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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』00・1日目 あかつき街道にて

* * *
 エルシアの谷に入って、数日経ったころ。私は、自分の荷物に羊皮紙とペンとがあるのを思い出しました。そこで、今日から日記を書いてみようと思います。
 デノヴァー、ブリンドル、ナイモン峠、テレルトンと順に越え、私たちはドレリンの渡しという町を目指して歩いていました。

 旅の仲間は5人と2匹。アローナの司祭長、アリリア=フェルさまのお引き合わせで、私たちは冒険の旅を共にすることになりました。エルシアの谷に来る前のことは、いつか書くやもしれません。二度の冒険を経て、私たちはひとつの意見の一致をみました。それは、「戦いで重要なのは位置取りであり、それを支える迅速な移動力である」という信念です。
 そこから、じゃあ旅路を同じくするのなら、その移動力も足並みをそろえられないかと言う話になりました。それで、そのあと2週間ほど訓練のために野山を流離い、ついに全員が先導者の速度に合わせて野を行くところにまで到達したのです。(チーム“急行”ってところだな、とは先導役になったバッシュの台詞でしたね)

 旅団の先頭を行くのは、この速歩の要。二刀流のバッシュです。戦う様は狂戦士、身のこなしと目端の鋭さは盗賊裸足、自然の知識は野伏さながらという、……どんな人生歩んできたのかしら。とまれ、彼はアローナを奉じ自然と森を愛する心優しい青年です。いまのところは。武器は魔法の長剣と棘盾。森での狩りを生業と定めたとき、アリリア様の社に心のこもった寄進をしたとか捧げ物をしたとか聞きました。

 少し後ろを歩くのがダスクブレードのサンダース。あるエルフの里で魔法と剣の技をエルフの師より直伝された人間の戦士です。アリリア様の話では、魔法と剣を同時に――文字通り、同時に!――使うことができるのだとか。寡黙な男性ですので、その仕組みを説明したり自慢したりといったことは全くありません。秘術では光線呪文を、武器では剣をよくするようです。エルフの戦神にして創造神コアロン・ラレシアンを奉じ、アリリア様のところへはお師匠の紹介でやってきた方です。

 私の隣を歩いているのが、召喚術師のジョン=ディー。肩に乗っているのは大鴉の「カラス」(そういう名前なのです)。……私の姉上は、猫に「にゃー」、猪に「きばぶー」、リスに「ちー」と名付けるひとでしたが、なんとなく雰囲気が似てるかもしれません。
 また彼は軍師でもあります。私たちが初めてともに戦った冒険でもその片鱗が伺えたのですが、彼が自ら軍師とか策士とかを標榜することはありません。しかし、彼が望む通りに戦場が構築されるとき、戦闘は8割完了しているといっていいでしょう。召喚生物の研究のためだとかで、アリリア様の森に出入りする許しを「きちんと」伺いに来た義理堅い魔法使い、というのがアリリア様の評価です。

 《ロング・ストライダー》の呪文も使って、しんがりを駆けて来るのは、ドルイドのクロエとその乗騎、「コンボイ」です。ドルイドであるクロエは、見た目ちびっこです。たぶん20歳にもなっていないでしょう。ドルイドだから老いの影響を受けにくい、のかもしれませんが、背の低さは成長の余地ありと感じられます。ハーフリングのように小さいというのではないですよ。細いと言うか、幼いというか。
 歯に衣着せぬしゃべり方と、ドルイドらしい物事への鷹揚な(人によっては「いい加減な」と呼ぶところの)態度が、私には好印象です。
 ああそうそう、彼女はその辺で拾う薪を棍棒代わりに振り回すことが多いです。それと、熊神ラーグを信仰しており、今回の旅は、「むしゃしゅぎょう!おれより強い奴に会いに行くのがドルイドの常識で礼儀で掟なの!」だそうです。

 彼女の乗騎の「コンボイ」は、えええと。大猿です。馬ほどもあろうかという巨大な猿に、小さな鞍をかつがせ、鞍袋は左右の肩へ振り分けています。彼女はその鞍に跨っている、という具合ですね。
 敵を殴るのはコンボイの仕事。クロエはその上で、小杖を振るったり呪文をかけたりするという分担になっているようです。馬や狼ではありえない、俊敏にして自在な登攀能力がご自慢です。馬は森の木の梢まで登ったりしないでしょう?


