Twelve Minutesのネタバレあらすじと感想
『Twelve Minutes』は2021年8月20日発売のゲーム。公式の説明では「タイムループにとらわれてしまった男にまつわるインタラクティブなスリラー」。
真上から見下ろすような画面で、夫妻のうち「夫」を操作し、自室で繰り返される「10分間」を彷徨う。「タイトルで12分って言ってるのになんで10分?」というのも、プレイすればわかる。
あらすじはダラダラ長いので、要点だけ知りたい人は下の方の「シンプルあらすじ」まで飛んでほしい。シンプルの方でも長いけど。まとめるのって難しい。
あらすじ 冒頭
※プレイによっては展開が前後する
※プレイヤーごとに解釈は違うと思われる
ゲームを起動すると、時計が表示される。針は「時計回り」ではなく、時間を遡るように逆回転していく。
画面変わって、エレベーターの扉に会社員のアーロンの顔が映る。アーロンは登場する夫妻のうちの夫の方である。
夫がアパートのエレベーターから降りて自室へ着くと、妻のサラはバスルームに入って鼻歌を歌っていた。しばらくして妻は夫の帰宅に気づき、夫を抱きしめてキスをし、今日は「最高の夜」だと言う。テーブルにキャンドルを灯し、手作りのデザートまで作っていた。妻になにか嬉しいことがあったようだ。
二人でデザートを食べている最中、妻はプレゼントの箱を渡してきた。開けると、ベビー服だった。妻の妊娠がわかったのだ。
夫妻は積極的に子供を作ろうとしていたわけではなく、むしろ妻はピルを飲んでいた。だが偶然に授かった。夫妻は子供が出来たことを喜んだ。
ベビー服には「DAHLIA」と書かれている。ダリアとは、夫の母親の名前。母親は亡くなっており妻は面識もないが、子供が女の子だったらそう名付けたいという。男の子だったらまた別の名前を考える。
「きっと何もかも上手くいくよ。誰よりも愛されて育つはずだ」
夫もそう言って妊娠を喜んだ。
そこへ、チャイムが鳴る。警察を名乗るスキンヘッドの男が現れ、妻を逮捕すると言って彼女をいきなり手錠で拘束。夫も拘束され、夫妻は床に転がされる。
警察によれば、妻は8年前に彼女自身の父親を殺害しているという。その事件にまつわる重要なものである懐中時計を渡すように警察は要求。妻はそんなこと知らないと訴えるも、警察は妻を脅すために夫にのしかかり、夫の首を絞めはじめた――
ループ
夫は気づくと、部屋の扉の前に立っていた。妻はバスルームで鼻歌を歌っている。帰宅した瞬間に時間が巻き戻っていた。
夫は、警察の言っていた父殺しや懐中時計について妻に質問する。父親は心臓発作で亡くなっただけで、懐中時計なんかにも心当たりはない、と妻は否定する。冤罪なのか、妻の嘘なのか。責めるように強く問いただすと妻は泣いて部屋から飛び出してしまう。追いかけようと部屋を出たら、またループ。部屋から出ることもループの引き金になっていた。
キッチンナイフを握り、警察が現れたと同時に襲いかかっても、相手は強く、返り討ちにされる。何度もループすることで警察の攻撃パターンを学習し攻防の時間こそ伸びても、結局最終的には力負けするので正攻法では勝てない。
ちなみに、ナイフを選択→夫を選択すると、自分の腹を刺そうとする動作が出るが、躊躇って結局刺せない。同様に妻を選択することもできるが、刺そうとする動作さえ出ずにやはり刺せない。
戦うことを諦め、ループしてすぐにクローゼットに隠れる。妻は夫の帰宅に気づかずにソファで読書し、現れた警察に拘束される。脅しに屈した妻は、懐中時計はバスルームの換気口に隠していると白状した。警察は懐中時計を手にすると、妻を銃殺し、死体のポーズを整え自殺であるかのように偽装して去っていった。
