、近所やささやかな繁華街でのランチなどではレパートリーは広い。これでいいのだ。

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