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障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案について調査しました。



はじめに

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案について
NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員の依頼により調査いたしましたのでその内容を公開します。
なお、以下のように呼ぶことにします。

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律→教科書バリアフリー法
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案→本法案/この法案


本法案の概要

外国人児童生徒等が、音声教材を使用して学習することができることように、
①日本語に通じない児童生徒の学習の用に供するための特例規定の新設
②著作権法の関連規定の整備 
を行うため障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(通称:教科書バリアフリー法)の一部を改正する法律案です。


結論(筆者の賛否)

結論から申し上げると、私はこの法案に反対です。
この法案には、後から詳しく説明する通り多くの問題点があるためです。


【参考】教科書バリアフリー法のこれまで


多くの方は改正される教科書バリアフリー法について詳しくないかと思われます(調べる前の私もそうでした)ので、教科書バリアフリー法がどういう法律でどんな経過をたどってきたかをまとめました。

なお、十分ご存じの方は本法案の基本データまで読み飛ばしていただいても構いません。


教科書バリアフリー法の基本データ

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律
法律番号:平成20年法律第81号
公布年月日:平成20年6月18日
通称:教科書バリアフリー法, 教科用特定図書等普及促進法
法令の形式:法律
提出回次:第169回国会*1
種別 参法 *2
提出番号:26
提出者 文教科学委員長 *3
提出年月日 平成20年6月5日 *4
成立年月日 平成20年6月10日 *4

日本法令索引より一部引用

*1
第169回国会
平成20年(2008年)1月18日に召集された通常国会です。
福田内閣の下、自民などの与党が衆議院では多数を占めますが、参議院では過半数割れしており、参議院の第一党は民主党でした(ねじれ国会)。
通称:ガソリン国会

*2
法案は内閣、衆議院議員、参議院議員が提出でき、それぞれ「閣法」「衆法」「参法」と言います。教科書バリアフリー法案は参議院議員の提出した法案なので参法となります。

*3
国会法の規定により国会の委員会は自らの管轄する事項に関して法律案を提出できます。このとき提出者は当該委員会の委員長となります。
教科書バリアフリー法案は文教科学委員会が提出したので文教科学委員長が提出者となっています。

*4
提出してから5日後と極めて早期に成立したことがわかります。


教科書バリアフリー法の内容

①教科書デジタルデータの提供(第5条関係)
 教科書デジタルデータの文部科学大臣等※への提供を教科書発行者に義務づけ
提供されたデジタルデータは、ボランティア団体など教科用特定図書等※の作成者に提供
※「教科用特定図書等」:教科用拡大図書、教科用点字図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るもの
※「文部科学大臣等」:文部科学大臣又は文部科学大臣が指定する者

②標準的な規格の策定・公表(第6条関係)
文部科学大臣は、教科用特定図書等について、標準規格を策定・公表 
教科書発行者は、標準規格に適合する教科用特定図書等を発行する努力義務を負う
③教科用特定図書等の無償給与(第10条~第16条関係)
小中学校の通常学級における教科用特定図書等の無償給与について法定化
標準教科用特定図書等の需要数報告について法定化

文科省ホームページ資料を一部編集

1.教科用特定図書等の作成者が教科書デジタルデータの円滑に利用できるようになること。
2.特別支援学級でなくとも、教科用特定図書等の無償給与の対象となること。
が教科書バリアフリー法の主たる目的と言えます。

一、国は、教科用特定図書等の普及の促進等のため、必要な措置を講じなければならないこととするとともに、教科書発行者は、その発行する検定教科用図書等について、適切な配慮をするよう努めること
(中略)
四、国は、教科書発行者による電磁的記録の提供方法等に関し、助言その他必要な援助を行うとともに、発達障害等のため通常の文字や図形等の認識が困難な児童生徒が使用する教科用特定図書等の整備充実を図るための調査研究等を推進すること。
五、小中学校及び高等学校において、視覚障害等の児童生徒が、採択された検定教科用図書等に代えて、教科用特定図書等を使用することができるよう、必要な配慮をするとともに、国及び地方公共団体は、教科用特定図書等の発行に関する情報の収集・提供その他必要な措置を講ずること。
六、国は、小中学校に在学する視覚障害等の児童生徒が検定教科用図書等に代えて使用する教科用特定図書等を小中学校の設置者に無償給付し、設置者は、各学校の校長を通じてこれらの児童生徒に給与すること。
七、標準教科用特定図書等の円滑な発行を確保するため、その需要数を…文部科学大臣は発行者に通知をするものとすること。
九、国は、高等学校に在学する障害を有する生徒が使用する教科用拡大図書等の普及の在り方及び特別支援学校に就学する児童生徒への援助の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずること。