夫が呆然としていると、またもループ。夫が帰宅してから10分経過した場合もループする。なお、警察が訪問するのは5分。
妻の過去
夫は妻に、ループしていることを話す。その証明として、開封前からプレゼントの中身がベビー服だとわかっていること、懐中時計の場所を知っていることを挙げる。妻はループを信じ、8年前に父を殺害したと打ち明けた。
妻の父は気難しくも裕福な人物であったらしい。妻が生まれてまもなく、父はベビーシッターの女性と不倫した。不倫発覚後、妻の両親の関係は冷え切り、それは妻の母が病死するまで続いた。不倫当時のことは妻は幼すぎて記憶にないが、母に聞かされて知っており、母の病死は父のせいで気鬱になったからだと父を責め、よく喧嘩した。憎みながらも親子としての愛情もあった。
8年前のクリスマスイヴ、妻は父と縁を切り家を出ることにした。父は引き止めようと妻の腕を掴み、妻が抵抗して突き飛ばしたところ、父は殴ってきた。父はいつも銃を所持しており、妻はとっさにその銃をうばって父を撃ってしまった。
妻はその場から逃げ、実家から何百マイルも離れた今住んでいる町に辿り着いた。何日もかかる距離なので、着いた時には大晦日の前日になっていた。翌日、大晦日に妻はポラロイドで記念写真を取り、誰とも関わらず一人で生きていくと決意した。だがそれから数週間後、夫に出会った。夫の方が惚れ込んで熱心に口説いて二人は結ばれ、妻は過去を隠し通すことにしたが、罪悪感を抱えていた。
懐中時計は父の所有物。母方の祖父から受け継ぎ、特別に作らせたものでかなりの値打ちがある。実家から逃げた夜、父から咄嗟に奪っていた。妊娠を知った妻は、養育費の足しにしようと時計を質屋で見てもらった。そこから足がついて警察に見つかった。だが、ただ殺人事件を追っていただけの態度ではないため、警察にもなにか裏がある。
警察の事情
ループ後の妻の行動にはパターンがある。バスルームにこもる→リビングで読書→寝室に移動して読書。寝室の電気のスイッチは壊れており、一度スイッチを入れるとビリっと痛む程度の衝撃が走り、二度目には更に強く感電する。
夫の操作次第では、妻は二度目の強い感電によって死亡する。細身な彼女ではそうなるが、夫が感電した場合には数分間気絶する程度で済む。これを応用すれば、正攻法では勝てない警察を一時的に無力化することができる。
ループ後、夫は妻に睡眠薬を盛って眠らせた。強力な薬なので、ループのたった10分間で目覚めることはない。スイッチを操作して次に押せば感電する状態にしてクローゼットに隠れると、狙い通りに警察は妻を探して寝室へ行き、感電して倒れた。
警察を調べると、銃とナイフ、スマホと2つの手錠を所持している。その手錠で彼を拘束しても、油断していると意識を取り戻して立ち上がり、頭突きで夫を倒してしまう。ゆっくりと彼のスマホを検めるには、殺害する必要がある。警察は、ナイフで一度刺せば多量出血し、しばらくは話せるがやがて死ぬ。二度刺せばすぐに死ぬ。
二度刺して死なせた後で、警察のスマホを調べる。いくつかのメールを読むことができる。料金滞納の報せがよく届いており、金に困っているようだ。
バンブルビーという人物からよくメールが届いている。彼女は、警察の娘だ。バンブルビーはまだ年若く、10代ぐらい。彼女は癌を患っており、莫大な治療費がいる。警察は娘のために高価な懐中時計を求めていた。
妻を警察に差し出す
これは実績「腰抜け」を取得できる展開の一つだが、経由しなくてもクリアはできる。
妻は裁かれずにのうのうと生きている殺人犯であり、警察には病気の娘がいる。と知れば、妻を見捨てて警察に懐中時計を渡すのがある意味人道的では?という展開。
