少年と赤い願い
ある少年の昔話をしよう。
それなりに恵まれた家に生まれ、不自由のない暮らしをしていたよくいる境遇の少年だ。
彼は才覚に恵まれていた。幼稚園の頃には簡単な漢字が読めて、繰り上がりも繰り下がりも出来た。
彼は素直だった。嘘をつかず誰にでも優しく接する模範的な人間だった。
彼は正義感に駆られていた。いつでも公平を愛し、差別を嫌い、悪を許さなかった。
彼を取り巻く環境は良くなかった。公平と公正を愛するが故に、いつも割を食っていた。
彼は不幸にも理解力が高かった。世界は公平ではなく、悪者に支配されいた。
理由は不明だが、彼は狙われた。虐げられ、おびやかされ、それでも抗い続けた。
だが彼の気力も無限ではない。終に、彼は折れた。
話にはまだ続きがある。折れた彼は、淀んだ世界への復習を望んだ。しかし同時に彼は、そんな世界にはもう1秒ですら居たくなかった。
才覚に恵まれた彼は、復讐を実行する自動人形を作り出した。自分がいなくても、復讐を完遂出来るように。
そして彼は自らを手放し、対価に、苦痛の中でせめてもの眠りを手にした。
彼は自動人形に、持てる物を託していた。
その知識を、技術を、肉体を。
そして、すべての人類を破壊する、赤い願いを。
その自動人形は、今も世界の何処かを彷徨っているらしい。かつての少年の名を騙り、赤い願いを成すために。