データで見る「PSG vs Real Madrid 1st Leg」
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
今回は、21-22シーズンのCL Round 16屈指の好カードである「PSG vs Real Madrid」の1st Legをデータで振り返ります。なお、この記事を書くにあたって、「WOWOWサッカーアリーナ」のデータを参照しました。
私はレアル・マドリードのファンですので、本記事はマドリー視点のものとなっています。ご了承ください。
PSG vs Real Madridのスタメン
両チームともフォーメーション表記すれば[4-3-3]です。控え選手は次のようになっています。
押し込まれたレアル・マドリード
結果は1-0でパリ・サンジェルマンがレアル・マドリードがホームで先勝しました。スコア以上にマドリーは圧倒された印象があります。そこで先ずは両チームのスタッツを見ていきます。
上の試合全体のスタッツにおいて、左側の薄い青色がPSG、右側の濃い青色がレアル・マドリードです。ボールポゼッションはPSGが57.2%で、レアル・マドリードは42.8%です。思ったより差が広がらなかったという印象を持つ人もいるかもしれません。ちなみにマドリーのラ・リーガでの平均ポゼッション率は61.0%です。
また、デュエルの勝率は互角です。ただ、成功したドリブルはPSGがマドリーの2倍で、CKの回数もPSGの方が圧倒的に多いです。
一方、次の攻撃のスタッツを見れば、PSGがレアル・マドリードを圧倒したことがわかります。
先ほどと同様に、上の攻撃のスタッツにおいて、左側の薄い青色がPSG、右側の濃い青色がレアル・マドリードです。シュート数(枠内シュート数)は、21(8)対3(0)とPSGが圧倒しています。また、PSGはペナルティーエリア外のシュートが9、ペナルティーエリア内のシュートが12と、エリア内外のどちらからも多くのシュートを放っています。
次は、パスのスタッツです。
このパスのスタッツで気になるのは、マドリーのロングパスの多さです。後方でのビルドアップに詰まり、ロングボールで状況を打開しようと試みたシーンが試合中に何度も散見されました。もともと、マドリーはロングボールが多いチームではないので、このスタッツは安定したボール保持が実現しなかったことを示していると言っても良いかもしれません。
この試合では、レアル・マドリードはパリ・サンジェルマンの前からのプレッシングを回避することができず、自陣から抜け出してクリーンに前進することがほとんど叶いませんでした。このことは次のヒートマップから明らかです。
上のヒートマップはPSGの選手のヒートマップです。見れば明らかなように、PSGの選手は相手コートで長くプレーできています。左右のバランスも良く、上手く相手を押し込めていることがよくわかります。
次に、上のレアル・マドリードのプレイヤーのヒートマップを見れば、レアル・マドリードの選手が中々自分のコートから出ることができなかったことがよくわかります。また、相手コートのゴール前ないしバイタルエリアにほとんど侵入できなかったこともわかります。
次に、タッチマップを見ていきます。
薄い青色がPSG、濃い青色がレアル・マドリードです。マドリーが自陣から抜け出すことができず、相手のバイタルエリアでプレーすることができなかったことが明瞭に示されています。特に、マドリーは自陣のゴールエリアでのボールタッチが多いです。これはマドリーがゴールキックからのビルドアップを選択したこと、そしてそのビルドアップが全く上手くいかなかったことに依るものだと捉えるのが妥当だと思います。
左サイドを主戦場とするムバッペ、献身性あふれるディマリア、左右に顔を出すメッシ
次に、個々の選手のヒートマップを見ていきます。
これはムバッペのヒートマップです。左サイドを主戦場としていること、そして左サイドのかなり深い位置に何度も侵入できていることがよくわかります。一方、この試合ではあまり深い位置まで戻って守備をしなかった(或いはする必要がなかった)こともこのヒートマップに表れています。
続いてはディ・マリアのヒートマップです。右WGで出場したディ・マリアは中央のエリアや左サイドまでカバーしているだけでなく、自陣のかなり深い位置まで戻って守備をしていることもこのヒートマップから読み取れます。
次はメッシのヒートマップです。上のヒートマップから、3トップの中央で先発したメッシは左右満遍なく動いてプレーしていることがわかります。ただ、ペナルティーエリア内へはあまり侵入していません。この試合でメッシはライン間で受けることが多い印象でしたが、まさにそのことが如実に表れています。