警察を感電させ、手錠で拘束。その際に使う手錠一つ以外はなにも彼から奪わない。やがて目覚めた警察が「狙いは妻だけだ」と協力を申し出てくるので、「妻の過去をついさっき知った、協力する」と了承し、懐中時計を渡す。
警察が妻と二人きりにしてほしいと言うので寝室を出てリビングに行くと、銃声が響き渡る。妻は銃殺され、死体は自殺したかのようにポーズを整えられている。警察は夫に指示を出し、それに従って夫は110番し、「帰宅したら妻が自殺していた」と嘘をつく。電話を終えると、警察は帰っていく。
夫は、この展開こそがループを抜けるための答えではないかと思っていたようだが、それでもまたループしてしまう。
クリスマスイヴと大晦日
警察を感電させ拘束し、即死しない程度に一回だけナイフで刺し、抵抗する力を奪ってから尋問。警察は、妻の父と親しかったという。対等な友人というより上下関係があり、父に様々なことを教えてもらい恩人として慕っていた。血まみれの父を発見し看取ったのも彼で、犯人である妻に強い恨みを持っていた。
「8年前のクリスマスイヴ。その時は殺せなかった。そして、大晦日に再び訪れ、犯行に及んだ」
警察はそう話す。妻の父は、大晦日に撃たれたことで亡くなった。彼はクリスマスイヴに妻に撃たれた時には致命傷に至らず生存していたのだ。大晦日には何百マイルも離れた場所にいた妻は、殺人犯ではなかった。「同じ部屋、同じ銃で撃たれた」というシチュエーションの類似から警察は誤解していたのだった。
再びループ→妻にループの証明→過去の事件の真犯人は別にいると説明。警察が妻を狙うのは懐中時計が欲しいからだが、金目当てなら誰でも殺すわけではなく、恩人を殺した犯人だと誤認していたためもある。ポラロイドを見せ、警察を説得しようと夫妻で話し合う。
警察はドアを開けたらすぐに問答無用で夫妻を襲ってくる。だが、警察のスマホを見た時に控えていたバンブルビーの電話番号にかけ、「君のお父さんが誤解から僕らに危害を加えようとしているので、話を聞くように君から言い聞かせてほしい」と頼むことで、警察は耳を傾けてくれるようになる。警察は部屋に入る前にバンブルビーからの電話を受け取り会話するが、その声は襲ってくる時とは大違いに優しい。
事件について説明し、ポラロイドを見せたことで妻の疑いは晴れた。ポラロイドには、プレイ上は見えないが撮影日も刻まれている。妻は癌の子供を持つ警察に同情し、自ら懐中時計を渡す。警察は喜び、真犯人をきっと見つけてみせると約束する。
妻の父は死の間際、「モンスター、モンスター」とつぶやいていたと警察は話す。妻はその言葉に覚えがあった。妻の父は不倫相手のベビーシッターを妊娠させていた。生まれた男の子のことを、妻の母は「モンスター」と呼んで忌々しく語り聞かせたという。恐らくは父殺しの犯人はモンスターだろう、警察はモンスターについて調べると誓い、去っていった。
誰も死ぬことなく事態が解決し、夫妻は抱きしめ合う。愛してると互いに言う――が、またループする。
モンスター
夫は妻にループを説明し、モンスターについて聞く。妻が2歳の時に生まれた、つまりは2歳年下の異母弟に彼女は会ったことがない。顔も名前もわからない。ベビーシッターは出産の際に亡くなり、父はモンスターを引き取ろうとしたが、伴侶に反対されて手放した。モンスターの行方は不明だった。ベビーシッターの名前もわからず、妻には手がかりがない。
警察訪問。説明し和解した後に、妻はベビーシッターについて訊く。警察は不倫のことも知っていたが、数十年前のことなので、ベビーシッターの名前を思い出せない。
「確か…花の名前だった気がする。ダフネ?デイジー?そんな感じだった」
ループ。前回と同じやりとりをした後、花といえばと、夫は「ダリア」と書かれたベビー服を見せる。
「それだ。彼女の名前はダリアだ」