参議院ホームページより抜粋

その他に、上記の教科書事業者の努力義務や国の責務なども盛り込まれました。


教科書バリアフリー法成立の経緯

この法律成立の大きな契機として、それまで拡大教科書供給促進のために尽力されてきた筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野和博氏が、2007年10月に「教科書バリアフリー法私案」を公表されて賛同者を募り、関係方面への働きかけを精力的に進められたことがあげられる。障害者放送協議会著作権委員会としても2007年5月と7月の2回にわたり、文化審議会著作権分科会の小委員会において意見発表の機会を得て、「障害者の情報保障や学習権の保障を進めるためには、著作権法の改正と教科書バリアフリーの課題がセットで解決されるべき」との提言をしたところであった。

 法案審議の過程では、出版の義務化が必要との意見もあったようだが、これは見送られて出版社の努力義務とすることで決着をみた。その代償というべきか、ボランティア団体等へのデジタルデータ提供が義務づけられることとなった。また拡大教科書供給に関する責務は国が負うものと明確化されたことで、今後の全般的な供与状況の改善が期待される。

 ただし、拡大教科書の「標準規格」や、ボランティア団体等に提供されるデジタルデータの種類、提供方法、管理方法などについては、2008年4月21日に文部科学省が設置した「拡大教科書普及推進会議」において現在も検討中であり、今後の動向に注目する必要がある。

障害保健福祉研究情報システムより引用

前の引用にも登場した筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野和博教諭は成立当時こう述べています。

2008年8月25日
「教科書バリアフリー法」成立と今後の展望

 2008年6月10日、衆議院本会議において「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案」いわゆる「教科書バリアフリー法案」が全会一致で可決され、成立しました。これは3月に民主党から参議院に提案されていた「教科書バリアフリー関連三法案」を基に、与野党協議を経て、超党派の議員立法として再提案されたものです。
(中略)
2.教科書バリアフリー法の意義と残された課題
 (中略)教科書出版社による拡大教科書の発行は、当初の民主党案では、罰則規定のある義務とされておりましたが、最終的な与野党合意案では努力義務規定となりました。(中略)一般の高等学校における拡大教科書や点字教科書の費用負担についてですが、当初の民主党案では、高校における拡大教科書や点字教科書等の費用負担について、原本の検定教科書との価格差を国が補償するという項目が盛り込まれておりました。しかし、与党との修正協議で、この条項は削除されてしまいました。なぜ、盲学校の高等部で拡大教科書や点字教科書が無償であるにも関わらず、また晴眼の高校生の費用負担は検定教科書代だけにも関わらず、視覚障害児が一般の高校に進学した場合、検定教科書の数十倍にも及ぶ拡大教科書等の費用を全て自己負担しなければならないのでしょうか。この不平等な状態は、憲法が定める法の下の平等に定職するのではないかと思います。
 少し拡大教科書の話から外れますが、もう一つ当初の民主党案から後退したものがあります。盲学校の理療科・保健理療科における音声教科書の費用負担軽減です。(中略)当初の民主党案ではこの音声教科書の購入費の費用補助と言う条項が盛り込まれておりましたが、与党との修正協議によりこれも削除されてしまいました。

LVCの部屋より引用

当初の民主党案より妥協的な法律として成立したことがうかがえます。
しかし

169回国会 参議院 文教科学委員会 第9号 平成20年6月5日
    ─────────────
○委員長(関口昌一君) 教育、文化、スポーツ、学術及び科学技術に関する調査のうち、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案に関する件を議題といたします。
 本件につきましては、理事会において協議をいたしました結果、お手元に配付しておりますとおり、草案がまとまりました。
(中略)
 それでは、本草案を障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案として本委員会から提出することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(関口昌一君) 御異議ないと認めます。よって、さよう決定いたしました。
 なお、本会議における趣旨説明の内容につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(関口昌一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 この際、林君から発言を求められておりますので、これを許します。林久美子君。
○林久美子君 私は、民主党・新緑風会・国民新・日本、自由民主党・無所属の会及び公明党の各派共同提案による障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。
 (中略)
 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○委員長(関口昌一君) ただいまの林君提出の決議案の採決を行います。
 本決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(関口昌一君) 全会一致と認めます。よって、本決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
    ─────────────
第169回国会 参議院 本会議 第25号 平成20年6月6日

