はじめに
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案について
NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員の依頼により調査いたしましたのでその内容を公開します。
なお、以下のように呼ぶことにします。
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律→教科書バリアフリー法
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律案→本法案/この法案
本法案の概要
外国人児童生徒等が、音声教材を使用して学習することができることように、
①日本語に通じない児童生徒の学習の用に供するための特例規定の新設
②著作権法の関連規定の整備
を行うため障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(通称:教科書バリアフリー法)の一部を改正する法律案です。
結論(筆者の賛否)
結論から申し上げると、私はこの法案に反対です。
この法案には、後から詳しく説明する通り多くの問題点があるためです。
【参考】教科書バリアフリー法のこれまで
多くの方は改正される教科書バリアフリー法について詳しくないかと思われます(調べる前の私もそうでした)ので、教科書バリアフリー法がどういう法律でどんな経過をたどってきたかをまとめました。
なお、十分ご存じの方は本法案の基本データまで読み飛ばしていただいても構いません。
教科書バリアフリー法の基本データ
*1
第169回国会
平成20年(2008年)1月18日に召集された通常国会です。
福田内閣の下、自民などの与党が衆議院では多数を占めますが、参議院では過半数割れしており、参議院の第一党は民主党でした(ねじれ国会)。
通称:ガソリン国会
*2
法案は内閣、衆議院議員、参議院議員が提出でき、それぞれ「閣法」「衆法」「参法」と言います。教科書バリアフリー法案は参議院議員の提出した法案なので参法となります。
*3
国会法の規定により国会の委員会は自らの管轄する事項に関して法律案を提出できます。このとき提出者は当該委員会の委員長となります。
教科書バリアフリー法案は文教科学委員会が提出したので文教科学委員長が提出者となっています。
*4
提出してから5日後と極めて早期に成立したことがわかります。
教科書バリアフリー法の内容
1.教科用特定図書等の作成者が教科書デジタルデータの円滑に利用できるようになること。
2.特別支援学級でなくとも、教科用特定図書等の無償給与の対象となること。
が教科書バリアフリー法の主たる目的と言えます。
その他に、上記の教科書事業者の努力義務や国の責務なども盛り込まれました。
教科書バリアフリー法成立の経緯
前の引用にも登場した筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野和博教諭は成立当時こう述べています。
当初の民主党案より妥協的な法律として成立したことがうかがえます。
しかし
この議事録からもわかる通り事前の協議によって決まってしまっており、 その審議は非常に形式的であったので、今となっては 一般の国民にはよくわからないものとなっています。
これまでの改正について
これまで3回の改正が行われてました。何れの改正も技術的(かつ、小規模な)改正です。
1.
平成27年法律第46号〔学校教育法等の一部を改正する法律附則一八条による改正〕
小中一貫教育を実施することを目的とする「義務教育学校」の制度が新設されることに伴う改正です。
従来中学校について適用されていた規定が義務教育学校にも適用されます。
2.
平成28法律第47号〔地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律附則三八条による改正〕
公立大学法人による附属学校の設置が可能になることに伴う改正です。
公立大学法人が設置する学校となる場合、教育委員会の管理から外れるため
同じく教育委員会の管理に属さない国立・私立学校と同様の取り扱いとなるよう改正されました。
3.