ダリアは夫の母の名。夫こそがモンスターであり、父殺しの真犯人であり、そして妻の実の弟だった。夫は、封じ込めていた記憶を掘り起こしてしまい、頭を抱えて絶叫した。
8年前の大晦日を回想したらしきシーンに変わる。
父は、母の死後にモンスターを探して交流を持つようになっていたらしい。
(以下は「多分こうだろう」という妄想。モンスターは父の周囲にいるうちに姉を目撃し、姉弟と知りながら惹かれてしまった。大晦日に訪ねたところ、もう既に姉は家出しており、「彼女のことが好きだから行き先が知りたい」みたいなことを父に言ってしまい、想いがバレたのでは)
モンスターが実の姉に恋していることを知った父は激怒していた。モンスターと姉、それぞれの母を殺したのはモンスターだとさえ言った。父はモンスターに掴みかかり、揉み合いになり、彼の所持していた銃は暴発し、父は死んだ。
再びループ。夫は嗚咽しながら膝から崩れ落ち、ショックで意識を失った。ループ。夫は妻に、自分がモンスターであることを話す。妻は受け入れられずに拒絶する。さめざめと泣いたり、部屋から出ていったりする。何度ループして言い方を変えても、その真相自体が妻には許しがたいこと。
キッチンナイフを使っての妻殺し、そして自殺ができるようになる。妻を殺す際は、お腹の子を狙うかのように腹を刺すのと、首を搔き切るのと2パターンある。(もっとある?) 妻を殺しても自殺をしても、ループは続く。
何も知らないふりをして愛し合う
これは実績「ウッドチャック」を取得できる展開の一つだが、経由しなくてもクリアはできる。
罪悪感は夫一人で飲み込み、子供出来ちゃった以上はどうしようもないし夫婦生活続けていった方がいいんじゃ?な展開。
バンブルビーに電話をかけ、「君の治療費を払うためにお父さんが僕らの持つ高価なものを奪おうとしている」と伝える。バンブルビーは怒りの電話を警察にかけ、警察は最愛の娘にすぐに釈明せねばと部屋の手前で引き返し訪問しなくなる。
夫は妻と一緒にデザートを食べ、妊娠の報告をされ、「何もかも上手くいくよ」と喜んで見せる。妻はテーブルの上に身を乗り出して濃厚なキスをする。流れる音楽の中で、夫妻は手をつないでくるくるとダンス。
寝室へ行き、ベッドの上でも口づけを交わす。横向きに寝転ぶ妻を背後から抱きしめ、お腹をさすり、本当に君を愛してるとささやく――そしてループ。
「告白」
これは実績「告白」を取得できる展開の一つだが、経由しなくてもクリアはできる。
全てを思い出したのなら、被害者の関係者である妻と警察両方に全てを告白するべきじゃ?という展開。
真相を話し、激怒する妻に「今から来る警察に自首する」と伝える。警察が訪問したら、あれは事故だった、といった言い訳はせず、全てが自分の責任であったと話す。。
夫の声は絞り出すような悲しげなもので、警察は意外にも責めない。ただし懐中時計は要求するので、素直に渡す。
「覚えておけ。一度お前を見つけたということは、またすぐ見つけられるということだ。そして、俺とは二度と会いたくないはずだ」
警察はそう言い残す。
警察が去った後、妻は出ていけと夫に叫ぶ。「人間のクズ」と翻訳されている罵り言葉は音声では「Fucking Monster」である。彼女はもう、アーロンではなくモンスターとして彼を見ている。夫が従わずにいると、妻はバスルームに籠もって鍵をかけ、すすり泣く。
夫が部屋を出る、あるいは10分経過するまで留まっているとまたループ。「他に何が望みだ」と夫は一人で悪態を吐く。
「心を込めて」
「心を込めて」という実績を取得できる、それ以上ループすることのないエンドの一つ。トップ画面からまたループに戻ることはできる。
