気まぐれショートショート 着の身着のままゲーム機
ある朝、若い僧侶が和尚に尋ねた。
「私は未だ欲を捨てきれません。和尚はどのようにして欲を捨て去ったのですか」
和尚はにこりと微笑んで、自分の居間に通した。
「私も全ての雑念を捨てきれたわけではないのですよ。例えばこれをご覧なさい」
和尚はテレビの下のデッキから黒い箱のようなものを取り出した。
「何に見えます?」
「黒い箱です」
「ゲーム機」
「は?」
「ゲーム機です。私、昔から好きなんですよ」
僧侶は改めて黒い箱を隅々見渡すが、しかしどう見てもただの箱である。
「ケーブルはどちらに?」
「ワイヤレスです」
「ソフトを入れる場所は?」
「今はネットでダウンロードの時代ですよ」
「第一電源ボタンがありません」
「電源ならあります。ほらここ」
箱の天辺を指さす和尚。
押せと言うのか。
僧侶はそこにボタンがあるかのように指を触れる。
「どうです」
「何が?」
「見えてきませんか。フルHDの画面が」
「そこは4Kじゃないんですね」
2人はしばらくじっと黒い画面を見続けていた。
(415文字)
蛇足
私は小さい頃、別に手先が器用ではないものの自分で手を動かして何かを作るのが好きだったようで、当時欲しいおもちゃがあっても親に勝手もらえる見込みがなければ、ハサミとのりと材料をかっさらって代替品を作って遊ぶきらいがありました。
その結果、良くも悪くも
「無いなら無いで自分でどうにかすりゃいい」
の精神が芽生えた訳ですが。
ただ、大人になって思うのは、
叶う叶わないは別として、
悪意のない「ああしたい、こうでありたい」という願いを素直に言える方が得だとは思います。
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