背伸びをした自分を写す足もと・有明ガーデン
夫婦で暮らす狭いマンションの部屋から青山パークタワーがよく見える。錬金術を手にし、そしてマスコミを抑え込んだジャニー喜多川氏の、現代のハーレムを具現化した最上階の部屋は死後10億で売りに出されたというが、そんな事故的物件をも持て余した富の出口として簡単に買い手がつくのであろう。
パークタワーは渋谷だが、隣接する、不動産業界的に「3A」と呼ばれる「麻布・広尾」「青山・神宮前」「赤坂・六本木」エリアには、そんな金額の売買が日々淡々と行われている。そのこと以上に、昨年父が死に何も残さなかったので相続を放棄した私が驚くのは高台の超高級住宅街に建つ百坪超のお屋敷たちが土地が細分化されることなくバトンが代々継がれているという現実で、庶民の見栄などドングリの背比べでしかないことを痛感させられる。
今月入居が開始されたというので晴海フラッグを見に行った。人の暮らしはほとんど始まってはいないが、私のようなもの好きがうろついていた。埠頭の入口から旅客ターミナルまで続いていた無機質な空き地はマンション街に変わったが、突貫で造った元選手村故か、土地の利用に工夫がなく、とてものっぺりとした印象で、皆が飛びついた「お値段以上」の価値は少なくとも見出だせなかった。ただ、オリンピック開催時には入口が閉鎖され、そこをジョギングする各国のランナーを豊洲大橋から羨ましげに眺めた運河沿いの緑道は晴海橋梁手前まで繋がり、晴海橋梁の遊歩道化後は春海橋公園、豊洲ぐるり公園と結ばれ、恐らく10キロ近くの車道・信号のない長大な遊歩道は魅力的ではある。
有明ガーデンはぐるり公園の遊歩道を有明北橋手前から外れて数百メートルほど先にある。スーパーから日用品まで販売するショッピングモールは当然、周辺に住むタワマン層が対象である。
夫婦共働きで、お互いの所得合わせある程度の世帯年収を超えると銀行は気前良くお金を貸してくれるようで、それこそ手を伸ばして「夢のような」生活を掴んだ気にさせてくれるのが豊洲や有明地区のタワマンなのだろう。しかし、薄っぺらい夢の世界に足を踏み入れると、最初は「タワマン住民」になることだけで満たされていた自尊心も子供の教育費など想像を超えたお金が消えてゆく。その生活防衛のための調整地として、驚くほど陳腐な店が並ぶモールが、銀座三越と一本道で4キロしか離れていない場所に建てられているのは東京のリアルな一面といえる。
都心で暮らしていると、大きなイオンに行きたい気持ちが唐突に湧くときがあり、郊外のマップを調べる。そんな必要はないのだと、有明ガーデンにたまに通わせてもらっている。