(原語では「Mindfulness」で、瞑想にまつわる用語。そちらの意味なので軽く誤訳かもしれない)
妻が読書中に本を選択すると、瞑想の本だと彼女は答える。
「忘却することでのみ、本当の意味での時間の糸を落とし、今まさにこの瞬間を生きているという体験に近付くことができる」
本に書かれている一節を妻は読み上げる。
(人間は過去の記憶に囚われて思い悩むものだが、その記憶から脱せば自由に生きられる、みたいな意味だろう)
そのやりとりをした後で懐中時計を見つけて選択すると、時間が巻き戻り、本が並ぶ部屋で父と対峙していた瞬間へとループする。その部屋での父とのやりとりは最大2分間である。タイトルの12分とは、夫妻の部屋での10分+父の部屋での2分、ということ。
父が怒りの言葉を並べる中、モンスターの向かい側にある時計が進んでいく。モンスターの背後にある本棚に並ぶ本は彩度が低いものばかりだが、その中に一つだけ鮮やかな赤色の本があり、妻が読んでいたものと同じ。時計が59分を指す瞬間、父がモンスターを殴ろうかと脅す瞬間に赤い本を選択。
モンスターは、妻が読み上げたのと同じ一節をつぶやく。怒り続けていた父が少し落ち着き、語りかける。
「何かを忘れてしまいたい、という考えが少しおかしいことは承知している。でももし…それが可能だとしたら?お前が望むなら、俺がその願いを叶えてやる。お前に残されるのは未来だけ。これまでの事は全て忘れ去られるんだよ」
「お前は確かに優れた想像力を持っている。お前が作り上げた物語。でもこんなに強く、こんなに深く信じ込んでしまうことは不健康だ。彼女のことは忘れるんだ。彼女に執着してばかりでは駄目だ」
「お前が目覚める時がやってきたんだ」
スタッフクレジットが流れ、終了。続行(コンテニュー)が表示され、選択するとループ。
エンドは幾つかあり、どれが真エンドであるかは今のところプレイヤーの気持ち次第である。
「孤独」
「孤独」という実績を取得できる、それ以上ループすることのないエンドの一つ。特定行動で再びループすることは可能。
(動画では23:23から)
2分間の世界へ。モンスターは父と対峙する。
「きっと、僕らは一緒にならない方がいいんだ」
モンスターが姉を諦めると言うと、父は怒りを鎮めて謝罪し、モンスターを抱きしめる。
スタッフクレジットが流れ、トップ画面で「続行」を押すと、モンスターがエレベーターから降りる、ゲーム冒頭のシーンが表示される。
しかし、廊下を進んでいくと扉の形状が変わっている。部屋へ入ると、夫妻の部屋と間取りは同じだが家具が一つもない。また、電気もつかない。妻はおらず一人きり。
バスルームの換気口の中には、夫妻の部屋と同じように懐中時計がある。時計は壊れており、長針が動かずにブラブラと揺れている。針を58分に動かすと、ループへ。
「続き」
「続き」という実績を取得できる、それ以上ループすることのないエンドの一つ。
2分間の世界へ。59分になるのを待たずに、本を選択できるようになればすぐにクリック。モンスターは「心を込めて」と同じように、本の一節をつぶやく。
父は心理療法のようなものを行う。
「お前が探しているものが見つかるよう祈ってるぞ。よし、眼を閉じろ」
父はモンスターに「花」を思い浮かべるよう言う。花が逆行し、つぼみになっていく姿を想像させる。
「お前が見てきた世界から解き放たれるんだ」
「お前を苦しみから解放しよう。お前を恐怖と怒りから解放しよう。お前に平穏と喜びを感じさせよう」
キャストクレジットが流れ、次に、ゲーム初回起動時と同じオープニング映像が流れる。再びプレイすることは可能だが、夫からはこれまでのループにより蓄積された記憶がなくなり、1周目状態になっている。
「傾聴」