 私は何者か。自分の日記に自己紹介を書くのは変な気分ですが、日記と言うのは他人に読ませることを目的に書かれるものだそうです。自分で晩年、これを読むのかもしれませんし、もしかすると私の子孫がこの日記を見つけるのかもしれません。そのとき、エルシアの谷にいた私が何者なのかはやはり記しておくべきことでしょう。えへん。

 私はアルウェン・エリアロロ。上つ世に中つ国を救ったという『白い樹の王』の、后の名だと言うきれいな名前を姉上から頂いた、齢145のハイエルフです。清浄なる森の女神アローナを奉じ、先日アリリアさまから助任司祭(curate)の位を賜りました。ああ、共通語だと“癒し手”の方が意味が近いかしら。武器は、里を出るときに作っていただいた、私専用の魔法の合成弓とよい造りの長剣。そして、アローナ様の賜る霊弓“ジェネヴィアー”。――弓は好きなんですけど、動くものにはなかなか当たらないので、目下の悩みはそれですね……。

* * *
 今日も天気は良く、しかし風がないため、あかつき街道はほこりにまみれていました。気温は高い、湿度もある、街道の右手、つまり北側に広がる“魔女の森”も、私が育った辺りとは違い、随分鬱蒼とした植生で、まったく友好的でない気配を放っていました。

「あと数マイル歩くとドレリンの渡しだ」
 先導するバッシュが言いました。彼はこの周辺に多少詳しいようです。

「つーとあと1・2時間だ」
 ジョン=ディーがぼやく様に言いました。やれやれ、早く宿屋で寝たいぜ、とつぶやきます。同感ですね。この辺の野山はなんだか蒸し暑いし鳥の声もまばらだしで野営しているとだんだん不安な気分になってくるからです。

 私たちがドレリンの渡しを目指しているのは、アリリア様から手紙を一通預ってきたからに他なりません。この手紙を、できる限り早急にドレリンの町長に渡すこと。それがアリリア様の依頼でした。

「うむ、ドレリンに着けば、そこを足がかりに冒険のひとつも出来るだろう」
 手紙はおまけ。私たちは、少々平和に過ぎる都市部を抜け出して、危険と冒険の待ち受ける辺境へと歩を進めるべく、このエルシア谷に入り、その最奥である集落、ドレリンの渡しを目指していたのでした。

 聞くところによれば、この辺りは200年ほど前に王都を失ってから、治める国のない自由領となっているそうです。途中にあったブリンドルの街の領主ジャルマース卿も、その廃都の爵位を受け継ぐ方なのだとか。統一国家がないと言うことはそれだけ未踏地もたくさんあるうえ、滅びた王国の遺産とか失われた文明とか、そんなものに触れる機会だってあるかもしれません。エルシアに行こうと誘われたとき、こうした話もあわせて聞かされて、私はかなりわくわくしたものですが……

 右手の丘には、住む人を失った農家の廃墟。道の左右はすこしく崖のように持ち上がり、魔女の森に繋がる下生え深い林に繋がっています。こんな風景を谷に入ってから何度見たことでしょう。辺境ですから寂れてて当たり前なんですけど、そろそろこのうら寂しい光景にも飽き飽きしてきました。

「ん」
 クロエとコンボイが立ち止まりました。風の匂いを嗅いでいます。

「どうしたの?」
「……敵襲―――!!!!」

 彼女が叫ぶのと、弓を構えたホブゴブリンたちが道の左右からぬっと現れるのが、殆ど同時でした!!

* * *

:2024追記
2007年……えーと随分昔に書いた日記風リプレイ。描写のところどころは『赤い手は滅びのしるし』のGM用状況説明がそのまま……だったりするはず。スマホで読み返したいな、と思ったら、mixiも過去のブログも案外不便だったので、この際だから移植することに。

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