○議長(江田五月君) 日程第一 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案(文教科学委員長提出)を議題といたします。
 まず、提出者の趣旨説明を求めます。文教科学委員長関口昌一君。
     〔関口昌一君登壇、拍手〕
○関口昌一君 ただいま議題となりました法律案につきまして、文教科学委員会を代表して、提案の趣旨及び主な内容を御説明申し上げます。
 (中略)
 何とぞ速やかに御賛同くださいますようよろしくお願い申し上げます。(拍手)
    ─────────────
○議長(江田五月君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
○議長(江田五月君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
○議長(江田五月君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数         二百三十一  
  賛成           二百三十一  
  反対               〇  
 よって、本案は全会一致をもって可決されました。(拍手)
    ─────────────
  第169回国会 衆議院 文部科学委員会 第16号 平成20年6月10日

○佐藤委員長 これより会議を開きます。
 参議院提出、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案を議題といたします。
 趣旨の説明を聴取いたします。参議院文教科学委員長関口昌一君。
    —————————————
 (中略)
    —————————————
○佐藤委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
    —————————————
○佐藤委員長 本案につきましては、質疑、討論ともに申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。
 参議院提出、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案について採決いたします。
 本案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○佐藤委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
    —————————————
○佐藤委員長 ただいま議決いたしました本案に対し、塩谷立君外四名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党、日本共産党及び社会民主党・市民連合の五派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 提出者から趣旨の説明を求めます。和田隆志君。
(中略)
○佐藤委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○佐藤委員長 起立総員。よって、本案に対し附帯決議を付することに決しました。
    —————————————
第169回国会 衆議院 本会議 第38号 平成20年6月10日

○議長(河野洋平君) 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案を議題といたします。
 委員長の報告を求めます。文部科学委員長佐藤茂樹君。
    —————————————
 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律案及び同報告書
    〔本号末尾に掲載〕
    —————————————
    〔佐藤茂樹君登壇〕
○佐藤茂樹君 (略)
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    —————————————
○議長(河野洋平君) 採決いたします。
 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
     ————◇—————

国会議事録より

この議事録からもわかる通り事前の協議によって決まってしまっており、 その審議は非常に形式的であったので、今となっては 一般の国民にはよくわからないものとなっています。


これまでの改正について

これまで3回の改正が行われてました。何れの改正も技術的(かつ、小規模な)改正です。


1.
平成27年法律第46号〔学校教育法等の一部を改正する法律附則一八条による改正〕

小中一貫教育を実施することを目的とする「義務教育学校」の制度が新設されることに伴う改正です。
従来中学校について適用されていた規定が義務教育学校にも適用されます。


2.
平成28法律第47号〔地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律附則三八条による改正〕

公立大学法人による附属学校の設置が可能になることに伴う改正です。
公立大学法人が設置する学校となる場合、教育委員会の管理から外れるため
同じく教育委員会の管理に属さない国立・私立学校と同様の取り扱いとなるよう改正されました。


3.
平成30年法律第39号〔学校教育法等の一部を改正する法律附則五条による改正〕

教育課程の一部において、教科用図書に代えてその内容を記録した電磁的記録である教材を使用することができるようになることに伴う改正です。
当該電磁的記録も検定教科用図書と同様の取り扱いとなるよう改正れました。


本法案の基本データ

議案種類 衆法

議案件名 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案

議案提出者 文部科学委員長

衆議院議案受理年月日 令和 6年 5月29日

衆議院付託年月日/衆議院付託委員会 / 審査省略

衆議院審議終了年月日/衆議院審議結果 令和 6年 5月30日 / 可決

衆議院審議時会派態度 全会一致

衆議院審議時賛成会派 自由民主党・無所属の会; 立憲民主党・無所属; 日本維新の会・教育無償化を実現する会; 公明党; 日本共産党; 国民民主党・無所属クラブ; 有志の会; れいわ新選組