これは実績「傾聴」を取得できる、それ以上ループすることのないエンドの一つ。トップ画面の続行(コンテニュー)から再びループすることは可能。ループをしたことない完全なる初回時、あるいは「続き」を終えた後の1周目でのみ見られる。
プレイヤーは一切操作せず、ただ画面を眺め続ける。元気に「ただいま」と言う夫、出迎えてキスをする妻。デザートの用意があるから食べたくなったら声をかけてねと言って、妻は読書をする。棒立ちを続ける夫に、「座ったら?」と妻は声をかけ、操作せずとも夫は自動的に座る。
「私は今でも幸せなんだけど、ほら、何かが増えたらどうなるかしら」
「もう一つの何か」
夫は肯定的に返し、夫妻はしばらく話す。「何か」とは妊娠についてだろうが、妻は告げない。
もうしばらくして妻は、例え話という形で質問する。もし自分が過去になにか悪いことをしていたとしたら、それは明かすべきだと思うか、と。夫は、過去のことにすぎないなら話す必要はない、それは「爆弾を投げつけるようなもの」だと返答する。
妻「私のこと、信用してる?」
夫「もちろんさ、他の誰よりもね」
妻は一旦バスルームへ行く。出てきた妻を迎え、「それで、これから何が起きるんだい?」と夫は訊ねる。
妻は夫を抱きしめた後で、手を引いて玄関の方へ向かう。
「教えてあげるわよ、でも。ここじゃダメ。ここでなければ、どこでも。ほら、行きましょ」
二人は扉の外へ出ていき、ループすることなくトップ画面に戻る。
エンドは全部で4つ。長々あらすじ終了。
シンプルあらすじ(比較的)
※プレイによっては展開が前後する
※プレイヤーごとに解釈は違うと思われる
アーロンとサラは仲睦まじい夫妻。サラの妊娠がわかり喜んでいると、突然警察を名乗る男が押し入り、アーロンの首を締め上げた。その瞬間、アーロンはタイムループを起こし、警察が現れる前の時間に戻っていた。
帰宅してから5分後に警察が現れて襲われる、という展開をアーロンは何度も繰り返す。首を絞められずとも、家から出ただけでもループする。ナイフで警察に対抗しても、相手は強くて勝てない。首絞め以外に、滅多刺しや頭突きや銃殺などの死に様の種類が増えるだけ。
警察は「サラは8年前に人殺しをした」「その時にサラが奪った懐中時計を渡せ」と言う。アーロンが問いただしても、サラは知らないと言い張る。
壊れかけの電灯スイッチを利用することで、感電して一時的に気絶した警察を拘束して話を聞くことができた。
警察はサラの父と友人だったが、サラが父殺しをしたため恨んでいるという。また、警察には癌を患い莫大な治療費を要する娘がおり、サラが父から盗んだ高価な時計を奪って足しにしたいとも考えていた。
ループを繰り返しサラと警察から事情を聞いた結果、父殺しの真犯人は別にいるとわかった。サラは不仲な父を撃ってしまい殺したと思い込んでいたが、実は致命傷ではなかった。それから一週間後に別の者が父を殺し、当日にはサラにアリバイがあった。
父は撃たれた直後に駆けつけた警察に対し「モンスター…」とつぶやいた。父はサラがまだ幼い頃に不倫しており、その時にできた婚外子のことを、母は「モンスター」と呼んで嫌っていた。サラはその腹違いの弟の顔も名前も知らないが、父殺しの真犯人は弟であるようだ。
アーロンは思い出す。自分こそがモンスターであることを。密かに腹違いの姉を愛し、そのことを咎められて父と揉み合いになりはずみで殺害した。父を殺したと誤認したまま遠くへ逃げたサラを追い、偶然出会ったようにして口説き、そして夫妻にまでなり子供をつくった。心を壊さないようにか、アーロンは過去の記憶を封じて忘れきっていた。
全てを思い出して絶叫しながらもアーロンは再びループする。
