俺とUNIとEVO2020

「EVO2020のメインタイトルにUNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late[cl-r]が選出!」

初めてその情報を目にした時の俺の感想は、すごいなあ、でした。
完全に他人事です。

EVOというのは、ラスベガスで行われる格闘ゲーム(以下格ゲー)の世界大会。数ある格ゲーの大会の中でも最大規模のもので、世界中から無数の格ゲーマーたちが集まります。
2020年に開催されるEVOなので、EVO2020。七月末からの開催を予定されていました。

UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late[cl-r](以下UNI)は、厨二病全開な世界観と、システムを土台にした駆け引き、あとどいつもこいつも他の格ゲーなら壊れてると言われるような強い技を待ってるのが特徴の格ゲーです。

俺がUNIを始めたのはだいたい一年とちょっと前。
幸いなことに、始めたての時期に良い格ゲー仲間とも出会え、かなり夢中になってプレイしていました。
ゲーセンには付き合いでしか行ったことのないような自分が、どこどこのゲーセンに人がいるという情報を見ては、仕事上がりに財布いっぱいの百円玉と、胸いっぱいの闘志を抱えてゲーセンに通う日が来るとは夢にも思いませんでした。
百円玉を取り回しやすいように、財布は小銭入れと長財布の併用にしたりもしました。
LIFE IS UNI. NO UNI, NO LIFE でした。

まさにUNIにどはまりしていた俺。
しかし、あることをきっかけにどうにもこうにもUNIが楽しめなくなってきます。
初級者にはぼちぼち安定して勝てるようになってきて、正直調子に乗っていたころです。
上級者が多くいる、今まで行っていなかったゲーセンに行きはじめました。
これがきっかけでした。

勝てない。いや、勝てないだけならまだ良かった。
最悪なのは、時々勝てても勝てた理由がさっぱりわからなかったことです。
なぜ勝てないのかわからない。
なぜ勝てたのかもわからない。
この不明の連鎖は巨大な壁になり、俺の闘志をごりごり削っていきました。百円玉もごりごり削られました。
あんなに楽しかったUNIが、なにをやっても運が良い悪いで終わってしまう、つまらないゲームに見えてきました。
まだやる気あるふりをして自分を騙しながら、それでも少しずつUNIをやる時間は減っていきます。
俺の心は、冬のように冷え切っていきました。

EVO2020の情報を知ったのは、まさにそんな時だったわけです。

冒頭の通り、当初はこの情報は俺にとって他人事でした。
UNI自体からも離れていたし、そもそも世界大会に出るような人たちと対戦したところで、自分がいい結果を残せるビジョンが思い浮かばなかったからです。
金と時間の無駄だとすら思いました。

そんな俺を置き去りにして、周囲はEVOに向けて盛り上がっていきます。
その盛り上がりは、冷え切った俺の心にもなんとなく熱いものを投げかけてくれるような、なにかに正面から取り組んでる人だけが持つ確かな熱量がありました。

そんなある日、よくUNIで対戦するある人がEVOについてtweetしているのを見かけます。
正直、この時どうしてこんな行動を取ったのかは自分でもわかりません。
指が半ば勝手に動いていて、その人にメッセージを送りました。

「もう飛行機とホテル予約しました?」
「今一緒に行く面子と相談してるとこ」
「よかったら俺もまぜてもらえませんか?」
「待ってるから来て!」

会社からの帰りの電車に乗っていた俺は、即座に飛び降りて別の電車に乗りました。
ありがたいことに、俺みたいな突然割って入ってきた相手にも誰一人いやな顔せず歓迎してくれて、とんとん拍子にラスベガス行きの飛行機とホテルの予約に成功します。
帰宅した俺は、それまでの停滞を振り切るようにEVOへの登録もすぐに済ませました。
この時、なにかひとつでも噛み合っていなければ、EVOに登録することはなかったと思います。

それからの俺は、UNIと真剣に向き合い始めました。
仕事の勉強やゲーム以外の趣味に関連することは、EVOが終わるまで全部後回しにしました。
惰性でやっていたソシャゲも一切やらなくなりました。
格ゲーを長時間やる体力をつけるため、運動をはじめました。10kg痩せました。
格ゲーで消耗した脳を癒すため、チョコを食べはじめました。5kg太りました。
自分のだめなところが自分ではわからなかったので、対戦会には積極的に参加しました。なにかとっかかりだけでも得られるようにと、コミュニケーション能力に自信がないなりに色んな人の話を聞きました。
ただ楽しくてどはまりしていたあの頃より、間違いなく真剣に取り組みました。人生で一番真剣だったかもしれません。

そのかいあって、自分なりになにをすべきかというのがぼんやりとですが見えはじめてきます。
プレイしなくなっていたのに加え、今まで意識していなかったことに挑戦しはじめたため、はじめのころは全然思うようにいきません。
それでも、EVOというはっきりとした目標は、俺の背中をどんどん押してくれます。

このころには、結果のために大会に出る、という考え方も変わっていました。
自分の全力をぶつけたい、そして、後悔のない対戦をしたい。
誰かの目を気にして大会に出るのではなく、ただ自分のためだけに。
そう割り切れたことも、UNIに向き合う上で一役買ってくれたと思います。

前みたいに腐らずに、俺はUNIをプレイし続けて、ついにその時が来ます。
こういうことかな、とぼんやりと試してきたことが、色んな対戦でかっちりはまることが増えてきました。
前は全然勝てなかった相手にも、勝てるようになってきました。
それを自覚した瞬間、俺は思いました。

壁を、越えた。

心が、震えました。

自分のUNIの腕前は、贔屓目に見ても中級者がいいところなので、うまい人からすれば「そんなこと」程度の壁だったかもしれません。
実際、壁を越えたといっても全然勝てない人もいますし、今は別の壁に突き当たっていたりもします。UNI難しい。
それでも、この壁を越えた経験は、自分にとってかけがえのないものになりました。

とにかく楽しくて夢中になっていた時間。
壁にぶつかって冷えていく心。
なにかが噛み合って掴んだ心機一転。
壁を乗り越えるために取り組んだこと。
壁を越えた瞬間の感動。
その全てが自分の中で息づいています。
これらすべては、UNIというゲームがなかったら手に入れられなかったものです。
ありがとう、UNI。

さて、そんな経験の原動力になってくれた、EVO2020。
残念ながらコロナウイルスの影響で中止になってしまいました。
タイトルは毎回変わるため、来年のEVOにUNIが選ばれるかもわかりません。
ただ、このEVO2020がなければ、自分がここまで格ゲーを、UNIをやりこむことはなかったと断言できます。

ありがとう、EVO2020。
お前とは無理だったけれど、いつか必ず、お前じゃないEVOに会いに行くからな!

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