
ひと夏の人間離れ【毎週SS】
先日、私は文献にあった河童の里をとうとう見つけた。
幸いなことに彼らは人間に対して友好的であり、
とても貴重な話を聞くことができた。
「昔と違って、あたしらも大分数が減りました」
「何より人と会うこともそうなくなってますからね」
「最初人間の学者先生がやって来たなんて聞いた時は、
そりゃあもう大騒ぎでしたよ。そんなのいつ以来だってね」
「人との交流は昔から定期的にあったのですか」
「ええもちろん。ただ、人間と関わろうなんて変わり者ぐらいしかいませんし、人間が嫌いな連中のほうが多かったもんですから」
「そうした連中に見つからんようにこっそり住まわして、
騒ぎになる前に元の場所へ帰してやったもんですわ」
里での暮らしはあっという間だった。
はじめは河童しかいないという光景に戸惑ったが
今ではこれが自然とさえ思えるほどだ。
「もうよろしいのですか。やり残したことはございませんか」
一緒に魚釣りもやった。
きゅうり畑も見せてもらった。
相撲もとった(結局一度も勝てなかったが)
民俗学者としてこれほどの成果が他にあろうか。
「ええ。最高の夏休みでした」
「それはようございました。どうかお元気で」
かたい握手を交わし、私は里を後にした。
「で、その時の記憶をすっかり忘れちゃったと?」
「ううむ……」
大学に戻った初日、意気揚々と論文をまとめようとした私だったが、
その間のことを全く思い出せずにいた。
「教授は働きすぎです。いっそ後任に譲ったらどうです?」
その後も、私の話を信じる者はいなかった。
(625文字)
夜寝る前に、
「おっ、これはいいアイデアだ!」と思うことがあったら
めんどくさくてもメモは残しておくべきだと痛感しています。
翌朝、忘れて思い出せなくてもやもやする私です。
企画概要はこちらから。
あと、私事で恐縮ですが
先日投稿した「非情怪談」のお題でたらはセレクションに選ばれました。
いつも選考、お題投稿本当にありがとうございます。
こちらがそのお話。
いいなと思ったら応援しよう!