ループを止めるためのエンドは複数ある。一つは、父を殺してしまった日にまで戻り、姉への思いを断ち切るというもの。父を殺さず、アーロンは独りで生きていく。
一つは、ループはそもそも妄想だったのではないかと示唆するもの。姉への執着を解くための暗示療法を父が行うも、「姉と結ばれた未来」を妄想する雑念が入って中断してはまた再開する、というのがループとして表れた。父と警察は、演じる声優が同じである。姉への思いを絶とうとする父が、夫妻の幸せを壊す警察として妄想に投影されたか。
一つは、夫妻で手をつないで家の外へと出て行き画面から消えるというもの。もし過去になにか良くないことをしていたとしても、打ち明ける必要はなく、今を生きる相手と愛し合い信頼しあえばいい、というようなことを出ていく前に夫妻は話す。
感想
ループを抜け出して幸せな未来を目指す!という話だと思っていたら、構造が複雑だった。時計を警察に渡して夫妻で抱き合ってこれでクリアーと思っていたらループした時はたまげた。
でも実績コンプリートしてからの後味は悪くなかった。最初に迎えたのが孤独エンドで、孤独or無限ループだと思っていたので、それ以外もあって良かった。
ハッピーエンドの物語だと主張したい
ループしないという意味ではエンドは孤独・心・続き・傾聴の4つだと思う。どれを真エンド扱いするかは公式で説明が出ない限り人それぞれ。
傾聴は唯一スタッフクレジットが表示されず、ひっそりとして「隠しエンド」っぽさがあるので、個人的には傾聴派。
真相を知っているプレイヤーは「罪を告白するべき」あるいは「隠して幸せになって」と夫に選択を求めたくなる。だが「傾聴」では一切操作をしないことでそんなプレイヤーの心情は夫に反映されず、彼自身の人生を生きる。そして夫妻はゲームの画面の外へと出ていく。プレイヤーに主導権を握られた世界から脱して自由になったという、メタ要素を含むエンドだと思った。
夫妻が部屋を出ていくのは大体開始から4分ぐらい。警察が来るのは5分ぐらい。とすれば、部屋から出ていったあとでエレベーターで警察とバッティングしてまた惨劇が起こるのでは……と想像できなくもない。でも、扉の外に出ただけでループするはずだったのにループしなくなっている。二人で一緒に出ていった瞬間に夫妻はこのゲームのしがらみから開放されて、「扉を出たらループする、5分になったら警察がくる」という構造からも脱したのだと解釈した。
このゲーム、やり始めの時に「うおーループおもしれー絶対抜け出すぞー」と意気込んでいた人ほど、解釈の分かれる結末に戸惑うと思う。現在のsteam評価が「やや好評」なのも「は?何この終わり方」とがっかりした人が多いのだろう。
傾聴厨になるんだ、さすれば救われよう……
ループは妄想説
「ループは妄想説」がある。ループするなんてそもそも荒唐無稽だし、仮にループが実在するとしたら、ループごとに開始状況は不変であるべきなのに絵画や花に変化があるのは何故か。
キッチンの卵の絵が、ループを重ねると最終的にウロボロスになる。4箇所ある部屋の絵はそのうち3つが変化していくが、キッチンの変化が一番怖い。また、寝室の花は毎回水をやり、実績の発生する特別な回である「腰抜け」「ウッドチャック」「告白」を見ることで3つの花が咲く。花をやらなければ枯れ、ナイフで植木鉢ごと破壊することもできる。
花と絵のパターンはこちらに全て載っている。中国語のページ。
ちなみに変化しない絵はモールス信号になってるそうだ。これも中国語のページ。
ループなのに変化がある、変化の内容は本編を暗喩するようなもの。これはメタなものだとも解釈できるが、「ループは妄想で、妄想している人物であるアーロンの心境が反映されているだけ」という解釈はしっくりくる。
妄想だとして、どのようなシチュエーションで妄想しているのか。
