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月夜の寝ぐせ【毎週SS】

「昔はね、月はずっと地球のそばにあったんだよ」
夜空を見上げ彼女は言った。

「月の光が届かなくなったら、私は……」
「君の髪があんなだったのって」
「うん。でも君が来てくれた」
はじめて出会った日もこんな寝ぐせだったっけ。

「また会えるよ」
 彼女は少し驚いて肩をすくめた。自分さえも理性が追いつかないまま口に出た言葉に刹那息を飲んだが、もう止められなかった。
「もう一度、月が地球に近づいた時、僕は世界一の理髪師になって、そしてまた君とこんな風に……」

 そこで言葉が詰まる。髪をとかす手が止まる。
 想像してしまった現実に言葉と想いが夜空よりも深い深い闇に飲み込まれていく気がした。
「ありがとう」
 彼女は振り返らず、ただそっと背中を僕に預けた。とても安心した静かな寝顔だった。
 夜毎に縮む金輪が憎らしかった。


どうもGanmoです。
先週ほっこりしたもの作らなかった「そこのあなた」の1名です。
すんまっせんでしたぁ!!!

お詫びのほっこりお届けしました。
えっ、こんなのほっこりじゃない? 難しいですなぁ~。

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Ganmo
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