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「ちょっとそのカード見せて」

「なんでこんな強いんだよぉ~!」
そう文句を言いながらカードを相手に返す。
小学生だか中学生だか
とりあえず、自分の周りだけが世界の全てだと思っていた頃。
友達の家でひたすら遊戯王をやってる子供だった。

「ガチはなしだろ」「強いだけは寒い」
なんて振り返ればわけのわからない理由で
環境デッキを使うと総スカンを食らっていた。

公式ルールなんてわからなくて
俺らだけが盛り上がれるの遊び。
「そのカード知らんから見せて」なんて言いながら
相手の承諾の前にカードを取ってテキストを凝視する
満足すれば無言で返却。
それでお互い良かったし馬鹿みたいに笑いながら遊んでた。

カードゲームは往々にして対面の相手がいる。
あとカードを広げることのできるスペースも。
友達の家を頻繁に行けなくなったり
そもそも頻繁に会って遊ぶこと自体も減っていった。

話を聞くとスマホアプリとかでカードゲームはやってるらしい。
結局、遊戯王に比べると微妙みたいで
すぐやめて、新しいものに手を出して、またやめる。
その繰り返し。

そんなこんなで遊戯王の何百のカードの種類はコレクションと化し
馬鹿やってたころの思い出の一つになって風化した。

「遊戯王とかそんなカードゲームも長くやってたなぁ~」
いま持ってるカード売ったら結構な額になりそうとも思った。

そんなタイミングで始まったのが「マスターデュエル」
遊戯王のデジタル版が出ると話題になってた。
リンクスの件もあり、また別ゲーな気もするから期待はしてなかった。

そんな思いとは裏腹に
マジで紙の遊戯王がそのままデジタル版になってた。
あの頃友達と笑いながら必死にやってた
そのままが目の前の画面に広がってた。

あの頃の友達にも声を掛けたら同じような反応が返ってきた。
「あの時のデッキ組んどいて」
まさか自分と同じ考えをしていると思わなかった。
いっそ環境デッキでも組んでいこうかと思ったが
あまりにも大人げないし、空気終わりそうだったし…。

結局いつもの4人で通話しながら環境のかの字にも引っかからなそうな
無茶苦茶大味なデッキだけで何時間も遊んだ。
目の前にいないのだけはあの頃と違うけど。
むしろリアルファイトに発展しないし
なによりこんなにニヤニヤしながらゲームしてるの見られたく無いし。

大人に片足突っ込んだ今も変わらず
「ちょっとタンマそんなカードなんて知らねぇ~、それ見せてよ」
って言いながらゲームできるとは思ってなかった。

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