衆議院審議時反対会派 

参議院予備審査議案受理年月日 令和 6年 5月30日

参議院予備付託年月日/参議院予備付託委員会 /

参議院議案受理年月日 令和 6年 5月30日

議案提出者一覧 田野瀬太道君

衆議院のホームページ

提出されてから1日とかなり速く、衆議院を通過したことがわかります。


本法案の内容

本法案の内容

 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(平成二十年法律第八十一号)の一部を次のように改正する。

 附則第三条を次のように改める。

 (第五条第二項の規定による電磁的記録の提供の特例)

第三条 第五条第二項の規定により電磁的記録の提供を行うことができることとされた教科用特定図書等の発行には、当分の間、障害のある児童及び生徒並びに日本語に通じない児童及び生徒の双方の学習の用に供するために行う教科用特定図書等の発行を含むものとする。

今まで

 附則第五条を附則第六条とする。

 附則第四条中「(昭和四十五年法律第四十八号)」を削り、同条を附則第五条とし、附則第三条の次に次の一条を加える。

 (著作権法の特例)

第四条 前条に規定する障害のある児童及び生徒並びに日本語に通じない児童及び生徒の双方の学習の用に供するために行う教科用特定図書等の発行並びに当該発行に係る教科用特定図書等についての著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十三条の三第一項及び第二項、第八十六条第三項並びに第百二条第三項の規定の適用については、同法第三十三条の三第一項中「できる」とあるのは「できる。この場合において、複製された著作物は、当該著作物が掲載された教材を当該障害又は日本語に通じないことにより教科用図書に掲載された著作物を使用することが困難な児童又は生徒の学習の用に供するために増製し、又は提供し、若しくは提示するために必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」と、同条第二項中「当該教科用拡大図書等を頒布する」とあるのは「、当該教科用拡大図書等を頒布し、又は当該教科用拡大図書等によつて当該著作物の公衆送信を行う」と、同法第八十六条第三項中「第三十三条の三第四項」とあるのは「第三十三条の三第一項及び第四項」と、同法第百二条第三項中「レコードを」とあるのは「レコードについて、」と、「その複製物」とあるのは「、送信可能化を行い、若しくはその複製物」とする。

   附 則

 この法律は、公布の日から起算して一月を経過した日から施行する。

     理 由

 障害のある児童及び生徒のために作成されている教科用特定図書等が、教科用図書の使用に困難を有する日本語に通じない児童及び生徒にとっても有用であること等に鑑み、これらの者が教科用特定図書等を使用して学習することができることとなるよう、当分の間、文部科学大臣等が検定教科用図書等に係る電磁的記録の提供を行うことができることとされた教科用特定図書等の発行には、障害のある児童及び生徒並びに日本語に通じない児童及び生徒の双方の学習の用に供するために行う教科用特定図書等の発行を含むものとするとともに、教科用特定図書等の発行のための著作物の利用に係る権利制限規定の対象者の範囲を拡大する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院ホームページより

要約すると次のとおりです。
1.電磁的記録の提供の特例
 教科書デジタルデータの提供を行うことができる教科用特定図書等の発行には、当分の間、障害のある児童及び生徒並びに日本語に通じない児童及び生徒の双方の学習の用に供するために行う教科用特定図書等の発行を含むものとすること。
2.著作権法の特例  
1.に規定する教科用特定図書等についての著作権法の規定の適用について、必要な読替えを行うこと。
3.施行期日  
この法律は、公布の日から起算して一月を経過した日から施行すること。 



法案提出に至る経緯

 この方法の提出に関する情報が少なく確かではないですが、おそらくこの法案の提出に繋がった上であろう文科省の会議が存在します。
外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議です。

