名前のない物語

いつもと変わらない一日の始まりだと思っていた。

4時半に目を覚まし、テレビをつけて、歯磨きをして、最近飼い始めたジャンガリアンのカラカラ回る音に安心感を覚えて。

しかし、そこで翼はふと違和感を覚える。

なんだろうと思い、部屋を見渡すと、つけたはずのテレビからはなんの映像も流れていなかった。

おかしいなと思いながらリモコンを動かしてみてもやはりテレビは砂嵐が流れるだけだった。

そんなこともあるだろうと思い、翼は特に気にすることもなく外出の準備をして、出かけることにした。

冬のこの時間は外まだは暗く、人もほとんどおらず、車もほとんど走っていない。

翼はそんな時、ふと世界には自分しかいないんじゃないかと不思議な気持ちになる。

もし世界に自分しかいなかったらどんな気分だろうと想像してみるが、あまりにも現実的じゃないので、それ以上考えるのを止めてしまった。

それにしても今日はいつも以上に暗いし、なんの音もしないと思いながら、駅に向って自転車を漕いで行った。いつも捕まる信号もうまく渡れたし今日はいい感じだな。ふと横を見ると24時間営業のコンビニには灯りがなく、人がいる気配もしなかった。

コンビニって休む時もあるんだなぁとどうでもいいことを考えながら翼はいつもの駐輪場に自転車を停めて、いつもの管理人に挨拶をして駅に向かうはずが、そこにはいつもの管理人はおらず、翼の挨拶だけが虚しく響き渡った。

翼が使う駅は新宿まで20分と利便性のいい駅で普段から乗降客が多い駅として有名である。

ただ、まだ朝の5時の駅はさすがに空いている。というか誰も人がいない!

もしかして今日は休みか?
それでも人はいるよな。

ひょっとして外出禁止なのか?
そんなことあるはずないよな。

まあ、いいかと持ち前のお気楽さで気に止めず、改札を通抜け、ホームで電車を待つことにした。

そこで、翼は読みかけの文庫を読み始めた。本が大好きな翼は常に本を持ち歩き、時間があれば本を読むような読書の無視というか読書中毒である。

この日もつい夢中になってしまい、気付くとホームに来て30分も経っていた。。

やばい!遅刻だ!と焦って走り出そうとするが、ホームにいることに気づき、慌てて周りを見渡すが、相変わらず、誰もいないし、電車が来る気配も全くない。

今日は中央線は運休なのかもなと相変わらず楽観的に考えて、でも、それならアナウンスがあるよなと一人で考えても埓が明かないのでスマホで調べてみようと思い、スマホで検索するが、接続できない。

今日はおかしなことばかりだと思いながら、
駅員に聞いてみようと思い、探してみるが誰ひとりとして見当たらない。

さすがの翼もここに来て、おかしいと思い、辺りを見て回るが駅員どころか、誰も見当たらない。

どうなっているんだよ。まさか本当に世界から人がいなくなり、自分一人になってしまったのか。まさかな。

普通だったら焦ってテンパってしまう状況でも楽観的な翼は焦ってもしょうがないと思い、駅前にあるマックで一休みしようと決めた。当然のようにマックも明かりが消えて誰もいないが、翼は誰もいないのをいいことに鍵を壊して中に入っていく。

マックでバイトをしていた翼は店の設備にも詳しく、勝手に電気をつけて、マックシェイクを飲みながら一息ついた。

それにしてもみんなどこに行ったんだ。ほんとに人がいなくなったのか。翼には何も分からなかった。色々考えても答えは分からないと早々にあきらめて翼は明るくなるのを待って何があったか調べようと決め、まずは続きの気になる文庫をまた読み始めた。

つづく

文:がんちゃん

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