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誘惑銀杏【毎週SS】

週末は出前の注文が増えるのは自然のことだ。
それが大雨の日だろうとそんなことは
注文した側からすれば関係はない。

向かい風の中、降り注ぐ雨粒に向かって自転車をこぐと
デリバリーというものを複雑に感じるようになった。

「あと2件か」
大通り脇の公園のバリケードを手際よく潜り抜ける。
普段は自転車の通行は禁止されているが、
ショートカットとして知る人ぞ知る隠れ道となっていた。

すでに予定時刻より10分近く遅れている。
猛スピードで通りを駆け抜けていった時だった。

「ああ、どうして」

雨雲の切れ間、日の当たるの向こうに
彼女の姿があった。

もう会うことはないと思っていたのに、
それでも微笑みかけてくる彼女に
向かわずにはいられない。



…………さん

「……さん、聞こえますか?」

気が付くと私は、病院のベッドに寝込んでいた。
「気が付かれましたか? 
ああご心配なさらず、軽いねん挫と脳震とうです」
医師はそう言うと看護師と共に部屋を出ていった。
その際微かに聞こえた会話が

「これで何件目だ?」
「事件じゃないと良いんですけどね」

後から見舞いに来た警官から聞いた話だが、
あの公園の銀杏並木では、似たような事故が立て続けに発生しているらしい。
(496文字)


本日9月1日は防災の日。

毎年言っている気がしますが、
今年の雨・風・雷、いずれも凄まじいものです。
特にこの数年、雨音で夜中に目が覚めることが増えた私です。

皆様もどうぞご用心ください。

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Ganmo
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