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【気まぐれショートショート】未来の断捨離
祖母が暮らす介護施設にあるアンドロイドがやってきた。
親をはじめ施設の人や入居者がみな口を揃えて「こんな時代に、それもアンドロイドの入居者なんて珍しい」と言っていた。当時の私はまだ小学生で、大人たちの言うことに従ってなんとなくそういうものなのだと理解していた。
彼女の部品は十年以上も前にどれも廃番となっていた。さらに彼女自身が機体の更新を拒んだのだという。その理由さえ話さないものだから、人だけでなく他のアンドロイドからも煙たがられ、最終的にここに来たのだという。
子供心故に見舞いというものに飽きがきていたこともあり、あるとき私は両親が祖母と話をしている間に部屋を抜けだし、彼女のいる部屋に行き、とうとう彼女に話しかけたのだった。
「お姉さんアンドロイドなんでしょ。アンドロイドだったら部品を交換してすぐに元気になるじゃない」
「そうね。でも直したくなかったのよ」
「ぼくたちなんか、細胞注射しないといけないんだ。知ってる? あれすっごく痛いんだよ」
「そうなの。あなたたちも大変なのね」
今や人間は千年を生きる存在となっていた。
延命を望まないという行為は、自殺願望にも等しかった。
「どうして直したくなかったの」
「先生に言われたの。お姉さんを治そうとするとね、もっと新しい身体に交換しなくちゃいけないの。そうするとね、記憶をなくしちゃうかもしれないんだって。それがとてもいやだったの」
「でもアンドロイドって、記憶を保存できるんでしょ。お父さん言ってた」
「確かにそうね。だけど、その記憶が残っても、その記憶を大事にしたかった気持ちが残るかわからないでしょ?」
よくわからない私に、彼女はポケットからブローチを取り出し、中を見せてくれた。彼女の周りに数人の男女が笑顔で取り囲んでいた。
「これお姉さんの家族?」
「そう、とっても大切な人たちだった。私にいろんなことを教えてくれた。嬉しいこと。悲しいこと。みんなとの思い出でいっぱいにしていたかったの。この先ずっと生きていたらどんどん新し…情報が入ってくる。この記憶が薄……しまうのが、すごく怖かったの」
その時はじめて、彼女が機械の肉体という半永久的な命より、かつての我々のような運命に定められた命に生きることを望んだのだと分かった。彼女は未来と引き換えに今ある思い出を選んだのだ。
それまで無機質に見えた顔が、どこか物悲しさが混じった顔をしている様だった。それが何よりも人間らしいとさえ思えた。
(1010字)
今回は書いていたら筆が進んでしまいました。字余り御免!
こういうのを書いていると人間とかAIとかってホントなんなんだろうと思考の海にどっぷりつかってしまいます。なお、答えは出ない模様。
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