平成30年法律第39号〔学校教育法等の一部を改正する法律附則五条による改正〕
教育課程の一部において、教科用図書に代えてその内容を記録した電磁的記録である教材を使用することができるようになることに伴う改正です。
当該電磁的記録も検定教科用図書と同様の取り扱いとなるよう改正れました。
本法案の基本データ
提出されてから1日とかなり速く、衆議院を通過したことがわかります。
本法案の内容
要約すると次のとおりです。
1.電磁的記録の提供の特例
教科書デジタルデータの提供を行うことができる教科用特定図書等の発行には、当分の間、障害のある児童及び生徒並びに日本語に通じない児童及び生徒の双方の学習の用に供するために行う教科用特定図書等の発行を含むものとすること。
2.著作権法の特例
1.に規定する教科用特定図書等についての著作権法の規定の適用について、必要な読替えを行うこと。
3.施行期日
この法律は、公布の日から起算して一月を経過した日から施行すること。
法案提出に至る経緯
この方法の提出に関する情報が少なく確かではないですが、おそらくこの法案の提出に繋がった上であろう文科省の会議が存在します。
外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議です。
その報告書には次のように記されています。
国会での審議経過
国会での審議について文字起こしいたしましたのでご覧ください。
本法案の審議も非常に形式的なものだったとわかります。
8つの問題点
調査の結果、8つの問題があることがわかりましたのでここで発表します。
A:内容上の問題
1.主たる対象が外国人である点
この法案の主たる対象は この委員長の説明からも分かる通り外国人です。 そもそも、 外国人の教育政策はその当該外国に任せるべきです。確かに、 近年問題となっている 川口市の問題のように 、日本語の教育が行われないために日本語に解さない人が増えると、問題が発生のは確かです。しかしながら、 日本 にいる外国人の人数が増えたから、 それに対し公の場で議論せずに恩恵を与えるというのはあまりに安直ではないでしょうか。国会は議会です。議会で議論をせずどこででするのでしょうか?
2.附則・「当分の間」は妥当か?
当分の間とありますがこの国際化した社会では外国の児童生徒がどんどん少なくなっていくというのは考えづらいのではないでしょうか。 実質的に永続する可能性が高く、適切な検討の規定もない以上、附則でしかも「当分の間」と規定することは無責任なのではないかと思われます。
3.著作権者の権利が十分考慮されていない点。
文科省の報告書に指摘があった通り 著作権者の権利を十分考慮する必要があるかと思われますが実際のところ 今回の法改正にはそれが反映されていないようです 。著作権者の権利が十分考慮されていない法律は問題と言えます。
4.文部科学省の裁量をより大きくする点。
はっきり言って 、教科書バリアフリー法の趣旨目的は十分に達成されたとは言えません 。それにも関わらず今回の法改正では さらに 文部科学省の採用が大きくなります。これは問題ではないでしょうか。
5.今まで指摘されてきた課題を踏まえた改正となっていない点
今までも課題が指摘されてきました。それにも関わらず今回の改正ではその課題は十分に踏まえられたとは言いません。
今までの課題を踏まえ 踏まえた改正を今回の改正で合わせて行うことが必要だったのではないでしょうか。
B:手続き上の問題
6.「当分の間」が終わる目処が立たない以上実質的な大改正であるのに国会における実質的審議が存在しない点
当分の間が先ほども指摘した通り終わる見度は立っていません。 それにも関わらず一時的な対応であるからと実質的な審議を怠ったとすれば 国会の責任を果たしたとは言えないでしょう。
7.財産権(著作権)を制約し、国の財産(提供を受けた教科書データ)をより使用させる法改正であるのに国会における実質的審議が存在しない点
この法律は著作権のあり方を変え、 国の財産をより多く利用させるという点で立法府たる国会の関与がより必要となる改正と言えます。
しかしながら、この法案の審議において実質的な審議がないのは問題です。
C:双方を含む問題
8.以上、多く問題点の存在にも関わらず、政府に何の行動も求めずただ裁量を与え、また政府を十分監督する意思がない点
以上の問題があるにも関わらず 政府に何の行動を求ず裁量を与え 、十分に 監督する意図がないのは問題といえます。
筑波大学附属視覚特別支援学校宇野和博教諭のご見解
本件調査に際して筑波大学附属視覚特別支援学校宇野和博教諭のご見解のご見解を伺いましたのでここに掲載いたします。
【筆者Gamishi】
初めてメールを差し上げます○○と申します。
今国会で提出された教科書バリアフリー法改正案について調査をしていたところ、教科書バリアフリー法の成立には先生のご尽力が大きいことを知りました。そこで失礼ながら先生のご見解を伺いたくメールいたしました。
質問は以下の通りです。
1 教科書バリアフリー法が成立してから16年が経とうとしています。
愚見ながら、宇野先生が『「教科書バリアフリー法」成立と今後の展望』http://www.lv-club.jp/hosyo/kousatu/kadai(080825).html
で指摘した課題は未だその大部分が解消されていないと思われますが如何でしょうか?
