見出し画像

教員の理不尽な指導をもたらす背景は、懲戒権にある④

過剰なまでの指導を行い
守れなければ懲戒を加える



 前回に続いて、あるべき姿に子どもを押し込む実例をもう一つ見ていきます。『学校が大変だ!—道徳教科化がやってきた—』 安原昭二・著/金森俊郎・監修、2019年6月に発行された本から紹介します。

 最近は、どの学校でも下足箱が整頓されています。「はき物を、そろえて入れましょう」の写真があちこちにあり、1限後にクラスごとのチェックがあり、結果は、昼の校内放送や掲示で知らされます。合格していない下足には付箋がつき、担当の先生の目の前で直さなくてはならない学校もあるそうです。※下足の整頓は、全国的に見られる状況である。「5ミリまでのズレは合格」としている県もある。また、「傘の柄の向きも同じにしないと、心がそろっていないことになる」と同じ向きにする学校もあると聞きました。

『学校が大変だ!—道徳教科化がやってきた—』 安原昭二・著/金森俊郎・監修

 こういった生徒指導は全国的に見られます。このエピソードについては、こども庁の創設に向けた国会議員の勉強会の場で、指導死についてレクチャーした際にも取りあげたのですが、議員の皆さんは笑っていました。笑いで済ませてほしくないとも思いましたが、こうした指導が現実に学校で行われていることを知っていただけたことは意味があったと思います。
 こうした被害を、あえて被害といいますが、子どもが受けている。こんなふうにくだらない決まりを作りだして子どもをがんじがらめにして、守れないと懲戒を加える。こうした指導と懲戒のどこに学校教育法の第11条「校長及び教員は教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし体罰を加えることはできない」の「教育上の必要」があるのでしょうか。

指導を背景とした子どもの自殺を
指導死と名付ける


 このように、過剰な指導があり、それに結びつけられた懲戒が、子どもの命を追い詰める現状があります。それが指導死です。指導死とは、教員による児童生徒への指導があり、それを原因、あるいはきっかけとして子どもが自殺することを意味する言葉です。指導と自殺、この二つの条件がそろった状態を指導死と呼びます。2007年に私が考えた呼び名で、私自身も指導死遺族です。
 ここでいう指導とは、学校における教員の一挙手一投足、言葉であれ行動であれ、すべてを指導と呼んでいます。当然ながら懲戒もそこに含まれます。
 教員は、児童生徒にとっては圧倒的な権力を持つ存在です。多大な影響力があります。意図するかしないかは関係なく、教員の言動がパワーハラスメントや虐待として児童生徒に影響することはあり得ます。
 児童虐待防止法やパワハラ防止法、いじめ防止対策推進法の各法が禁じている行為を、教員が児童生徒に対して行ったとしても、教育行為と判断され罪に問われないことが極めて多いのです。教員以外が行えば、虐待であり、ハラスメントであり、侮辱であり、いじめである行為が、懲戒権の名のもとに合法化されてしまっている現状があります。

平成元年以降の
指導死発生件数は109件


 では、指導死はどのくらい起きているのでしょうか。残念ながら、指導死についての公的な統計はありません。文科省の2022年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(問題行動調査)では、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」について新たに「教職員による体罰、不適切指導」の項目が追加され2人が計上されましたが、実態を反映した数字とは思えません。
 その理由は二つあります。第一に、問題行動調査は学校の認識を問うもので、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」について学校が「教職員による体罰、不適切指導」が原因であると認識しなければ数字に反映されないという問題があります。第二に、保護者もすぐには「教職員による体罰、不適切指導」が原因と認識できない場合があるからです。子を喪った直後は悲しみのあまりに原因を考えるゆとりもなく、しだいに耳に入ってくる体罰などの情報から学校に説明を求めるようになり、時間が経ってから教員の言動に問題があったと認識するケースもあるのです。
 教育評論家の武田さち子さんは、報道や裁判資料等から指導死と判断できる子どもの自殺を調査しています。それによれば、1989年(平成元年)から2023年10月末現在で109件の指導死と思われる子どもの自殺が起きています。うち15件は未遂です。武田さんの記録で最も古いケースは1952年のもので、そこからの総件数は130件です。

特に危険な指導は
「えん罪型指導」と「放置型指導」


 指導死の背景となる指導にはいくつもの共通項がありますが、中でも特に危険な生徒指導として「えん罪型指導」と「放置型指導」があります。「えん罪型指導」とは、指導の対象となった問題行動について、死に至るまで子どもたちは「自分はやっていない」と言い続けているケースを指します。「放置型指導」は、指導中あるいは指導後に子どもを一人きりにしてしまうものです。一人になったときに、その場にあった電気製品のコードで縊死を図るとか、その場から抜け出して近くの鉄道に飛び込むなどして命を失っています。
 平成以降の109件の指導死に、えん罪型が19件・18%、放置型が15件・14%含まれています)。えん罪型でかつ放置型のケースが1件あるため、あわせて33件です。31%、33人の命は、子どもの話をきちんと聞き、安全に配慮することで救うことができたのです。まっとうな生徒指導をしていれば、まっとうな懲戒であるならば救えた命であることを改めて確認しておきたいと思います。
 
to be continued.

いいなと思ったら応援しよう!