試合開始5秒前の高揚感:ワインボトル片手に学会参加しよう
なんとも久々の感覚だ。自分が学生時代からずっと主戦場にしている学会が、この秋にオンライン開催される。去年はコロナ禍で中止となり、演題も募集されなかった。今年のオンライン学会では私もプレゼンをする。自分のプレゼンを作りながら、プログラムを見ながら、ひさびさの「高揚感」に浸っている。日常のあれやこれやの疲れやイライラが吹き飛ぶ。やはり、このために研究者を続けている、と思う。生きている、と感じる。サバイブしている、と感じる。この感覚だ、この感覚を待っていた。
公表されたプログラムを読みながら、ひとり興奮している。
え?あのラボ、こんな実験始めてたのか!
え?2年前とは全然違う方向に行ってるじゃん?
え?異動したの?
お!あの論文の続き?
などなど、プログラムを読んでいるだけで楽しい。脳が、身体が、全身で喜んでいるのを感じる。自分の周りで日々生じている絶望的な日常から離れることが出来る。もはや頭の中は学会のことで一杯だ。こんなにまで、ウキウキしているのは久々だと思う。
研究者以外の方には理解出来ないかもしれないが、「学会でしか会わない方達」というのがいる。もっというと「学会でみかけたことは何度もあるけれども、実際に喋ったことはなく、ただ、その方の研究内容は論文でよく知っているし、ずっと論文をおっかけて読んでいる」という方達もたくさんいる。もっといえば、特定のグループの研究発表を毎年、楽しみにしているが、そのグループと関わったことはない(そもそも研究が自分とは違う方向を向いている)とかもある。こう書いていると、なんだか私がストーカーみたいだが、もちろん交流のある人達もいっぱいいる。学会で年に一度あって、酒を飲んで、語り合うのが楽しみな方達も沢山いる。そういう「仲間」と酒を酌み交わせないのは残念だが仕方ない。今の状況を考えれば、大会が開催されるだけでも御の字だ。大会を準備している実行委員会の皆様には感謝しかない。
そういえば、去年、いくつかのオンライン学会に参加した時の感想をかいた。
その時の結論としては「リアルで会えることは尊い」だった。しかし、やはりメインとなる主戦場の学会の2年ぶりの開催とあって、興奮している自分がいる。オンラインでもいい。とにかく大会があるだけで有り難い。大会参加中はコロナ禍の辛い日々を忘れることが出来そうだ。
面白いのは出身ラボとか共同研究者メンバーだと、コロナ禍でもメールで頻繁にやりとりするし、ZOOMで何度も会議をしたりしているし、研究の進捗状況などもSlackなどを通じて良く知っているので、要旨や発表タイトルをみても、それほどウキウキ感がない(失礼)。やはり、相手のことを知ってはいるけれども、日常でコンタクトをとるほどでもない(もしくはコンタクトをとったことのない)方達の発表を聴くのが楽しみだ。うまく表現出来ないのだが、二年ぶりの作品(漫画とか音楽とか)を心待ちにしている感じに近いだろうか。
この主戦場となる学会については、ここ数年は学生さんを率いての参加が多かった。そのための出張手続きから、移動、会場での学生さんの紹介などなど気を遣うことも多かった。それに加えて、ある程度の年をとってからは学会内でのお仕事もどんどん増えていて、会場でバタバタと書類を抱えて走り回っていることも多かった。それがオンラインになって殆どない。しかもだ。今年は私の研究室の学生さんは発表をしない。発表するのも参戦するのも私だけだ(色々と状況を考えた末に学生さんを誘わなかった)。引率もなければ、学生さんの発表データの確認や練習につきあうこともない。もちろん準備は大変だし、学会に関連した会議も入ってくるし、そのための資料も作らなくちゃいけないしで、時間はたくさん奪われているが、大会期間中に発表を聴くという意味では、例年よりも圧倒的に集中できそうだ。
おまけに、今年は自分のプレゼンに今までコソコソと、そしてコツコツ進めてきた「(自分としては)とびっきり面白い」データをどかんと放り込んだ。まだ論文になっていないが、2年ぶりの学会とあって出し惜しみなし。言ってみれば「自信作」の披露だ。反応が楽しみだが、反応が薄かったり、バリバリに反論されて落ち込むことになるかもしれない。それでも、ネガティブな方向のリアクションも含めて楽しみにしている。まだまだ精進が必要なのか、それともネタ(プロジェクト)として、さらに発展させる方向にいくのか、理論構築が甘々でプロジェクト終了〜となるのか、今回の発表の反応を見て考えることが出来る。
職場には、学会期間中、完全に居室に引きこもると伝えてある。学会のみに集中するのだ(そのために仕事を先回り先回りで片付けまくっている)。なんなら、有り余っている有給を使って家で発表を聴いてもいいかもしれない。自分のプレゼンのない日は、自宅ならば酒を飲みながら発表を聴くことだって出来る。ワインボトル片手にポスターを見て回れるのだ。グラスじゃなくてボトルだ。会場でやってたら大馬鹿やろうだが、家なら誰にも文句はいわれない。途中からウイスキーに移行してもよいだろう。おいしいつまみを用意しよう。試合開始5秒前の、チームがみんなコートに並んで、ボールが用意された、あの瞬間を思い出す。なんともいえない高揚感だ。
いつもより、ちょっとだけ高いワインをネットで注文しようと思う。もちろん、妻好みのワインも注文する。子供も喜ぶようにするのなら、ピザでもテイクアウトしてくるのいいかも(ド田舎なので、配達圏外なのだ)。万全の体制で臨もうと思う。