その報告書には次のように記されています。

ICT 教材の利用に係る今後の方向性と課題、留意点
 ○外国人児童生徒等の支援のための音声教材や学習者用デジタル教科書の活用は、効果的であると期待され、推進していくべきものと考えられるが、その実現に向け、国が行うべき主な取組は以下のとおり。
 【音声教材について】 
・ 現行制度上、著作権法第33条の3規定に基づき、障害のある児童生徒向けに作成されている音声教材は、外国人児童生徒等に提供することができない。このため、関係団体の理解を得た上で、制度を見直すこと。その際、インターネットを利用した提供も可能とすべき。また、著作権者の利益が不当に害されることのないよう留意する必要があり、特にインターネットを利用した送信を行う場合、対象となる児童生徒等以外にデータが流出することを防止するための対策を取ることが重要。 

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/1419671_00001.htm

国会での審議経過

国会での審議について文字起こしいたしましたのでご覧ください。

衆議院 文部科学委員会
2024年5月29日 (水)

田野瀬太道(文部科学委員長)
次に、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案起草の件について議事を進めます。
本件につきましては、かねてより各会派間において御協議いただいておりましたが、理事会等において協議いたしました結果、お手元に配付いたしておりますとおりの起草案を得ました。
本寄贈案の趣旨及び内容につきまして、委員長から御説明申し上げます。
近年、我が国に在留する外国人が増加していることに合わせて、日本語指導が必要な児童生徒の数は大幅に増加しております。
文部科学省の調査によれば、令和3年度時点における公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒の数は、約5万8000人であり、平成20年度の約1.7倍となりました。
このような外国人児童生徒等は、日本語に通じないことにより文字の読み書きに問題があり、教科書の使用に困難を抱えていることが少なくありません。
その困難の程度は、軽度なものばかりではなく、支援の重要性は高いといえますが、外国人児童生徒等の背景や置かれた状況により、抱える困難が異なることなどから、学校現場において教員等が個別に対応しているのが現状です。
一方、障害により、通常の紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒が利用できる、教科用特定図書等としての音声教材等の活用が広まってきております。
音声教材は、使用者が随意のタイミングで教科書の音声情報を入手できる機能を持つことなどから、外国人児童生徒等が抱える困難を軽減させるためにも有効であるとされています。
しかし、現状では音声教材は障害のある児童生徒を対象として作成されていることから、外国人児童生徒等はこのような教材を使用して学習することができません。
そこで本案は、このような現状を踏まえ、日本語に通じない外国人児童生徒等が音声教材を使用して学習することができるよう、必要な改正を行うものであり、その主な内容は次のとおりであります。
第一に、当分の間、文部科学大臣等は音声教材等の教科用特定図書等を発行する者が、障害のある児童生徒及び日本語に通じない児童生徒の両者の学習のように教するために、教科用特定図書等を発行する場合にも、教科書デジタルデータを提供することができることとしております。
第二に、教科書デジタルデータの提供を受け、発行された教科用特定図書等に掲載された著作物について、その利用に係る著作権法の特例を設けるものとしております。
第三に、この法律は交付の日から帰算して、一月を経過した日から施行することとしております。以上が本起訴案の趣旨及び内容であります。お諮りいたします。
本起訴案を委員会の成案と決定し、これを委員会提出の法律案と結するに賛成の諸君の起立を求めます。
起立・総員。
よってそのように決しました。
なお、本法律案の提出手続等につきましては、委員長に御一任お5願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

(異議なしと発言あり)

田野瀬太道(文部科学委員長)
御異議なしと認めます。
よってそのように決しました。
次回は広報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。
お疲れ様でした。

衆議院インターネット審議中継より

額賀福志郎(衆議院議長)
日程第2は、委員長提出の議案でありますから、委員会の審査を省略するにご意義ありませんか。
ご異議なしと認めます。
日程第2、障害のある児童及び生徒のための教科書教会用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
委員長の報告を、委員長の趣旨弁明を許します。
文部科学委員長、田野瀬大道君。

田野瀬太道(文部科学委員長)
ただいま議題となりました法律案につきまして、提案の趣旨を御説明申し上げます。
本案は、障害のある児童生徒のために作成されている音声教材等の教科用特定図書等が、教科書の使用に困難を有する日本語に通じない児童生徒にとっても有用であること等に鑑み、これらのものが教科用特定図書等を使用して学習することができるよう、当面の間、当分の間文部科学大臣等は、教科用特定図書等を発行する者が、障害のある児童生徒及び日本語に通じない児童生徒の両者の学習のように教するために、教科用特定図書等を発行する場合にも教科書デジタルデータを提供することができることとするとともに、著作権法の関連規定を整備するものであります。
本案は昨5月29日文部科学委員会において、全会一致をもって委員会提出の法律案とすることに決したものであります。
何卒速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

