どこでハマるかわからない
私は紅茶よりコーヒー派なんですけど、「ゴールドブレンド大好き」って感じでインスタントコーヒーで大満足していました。
数年前にコロナに罹患してから、自覚している後遺症が今も一つだけあって、コーヒーの香りだけが、焦げの匂いに感じてしまって、「わぁ~いい匂い!」っていうあの感覚がずっと得られなかったんですよね。
でもまったくわからないわけではないし、コーヒーの香りが徐々に、本当に徐々にすこーしずつ感じられるようになるのを、「こんなにゆっくり回復することもあるんだなぁ」と観察することは面白かったです。
そんな日々でしたので、余計にインスタントで十分な感じだったんですが。
きっかけは、義父の急死でした。
義父もコロナに罹患したんですけれども、病状が急変して、そのまま亡くなってしまいました。
慌ただしく里帰りし、通夜に葬儀にと奔走する夫達を見ている横で、私は亡くなった義父の為にコーヒーを入れたんです。
あんまり詳しく覚えていないんですが、最初は単純に、私がコーヒーを飲みたかったんでしょうね。
義父は私たちが帰省している時も毎日コーヒーを飲んでいましたから、コーヒーは確実に家にあるはず。
すぐにコーヒーは見つかりましたが、それはお湯を入れたらすぐ飲めるインスタントコーヒーではなくて、缶に入った粉コーヒーでした。
義父は毎日コーヒーをいれていましたが、それはインスタントじゃなくて、粉からドリップしてたんですよ。
そうだそうだ、そういえばそうだったと思いながら、どうしたものかと逡巡したとは思うのです。だって、せいぜいドリップバッグのコーヒーしか入れたことがなかったので。
でも、目の前にはちゃんと紙フィルターもドリッパーもポットも先が細いケトルも全部そろっていたので。
お供えしよう、って思ったんです。
勘で粉をはかって、その場にいる皆と、義父の分のコーヒーをいれたんですよ。
義父の分は祭壇にお供えして。
これがね、すごく美味しかったんですよね。
みんなもほめてくれました。
おじいちゃんも喜んでいるだろうね、って。
やっぱり香りは焦げた感じの方が強くて、コーヒーのアロマ的なものはかすかにしか感じなかったんですけど、すっきりした爽やかな味わいは、「いつものインスタントコーヒー」とははっきり違っていたのでした。
遺品整理みたいなものも始まったんですけど、使ってないドリッパーを見つけたんで、もらって帰ったんです。
それで、夫が我が家用にも先の細いケトルを買ってくれましてね。
義父の粉コーヒーが入ってた缶と同じものを買って、ドリップしたものを飲むようになったんです。
月命日には義父の写真の前にもお供えします。
毎日入れましたけど、どうも日によっても体調によっても味わいが変わる気がしました。
毎日同じ味にするってのは難しいものなんだなと。
けどやっぱり、インスタントよりは美味しいなって、感じるんですよね。
なんだろうな。
インスタントも別にまずくないですよ。
でも、もっと美味しい、って感じです。
私、飲み物は薄いのが好きなので、エスプレッソをそのまま飲むのは苦手だし、緑茶も出涸らしの方が好きだったんです。
けど、普通に美味しく入れたコーヒーや緑茶をお湯で薄めて飲むのは、出涸らしにはない美味しさがちゃんとあるんだってことに気付いたって感じでしょうか。
こうして義父のおかげで、半年以上、私は粉コーヒーを楽しんできました。
義父は若い頃、喫茶店で働いていたそうで、なんとサイフォンまで家にあったんですよね。
おそらく、本格的なコーヒーの入れ方も知っていてコーヒーの味わいの違いも知っていた義父が、最終的には粉コーヒーとペーパードリップに落ち着いたのだから、これがもっとも手軽に美味しく飲める最適解なんだろう、と夫と話していました。
だからさすがに、豆とかには手を出せないよね、と…
……
……
なのに私、急に、
「豆で入れるとそんなに違いがあるのかな」
と思い立ってしまったんですよね。
その時たまたま読んだブログが、高齢夫婦が毎朝豆を挽いてコーヒーをいれてるがその豆が古くてまずい、みたいな内容だったんです。
それで思い立ってしまったんですね、単純な私は。
思い立ったら即行動、ホームセンターに行って一番安いコーヒーミルを購入し、スーパーでいつも買ってる粉コーヒーと同じ豆を買いました。
いつも買ってるのと同じ種類なら、味の違いもわかると思って。
で、入れてみたんですけどね。
まず、豆が硬い!
ちゃんとハリオっていうメーカーから出てるミルなんですけど、手動なんです。
ハンドルを回すのは余裕なんですけど、ミルを抑えている左手首が死にそうになるんですよね。
だから、膝の間に挟んだりして工夫するんですけどま~つらい。
味は、まぁ……
いつもとほぼ同じでした(笑)
でも、豆は一袋分あるので、数日律儀に硬いミルを回してたんですが…。
「こんなしんどくて毎日続けられるわけない」
と、無駄遣いかもしれないけどもっといいミルを買おうと思い立ちました。
そこで改めて調べてみると、私が最初に買ったのはセラミック臼を使ってるそうで、これがステンレス臼のものはもっと楽に豆を挽けるそうなんですよ。
豆の味はセラミックの方がいいとか、そんなことも書いてあったんですけど、味より手軽さです。
いや味より手軽さとるならインスタントに勝るものなしなんだから戻りなよ…とも思うかもしれませんが、インスタントと粉の間にはあまりにも違いがあるのでそこは戻れないんですよ。
だって私、粉からコーヒー入れるようになったらほとんど喫茶店行かなくなったんですから。
やっぱり、自分好みの濃度や温度で入れられるって、おうちコーヒーのすっごくいい所なんですね。
はい、同じメーカーのステンレス臼のミルが届きました。
スマートG PRO ブラック って名称からしてプロですよね。プロって書いてない方がカラーがクリアでよかったんですけど、そっちはセラミックだったんで買えませんでした。
これがね~そこまで劇的に軽い挽き心地ってわけではなかったんですが、左手首が死なない!
これだけで本当に嬉しかった!
挽かれた粉は、静電気なのか臼にくっつきまくりますけど、一緒に買ったコーヒーミル用のブラシがすごくて一瞬で綺麗になりました。
それで、味には特に変化を期待していなかったのですが…
なんかね、全然違いました。
グルメ的な語彙力がないのでうまく表現できませんが、なんというかすごくスッキリした味で、ものすごく私の好みだったんですよね。透明度高い感じです。伝わるかわかりませんが(笑)
そして何より、なんかこう、香りがするんですよ!
久しぶりに!!
コーヒーの華やかなアロマが、ふわっと!
私で感じているんだから、これはすごいことですよ。
もしかしたら私の嗅覚が劇的に回復したのか? とも思いますけれど、そんな昨日の今日で変わる気もしないので、たぶんミルの違いです。
これは本当に嬉しかったですね。
このまま豆を挽き続けてたら嗅覚の回復も速まる気がします(笑)
本当に、これまでずっと飲み続けてきたものでも、何をきっかけにどこでどう転んで別の角度からハマるかわからないものですねぇ。
興味深いものです。