気まぐれショートショート 助手席の異世界転生
その夜は雨だった。
「試験、来月だな」
「うん」
塾帰りは必ず迎えに来てくれる父。
お互い特に話題もなく、なんとなく沈黙が耐えられなくて。
それでも分かってることをいちいち口に出して聞いてくるこの時間は苦手だった。
そんな憂鬱も、眼前に差し込む眩い光とブレーキ音で全部吹き飛んだ。
気づけば、カポカポとリズミカルな足音と田舎道の舗装されていない道路を走るようなぐらつきを体から感じる。
「お父さん、この道路、工事なんてしてたっけ?」
「……」
私の視界には、手綱を握った西洋風の男性が
「なんだこいつは!」といった顔つきでこちらを見てくる。
こっちの台詞だよ。
前方から生き物の嘶く声
そうか、これは馬車なのかなるほど
なるほどじゃねえよ。ここどこ?
考えた矢先、あのブレーキ音がよぎった。
もしかして私、あの時?
だとしたら、父は無事なのか?
とすると、この世界に来たのは私だけ?
どうする。え、どうする?
ポーン
「目的地、周辺です」
いやお前は付いてくんのかい!
(418文字)
本当にこの十年位で異世界転生作品の数が目に見えて増えたと感じます。
ちょっと前までは我々が異世界に行くよりも、向こうから現実世界にやってくる方が多かったんですがね。
それだけ「異世界転生文化」というものが現代日本人、ひいては世界中の人を虜にする何かがきっとあるのでしょうね。
あるいは、それだけ今の世界をよく思わないということなのかね?
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