妄想説A.父を殺し、姉弟であることを忘れ姉と夫妻になったのまでは真実。ループは、封じられた記憶が意識下で「このまま幸せになってもいいのか」と良心に訴えかけた結果
妄想説B.姉に恋をしたのまでは真実。ループは、父に瞑想療法で想いを消されようとしながら「もし姉と結ばれたら」という架空の未来を繰り返し妄想した結果
妄想説C.姉の存在自体妄想。ループは、強固な妄想に囚われた精神病患者と精神科医の攻防戦の結果
マインドフルネスという心理療法で使う用語が実績に出てくるのは、父あるいは精神科医が治療を施しているところっぽく、「ループは、精神を病んだ男の妄想である」説がそれらしく思える。
BとCの場合はハッピーエンド厨の拠り所である「傾聴」もまた妄想の内でしかない。Aの場合は傾聴もいけるか。潜在意識がこのままでいいのかと訴えかけて妄想ループしたけど、蓋して今の幸せを掴み、過去は完全に捨て去る。
妄想説ABCだと2分間については真実ってことになるが、それも怪しい。父は時系列の怪しい発言をするし、12分全てが虚実あやふやかもしれない。
真相判明時に見た父を殺す瞬間は真実だが、2分間は過去の記憶をもとにした脳内世界じゃないかな?
「父=警察」説
夫は記憶を取り戻した瞬間に、父を殺害してしまった時の本棚だらけの世界に意識を飛ばす。その時の父は髪がフサフサ。その後、懐中時計を見ることでその2分間の世界に飛べるようになる。
2分世界で話す相手がフサフサではなくツルツルな、父ではなく警察になっている回がある。警察回の発生条件はよくわからない。初めて時計で2分世界に飛んだ時にだけなるのかな?
10分世界での警察は黒ジャケットにダークグレーのシャツを着ているが、2分世界では警察も父もノージャケットで白シャツ。
cyberpunk2077というゲームには特定箇所で主人公がハゲる謎のバグがあるので、これもバグの可能性はなくもない。でも意図的な演出だと受け止めたほうが面白い。
父と警官は声優が同じ人。有名俳優のウィレム・デフォー。キャストクレジットではデフォーの役名は「Father」とだけある。警官も娘がいるので父ではあるが。
妄想説B・Cの場合は父=警官と考えるとしっくりくる。「瞑想など心理療法に詳しい父」あるいは「精神科医」は、アーロンの妄想を消し去ろうと治療をしている。幸せな妄想を壊そうとする治療者は、妄想の世界では夫妻を殺す警察という形で投影されたのではないか。
「続き」は続きってことは結局ループ終わらないのか?
ループで蓄積された記憶がリセットされるけど、続きってことは続くのか? 消えてはまたループし、消えてはまたループし、という過程の中の段階でしかないのか?
傾聴は本当にハッピーエンドなのか
傾聴が現実であり、警察問題もなんかうやむやになり、夫妻が幸せに暮らしていくとする。だが、二人が姉弟なのも父殺しも事実だとする。その場合それってハッピーエンドなのか。
夫は実姉を好きになり追っかけたことや父殺しの罪を都合よく忘れている。妻は「自分は父を殺した」という罪悪感を生涯背負い、知らずに実弟の子を生むことになる。妻が可哀想で夫がずるい、と思える。
そういう意味では「騙されてる可哀想な妻なんていなかったんだよ」ということで妄想説BCのがハッピーと受け取ることもできる。また、12分ループして孤独を選ぶというのもまた人道的。
でも「全部妄想でした」というオチはあまりにも便利すぎて好きではない。殺人と姉弟であることは事実であってほしいし、一度やらかしてしまったのに遡り続けた果てに無かったことにするというのも嫌だ。
蓋を開ければ罪悪が詰まっているが、一生蓋を開けずに生きていくという終わり方が好みなので、その方向の物語だと受け取ることにする。