あっちこっち沈む寺【毎週SS】
和尚はすっかり困り果てた。
時は先週のこと
夜中に発生した山鳴りのせいか、寺の敷地全体の地盤が不安定になった。
ニュースで聞くような地滑りや液状化の類だろうと、
和尚も最初は高を括っていた。
「まるでスポンジだね」
開口一番、様子を見に来た宮大工の親父に言われた。
現在この寺は言うなれば、
柔らかい弾力性のあるスポンジの上にあるようで、
和尚がお経を唱えに本堂に向かえば本堂が沈み込んでしまい、
弟子たちに説法をしに戻れば今度はそちらへ沈み込む。
どこへ行くにも傾くのだった。
おかげで貴重な仏像が倒れて壊れないか気が気でない日が続いた。
「どうしたものか」
そこへ末弟子がやってきて、
「寺中に目いっぱい重しをおいてはどうでしょう」
言われた通り宮大工のツテをたどって石材やら土嚢やらを
寺の至る所に配置した。
すると最初はみるみる沈み込んだもののやがてぴたりと収まった。
これには和尚も大喜びだった。
ちなみにその夜、寺中の床が抜けたのは言うまでもない。
(410字)
この話を書いているときに、
昔、お仕事でお得意様と飲んだ時の話を思い出しまして。
「最近、顧客からの注文がどんどん多様化してきてどうしたものか」
という禅問答みたいな話になりました。
すべてを一度にまるっと解決できる方法なんてものはそうそうないもので、
あちら立てればこちらが立たぬとはよく言ったものです。
だからこそ、どうすれば両立できるかを考えることが
正解のない「仕事の面白さ」だとは思います。
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