比較として、ベンゼマのヒートマップも載せておきます。故障明けのベンゼマですが、チームが押し込まれたこともあり、あまり相手コートでプレイすることができませんでした。特に、相手のバイタルエリアでプレーできなかったことがはっきり表れています。ベンゼマはチームのビルドアップのサポートで降りてきたり、サイドに開いたり、WGと近い距離でパス交換して時間を作ったりします。普段だと、サイドの崩しでベンゼマが関わり、最終的にペナルティーエリア内やバイタルエリアに侵入し、フィニッシュに絡みます。ところが、この試合ではマドリーは両WGが相手のSBに止められ、サイドを崩すことができませんでした。そのため、ベンゼマが中央に走りこむ機会もほとんどありませんでした。
モドリッチ、クロース、カゼミーロの中盤3枚のパフォーマンス比較
マドリーの生命線である中盤3枚のパフォーマンスを見ていきます。ここでは、CLのグループリーグとPSGとの1st Legの結果を比較します。具体的には、CLのグループリーグでの平均のタッチ数、パス本数、パス成功率をPSGとの1st Legのものと比較します。
図1は、タッチ数を出場時間(分)で割ったものを比較したものです。上図を見れば明らかですが、モドリッチとクロースのタッチ数が大きく減り、カゼミーロのタッチ数が微増しています。これは、マドリーのビルドアップ時に、モドリッチとクロースがマンマークされてボールを触れなかったという直観に一致するものです。モドリッチとクロースが止められ、その分カゼミーロがボールタッチを少し増やしたと解釈できます。
図2は、パス本数を出場時間(分)で割ったものを比較したものです。パス本数もタッチ数と同じような推移になっています。特にモドリッチは大きくパス本数を減らしています。この試合でモドリッチはドリブルしながら、パスコースを探すも、中々パスコースを見つけられないというシーンが目立ちました。マドリーがプレス回避できなかったということが如実に表れてると言っても良いかもしれません。
中盤3枚の全員のパス成功率が下がっています。特に、トニ・クロースは顕著です。クロースは基本的に95%以上のパスを成功させますが、PSG戦では90.0%と珍しく低い値を記録しました。個人的には、クロースのサイドチェンジをヌーノ・メンデスがクリアしたのが印象的でした。
一般的にマドリーが上手くいかないとき、クロースのパス成功率は大きく下がります。例えば次のグラフはCLのグループリーグでのパス成功率の推移を表したものです。
青色がクロースのパス成功率です。グループリーグの初戦インテル戦のときには、クロースはスポーツヘルニアで離脱していました。クロースがCLに出場したのは第2戦のシェリフ戦からです。図4を見ればわかるようにクロースは多くの試合で素晴らしいパス成功率を記録します。
ところが、第2戦のシェリフ戦だけは著しく低いパス成功率となっています。マドリーはこの第2戦でシェリフに1-2と敗北しています。クロースはこの試合に66分から出場しましたが、チームは相手の固いディフェンスを崩すことができませんでした。
クロースのパス成功率が低いとき、その要因はクロースの調子が悪いことよりも、チームのパス回しが良くないことの方が多い印象です。特に、クロースのサイドチェンジがカットされるシーンが見られたときはまさにそうです。なぜならそのようなことが起こるのは、マドリーが相手DFを意図的に動かすことができず、相手がバランスを保ちながら守備を出来ていることを意味するからです。
PSGとの試合では、マドリーはサイドで優位性を作ることができず、相手の守備バランスを崩すことができなかったので、クロースのサイドチェンジがあまり繋がりませんでした。
まとめ
この記事のタイトルを「データで読み解く~」ではなく「データで見る~」としたのは、あくまでこの記事では客観的なデータを見やすい形にして、読者に考える材料を提供することを目的としているからです。私の稚拙な分析を載せると、せっかくのデータが価値をなくしてしまいます。分析は他の優秀な方にお任せします。
この記事を最後まで読んでくれた人の中には、当たり前の結果だったと感じた人もいるかもしれませんし、特に新たな知見を得られなかったという人もいるかもしれませんが、改めて視覚的にデータに触れたことで、読者の認識が刷新されたり、読者の直観の正しさが補強されたりするという意味において、このnoteの意義は一応あると思っています。
最後に、このnoteを基に議論をしたり、分析を発展させたりする人がいれば、私としてはこの上ない幸福です。
今回は以上です。