【D&D】『赤い手は滅びのしるし』61・54日目 邪竜の神殿(4)
* * *
「……祈っていたのですか、アルウェン」
「はい、アリリア様。どうかエルシアに真の平和が訪れますように。私たちが困難を乗り越えられますように。これ以上、無益な血が流れませんように、と」
「……この蝋燭は?」
「……はい、アリリア様。この『祈祷の蝋燭』は、あと4時間ほどで燃え尽きます。それまでに私たちが戻らなかったときは……」
「……」
「……どうか、皆様を連れてお逃げください。できるだけ遠くに」
* * *
「いやしかし」
手に入れた偃月刀と戦鶴嘴を前に、バッシュは悩んでいました。ハーンの戦鶴嘴は片手用、したがって斧盾と一緒に使えます。しかしニンジャマスターから奪った偃月刀は両手用の武器。悩ましいのは、どちらも出血を強制する『流血』の魔力を持っているということでした。
「どっちかしか使えないしなあ……」
「そんなときはクロエにおまかせ!バッシュのあんちゃん、耳をかすのだ!!」
「え?」
がぶー
「痛えええええ!!!!」
* * *
「じゃーん!ついに開眼したぜ、強化魔法《英雄の勲》!!やってみたかった戦技や奥義があったら言ってくれ!ものによっちゃちょっとした助言で実現可能かもだぜ!!」
ジョン君上機嫌です。それ、自分が強くなる呪文じゃないですよね。仲間が強くなることを我が事のように喜ぶ。これはマーシャルとして得がたい資質なのじゃないでしょうか。
……それはそれとして、私もさっそく新呪文のお世話になってみることにしました。
「じゃあ、武器の《早抜き》のコツを教えてください。割合、呪文を巻物から使う機会が多いので……武器の準備が素早くできるなら、それに越したことはないんです」
ここ2、3日、弓を持つより巻物を持ってた時間のほうが長かったんじゃないかしら。
「おっけーおっけー、他には?!」
ジョンが周りを見渡します。
「《大刀二刀流》するコツ、かな」
「おおっ、なんだバッシュ、ついに両手に長剣持つ気か?」
「きひひー」
「なんだよクロエまでニヤニヤして」
「まあお楽しみお楽しみ♪」
* * *
英雄の朝食を済ませ、儀式を行い、呪文を携え、ジョンの転移術で三度訪れた邪竜の神殿。その奥、下位兵士の休息所。
「応えてください、青銅の竜よ。あなたは如何にして滅ぼされたのですか」
《死者との会話》で、巨大な青銅の竜の無残な死体に問いかけます。
……分かったことは、彼、青銅の竜は、入り口の青い竜に組み付かれ、ニンジャたちに四方から車掛りにされ、なすすべもなく殺されたこと。彼の魂は奪われたらしい(つまり、今復活させることはできない)こと。そして、彼もまた再び悪と戦うために、現世への甦りを希望している――魂ではなく肉体の生前記憶に基づく回答なので、『希望していた』が正確かもしれませんが――こと。
「なるほど。ではますます我らの使命は重くなったということか」
「もう二つ三つ質問できますけど」
「……名前とか?」
「復活が絶対的に無理だと分かったとき、どこに葬って欲しいか、とか」
「自分の死を誰に伝えて欲しい、とか?」
「きゃらの!そういうかっこいいシーンはエンディングのために取って置くのが東方世界FEARゲ流!!」
ということで、この日記でも、このとき青銅の巨竜にどんな質問をしたかは、ちょっと後で書こうと思います。
* * *
隠し扉は、思わぬ場所にありました。その先に開けていたのは、自然の鍾乳洞にいくらか手を加えたと思しき通路と、
「またしてもグリーンスポーン・レイザーフィーンド!!」
「真ん中のは羽根がある!多分飛ぶぞ!!」
「よし、任せろ」
バッシュがマントを跳ね除けました。その下からは。
右手に戦鶴嘴。
左手に斧盾。
そして両手で偃月刀。
「は、はあああ?!?!」
つまり、四本腕。バ、バッシュ……
「これぞラーグの加護!!《ギラロンズ・ブレッシング》!!!!」
クロエがノリノリです。
「いや、見りゃ分かる!!いつかけた!!」
「出かける前にー」
「どういう趣旨で!!」
「バッシュは困ってた!片手武器と両手武器!両方使いたいけど腕が足りない、ああどうしよう!さあそこでクロエの出番ー!!腕がたりなきゃ腕を生やせばいいじゃなーい!!!!」
前線でバッシュが連撃を極めはじめています。両の武器に込められた『流血』の魔力が、一撃を加えるたびにフィーンドから確実に生命力を削ぎ取りつづけているのが、洞窟じゅうに飛び散る血の量からもよく分かります。
響く悲鳴、飛び散る鮮血。
「偃月刀、切れ味鋭いから只でさえ出血しやすいんだよなあ……」
唸る戦鶴嘴、吹きすさぶ偃月刀の剣風、ダメ押しの斧盾打撃。
「うむ、正直、敵に同情する」
急所に確実に決まる容赦ない一撃、相手の戦意を削ぐべく痛点を的確に捉えた斬撃。そして竜をも怯えさせるバッシュの眼光。
「きゃっほー!ギラロン虎眼流、爆☆誕!ふらちな悪者、バッシュのあんちゃんが仕置きつかまつるー!!!」
クロエがもう、大興奮でした。
* * *
フィーンド3体を退治して、さらに奥へ。
見据えた先に、ホブゴブリンの戦司祭たちが10名弱、円形の祭壇を囲んで祈祷を捧げ続けておりました。
「轢!殺!《火球》!!」
ジョンの火球魔法を皮切りに、素早く滑り込んだバッシュとサンダースが確実に一人また一人と戦司祭を切り伏せていきます。祭壇の頭上には、赫々と輝く魔力の塊。祈祷するものが減るたび、不安定にぶるぶると震え脈動します。
「ラスト!」
最後の一人を切り伏せると、魔力の塊は部屋の奥、煙突のように天井に穿たれた穴へと吸い込まれていきました。
「バッシュ、気がついてたか?お前が切った最後の一人、《支配》を唱えてたぜ」
「じゃあ……呪文完成前に俺の剣が間に合ったわけか」
バッシュが溜息をつきました。『戦士(が呪文に弱いの)はしかたない』でしたね。
「きゃらの!いまのあんちゃんが寝返ると大惨事!!大丈夫、そんなときはクロエが呪祓るよ!!」
そんな和やかな会話に、サンダースが大音声で警告しました。
「気をつけろ、新手だ!数は4、レイス!」
……しかし、これはなんとか、太陽領域の『滅却』と触霊錬金カプセルで撃退できました。
「いや……精力をあらかた吸い出されてえらい状態ですよ司祭……」
「これは……キツイ……耐久力に直接来るからパクトも効果を発揮できない……」
レイスの冷たい手で、男性陣がへろへろです。死霊の接触は、生命の根源をこそぎ取る恐ろしい力を持っているのです。
もちろん、《低位回復術》ですみやかに回復させたわけですけど。
* * *