2 教科書デジタルデータを日本語を解さない児童生徒に対しても用いることができるよう改正することが、今回改正の主たる目的ですが、同時に障害のある児童生徒にとっても教科用特定図書等に掲載された著作物について、インターネットを用いた提供(公衆送信)などをすることを著作権者の許諾なくできるようになる点で一定の恩恵があると思われますが如何でしょうか?
【参考】衆議院法制局HP
法案https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18an.pdf/$File/213hou18an.pdf
概要https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18siryou.pdf/$File/213hou18siryou.pdf
要綱https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18youkou.pdf/$File/213hou18youkou.pdf
新旧対照表https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/213hou18sinkyu.pdf/$File/213hou18sinkyu.pdf
【宇野教諭】
○○様はじめまして。
筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野です。
以下、回答させていただきます。
1 教科書バリアフリー法が成立してから16年が経とうとしています。愚見ながら、宇野先生が『「教科書バリアフリー法」成立と今後の展望』http://www.lv-club.jp/hosyo/kousatu/kadai(080825).htmlで指摘した課題は未だその大部分が解消されていないと思われますが如何でしょうか?
A:解決されたものと未解決のものがあります。
2009年に著作権法37条3項が改正され、拡大やデータ化が認められるようになりました。
これにより、教科書以外の教材も著作権の問題に悩まされることなく、拡大やデータ化に取り組めることになりました。
2019年に読書バリアフリー法が制定されました。これにより、教科書以外の参考書や問題集のデータが買えるようになる見込みです。ただ、この制度設計に時間がかかっており、毎年開かれている読書バリアフリー法関係者協議会で議論を進めているところです。
高校段階の拡大教科書の自己負担については、昨年度から就学奨励費が適用になっているという情報があります。これについては、現在文部科学省に確認中です。課題としては、盲学校採択の教科書でさえ、標準的な規格通りに拡大教科書が発行されていないという状態になってきています。おそらく、ちょっとだれてきている感があります。
2 教科書デジタルデータを日本語を解さない児童生徒に対しても用いることができるよう改正することが、今回改正の主たる目的ですが、同時に障害のある児童生徒にとっても教科用特定図書等に掲載された著作物について、インターネットを用いた提供(公衆送信)などをすることを著作権者の許諾なくできるようになる点で一定の恩恵があると思われますが如何でしょうか?
A:ちょっと具体的な恩恵が思いつかないので、何とも言えません。
既に紙媒体で拡大教科書を使っている生徒にとっては、同じものをデータで受け取る必然性がないので、おそらく利用しないと思われます。
また、何らかの形でデジタル教科書を活用している生徒にとっては、既に端末内にデータがあるので、これまた同じものをネットを通して入手する必要性はないのかなと思っています。
以上、簡単ですが、ご回答させていただきます。
【途中何件かメールのやり取りがあったが筆者の都合により省略する】
宇野です(中略)
障碍のある児童生徒の教科書についてはまだ課題は残されています。
例えば中3の2月や3月に進学する高校が決まり、4月までに拡大教科書や点字教科書を用意するのは相当大変なことです。今は、拡大写本ボランティアや点訳ボランティア等の方々がご尽力されていますが、もっとOne Source, Multi Useを考慮し、教科書出版社が汎用性の高いデータを提供してくれればより迅速に効率的に高校段階の拡大教科書・点字教科書が製作できるものと思います。
昨日、文部科学省から確認が取れたのですが、高等学校における拡大教科書・点字教科書は2023年4月から就学奨励費を適用し、国費で賄われるようになったということです。
以上、取り急ぎ、用件のみにて失礼いたします。
まとめ
以上、自由主義、立憲主義及びその他の観点から検討した結果、多くの問題があることが分かりましたので、初めに述べた通り私はこの法案に反対します。