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突然の来訪者

前回からの続きになります。

パチンコで生活していくことに少しずつ疑問を抱いていた21歳の冬。

朝の8時過ぎぐらいのことだったでしょうか。

突然、彼女と一緒に暮らしていた家のインターホンがなりました。

まだほとんど友人を招いたこともなければ、この家を知っているのは、ほんの数人だけだったので、
こんな時間に誰だろう?
とインターホンのモニターを見たのですが、そこに立っていたのは、父が経営する会社の社員でした。

その社員は昔からいた人で、僕が幼稚園ぐらいの頃からの付き合いをしている人だったのですが、僕がこの場所に住んでいることは知らないはずなのに、ここに来ている事が不思議でした。

とりあえず玄関を出てみると

「社長が家におらん。俺達の給料が払われず、もう1週間になる。どこにおるかしらんか?」

と問われました。

父とは2、3ヶ月に1度、少し電話するくらいの仲になっていたので、何処にいるのかなどを知る由もなかったのですが、その事が起こる半年ほど前に

「近々、一緒に住んでいる彼女の実家へ訪れる為、フィリピンにいってくる。」

という話は聞いていたので、もしかすると遊びに行っていて給料日を忘れているんじゃないかと思い、父に電話をしてみることに。

「この番号は、現在使われておりません。」

信じられないことに、父までもが行方をくらましてしまったのです。

僕は頭が真っ白になりました。

母は連絡がついたものの、何処にいるのかの場所は教えてもらえていなかったので、僕は両親の居場所を知らないことになってしまったのです。

昔から仲の良い家族として、僕はたくさんの愛情を注いでもらっていたと思っていました。

それがこんな形で、家族全員がバラバラになってしまい、各々がどこにいるかどうやって暮らしているかもわからない状況になり、信じられない気持ちとやるせなさと怒りで震えていました。

昔からの付き合いがある人とはいえ、僕はもう正気ではいられませんでした。

社員の人も家族もいれば、他に付き合いがあったり、人を使う仕事もしていたので困っていたことは理解はしていたのですが、僕自身もお金に余裕があるわけでも無ければ、両親を失ってしまったと同時に、裏切られたという気持ちでいっぱいでした。

僕は社員の人に言いました。

「ほんとに申し訳ないけど、俺も気持ちに余裕が無い。親父のことは本当になにも知らないし、なんの手がかりもない。だから帰ってくれ。」

こうやって言うことしか出来ず、僕はしばらく家から出ることが出来なくなりました。

それからというものの、毎日朝晩に電話が鳴り、週に何度も僕の家を訪れてきては、怒声を浴びせられたり、時には優しく言われり、とそんな日々が続いていくことに僕は心底嫌気がさした。

彼女もこんな生活はもう耐えれない、ということもあり、僕自身が悪いことをした訳では無いのですが、半ば夜逃げするような形で、家を飛び出すことにしました。

行き先は何も知らない土地に行くよりは、大学で出てきた近畿地方ならば、少しは土地感もあり住みやすいと思い、再び近畿地方へ戻ることに。

この時にまた、せっかく返済をした消費者金融のカードを使い、お金を借りることになったのです。

とりあえず何も知らない土地では、パチンコなんかで食っていける程の実力もなかったので、過去に経験のあったパチンコ屋で働くことにしました。

ケータイの番号も変えたかったのですが、いつか父から電話が来るかもしれないことと、僕から電話をしても出ることの無い、母からの電話が繋がらなくなることが嫌で、それは出来ませんでした。

そして約1年が経とうとした時、郵便受けに見たことの無い配達物がありました。

そこに書いてあったのは、僕の名義のクレジットカードの料金未払い書でした。

これまでクレジットカードなんて作った記憶もなければ、手元にカードがある訳でもなく、消費者金融でしかお金を借りたことがないことに加え、料金は払っていたのに何故なのかが理解できないまま、配達物をあけてみました。

「料金未払い金額 100万円」

目の前が真っ白になり意味がわかりませんでした。

いつ、どこで…

と考えていた時に、ふと思い出したのです。

父が行方をくらます前で、僕がまだ父の会社で働いていた時、父から

「冷蔵庫が壊れてしまって、ワシはローンが組めんから、ローン組んで冷蔵庫買ってくれんか?そのカードはワシが持っといて、それはワシが払うから。」

と言われ、カードの契約書にサインをしていたことを。

僕は父のことは信頼していたので、なんの疑問も思わずそれまで生活をしていたので、カードのことなど頭から消えていたのです。

それをまさかこんな形で使われるとは…

結果的に父は、社員7名分の給料と僕のカードから借りた100万円を持って、どこかへ消えてしまった。

僕は両親が蒸発してからというものの、変に肝が座ったことと、多少のことでは動じなくなっていたのですが、この時はもう怒りを通り越し、半分呆れて笑ってしまいました。

僕はこの時まで、一生懸命働いてはお金を返し、ほんの少しの贅沢で食べ放題にいったりしていたのですが、これをキッカケに全てがどうでもよくなり、お金を返さなくなり、働く気力さえ失い、そばにいる大切な人すら大事に思えなくなってしまいました。

「今は一緒にいてくれても、どうせいつか俺の事を裏切るんだろう。
もう誰も信用しないし、信頼もしない。
俺は誰のいいなりにもならないし、俺は好きに生きる。
しったこっちゃない。
自分の人生を、自分の意思とは無関係にグチャグチャにされてんのに、なんで頑張らないといけないんだ。
何のために!!」

そう強く思うようになりました。

不貞腐れることなく地道に頑張っていれば、今頃僕は借金も終わって、また新たなスタートを切っていれたであろうに、その気持ちをそこから6年程は捨てきれず、どうせ稼いだって、意味のわからん自分で借りた訳でもない借金に消えていくのならば、好きに使ってやれ。
と自暴自棄に陥りました。

このようなめちゃくちゃな生活をしてしまったせいで、色々なものが膨れ上がり、のちの自分をより一層苦しめることになるともしらず…

まだあと何話か続いていきます。

現在の自分の場所までは必ず書いていこうと、心に決めたnote。
見てくださっている方々、本当にありがとうございます。
もうしばらくお付き合いください。



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