額賀福志郎(衆議院議長)
採決いたします。本案を可決するに御異議ありませんか。

(異議なしと発言あり)

額賀福志郎(衆議院議長)
御異議なしと認めます。
よって本案は可決いたしました。

衆議院インターネット審議中継より

本法案の審議も非常に形式的なものだったとわかります。

8つの問題点 

調査の結果、8つの問題があることがわかりましたのでここで発表します。

A:内容上の問題

1.主たる対象が外国人である点

我が国に在留する外国人が増加していることに合わせて、日本語指導が必要な児童生徒の数は大幅に増加しております。
文部科学省の調査によれば、令和3年度時点における公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒の数は、約5万8000人であり、平成20年度の約1.7倍となりました。

衆議院ホームぺージより

この法案の主たる対象は この委員長の説明からも分かる通り外国人です。 そもそも、 外国人の教育政策はその当該外国に任せるべきです。確かに、 近年問題となっている 川口市の問題のように 、日本語の教育が行われないために日本語に解さない人が増えると、問題が発生のは確かです。しかしながら、 日本 にいる外国人の人数が増えたから、 それに対し公の場で議論せずに恩恵を与えるというのはあまりに安直ではないでしょうか。国会は議会です。議会で議論をせずどこででするのでしょうか?


2.附則・「当分の間」は妥当か?


当分の間とありますがこの国際化した社会では外国の児童生徒がどんどん少なくなっていくというのは考えづらいのではないでしょうか。 実質的に永続する可能性が高く、適切な検討の規定もない以上、附則でしかも「当分の間」と規定することは無責任なのではないかと思われます。


3.著作権者の権利が十分考慮されていない点。

関係団体の理解を得た上で、制度を見直すこと。その際、インターネットを利用した提供も可能とすべき。また、著作権者の利益が不当に害されることのないよう留意する必要があり、(略)

文科省の報告書に指摘があった通り 著作権者の権利を十分考慮する必要があるかと思われますが実際のところ 今回の法改正にはそれが反映されていないようです 。著作権者の権利が十分考慮されていない法律は問題と言えます。


4.文部科学省の裁量をより大きくする点。

はっきり言って 、教科書バリアフリー法の趣旨目的は十分に達成されたとは言えません 。それにも関わらず今回の法改正では さらに 文部科学省の採用が大きくなります。これは問題ではないでしょうか。

5.今まで指摘されてきた課題を踏まえた改正となっていない点


今までも課題が指摘されてきました。それにも関わらず今回の改正ではその課題は十分に踏まえられたとは言いません。
今までの課題を踏まえ 踏まえた改正を今回の改正で合わせて行うことが必要だったのではないでしょうか。


B:手続き上の問題

6.「当分の間」が終わる目処が立たない以上実質的な大改正であるのに国会における実質的審議が存在しない点

当分の間が先ほども指摘した通り終わる見度は立っていません。 それにも関わらず一時的な対応であるからと実質的な審議を怠ったとすれば 国会の責任を果たしたとは言えないでしょう。


7.財産権(著作権)を制約し、国の財産(提供を受けた教科書データ)をより使用させる法改正であるのに国会における実質的審議が存在しない点

この法律は著作権のあり方を変え、 国の財産をより多く利用させるという点で立法府たる国会の関与がより必要となる改正と言えます。
しかしながら、この法案の審議において実質的な審議がないのは問題です。


C:双方を含む問題

8.以上、多く問題点の存在にも関わらず、政府に何の行動も求めずただ裁量を与え、また政府を十分監督する意思がない点

以上の問題があるにも関わらず 政府に何の行動を求ず裁量を与え 、十分に 監督する意図がないのは問題といえます。


筑波大学附属視覚特別支援学校宇野和博教諭のご見解

本件調査に際して筑波大学附属視覚特別支援学校宇野和博教諭のご見解のご見解を伺いましたのでここに掲載いたします。

【筆者Gamishi】
初めてメールを差し上げます○○と申します。
今国会で提出された教科書バリアフリー法改正案について調査をしていたところ、教科書バリアフリー法の成立には先生のご尽力が大きいことを知りました。そこで失礼ながら先生のご見解を伺いたくメールいたしました。
質問は以下の通りです。

1 教科書バリアフリー法が成立してから16年が経とうとしています。
愚見ながら、宇野先生が『「教科書バリアフリー法」成立と今後の展望』http://www.lv-club.jp/hosyo/kousatu/kadai(080825).html
で指摘した課題は未だその大部分が解消されていないと思われますが如何でしょうか?

2 教科書デジタルデータを日本語を解さない児童生徒に対しても用いることができるよう改正することが、今回改正の主たる目的ですが、同時に障害のある児童生徒にとっても教科用特定図書等に掲載された著作物について、インターネットを用いた提供(公衆送信)などをすることを著作権者の許諾なくできるようになる点で一定の恩恵があると思われますが如何でしょうか?

【参考】衆議院法制局HP

法案https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18an.pdf/$File/213hou18an.pdf

概要https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18siryou.pdf/$File/213hou18siryou.pdf

要綱https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18youkou.pdf/$File/213hou18youkou.pdf

新旧対照表https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18sinkyu.pdf/$File/213hou18sinkyu.pdf

【宇野教諭】
○○様はじめまして。
筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野です。
以下、回答させていただきます。

1 教科書バリアフリー法が成立してから16年が経とうとしています。愚見ながら、宇野先生が『「教科書バリアフリー法」成立と今後の展望』http://www.lv-club.jp/hosyo/kousatu/kadai(080825).htmlで指摘した課題は未だその大部分が解消されていないと思われますが如何でしょうか?

A:解決されたものと未解決のものがあります。
2009年に著作権法37条3項が改正され、拡大やデータ化が認められるようになりました。
これにより、教科書以外の教材も著作権の問題に悩まされることなく、拡大やデータ化に取り組めることになりました。
2019年に読書バリアフリー法が制定されました。これにより、教科書以外の参考書や問題集のデータが買えるようになる見込みです。ただ、この制度設計に時間がかかっており、毎年開かれている読書バリアフリー法関係者協議会で議論を進めているところです。

高校段階の拡大教科書の自己負担については、昨年度から就学奨励費が適用になっているという情報があります。これについては、現在文部科学省に確認中です。課題としては、盲学校採択の教科書でさえ、標準的な規格通りに拡大教科書が発行されていないという状態になってきています。おそらく、ちょっとだれてきている感があります。

2 教科書デジタルデータを日本語を解さない児童生徒に対しても用いることができるよう改正することが、今回改正の主たる目的ですが、同時に障害のある児童生徒にとっても教科用特定図書等に掲載された著作物について、インターネットを用いた提供(公衆送信)などをすることを著作権者の許諾なくできるようになる点で一定の恩恵があると思われますが如何でしょうか?

A:ちょっと具体的な恩恵が思いつかないので、何とも言えません。
既に紙媒体で拡大教科書を使っている生徒にとっては、同じものをデータで受け取る必然性がないので、おそらく利用しないと思われます。
また、何らかの形でデジタル教科書を活用している生徒にとっては、既に端末内にデータがあるので、これまた同じものをネットを通して入手する必要性はないのかなと思っています。

以上、簡単ですが、ご回答させていただきます。

【途中何件かメールのやり取りがあったが筆者の都合により省略する】

宇野です(中略)
障碍のある児童生徒の教科書についてはまだ課題は残されています。
例えば中3の2月や3月に進学する高校が決まり、4月までに拡大教科書や点字教科書を用意するのは相当大変なことです。今は、拡大写本ボランティアや点訳ボランティア等の方々がご尽力されていますが、もっとOne Source, Multi Useを考慮し、教科書出版社が汎用性の高いデータを提供してくれればより迅速に効率的に高校段階の拡大教科書・点字教科書が製作できるものと思います。
昨日、文部科学省から確認が取れたのですが、高等学校における拡大教科書・点字教科書は2023年4月から就学奨励費を適用し、国費で賄われるようになったということです。
以上、取り急ぎ、用件のみにて失礼いたします。

まとめ

以上、自由主義、立憲主義及びその他の観点から検討した結果、多くの問題があることが分かりましたので、初めに述べた通り私はこの法案に反対します。

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