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お寿司は好きですか。(2)
東京に「すきやばし次郎」があるように、金沢には「小松弥助」があります。
僕には美味しいものに詳しい友人が多いので、さまざまな店に連れて行ってもらうという、贅沢で幸福な境遇にあります。ただしグルメではないので、寿司のうんちくを語る人の話などを聞かされてもあまりピンときません。目の前に出された美味しいものを、ただ「美味しいなあ」と言って食べているだけです。
コンテストの審査でもするように料理を食べても美味しくないのではないか、と感じます。食べる人の個人的な好き嫌いはあるでしょうし、なにしろ「味覚」というのは基準が抽象的すぎます。ワインの香りを「濡れた落ち葉のような」なんて表現されても素人にはサッパリわからないのと同じですよね。
しかし、「小松弥助」だけは違いました。美味しいとか美味しくないなどの基準はどこかに飛んで行ってしまい、今まで食べていたお寿司とはステージが別次元であることが、最初に出てきた「マグロのヅケ」を食べただけですぐにわかりました。
大将の森田一夫さんは80歳をとうに過ぎていますが、毎日この店に立ち、お寿司を握っています。昼だけの営業で席数の少ないお店なので予約が取りにくいこと以外は、名店にありがちな偏屈さや頑固さはどこにもありません。森田さんはいつもにこやかで、楽しそうにお客さんと話しています。
僕らが東京から行くと金沢のお寿司はどこも値段が安く感じます。「物価や人件費、家賃などが安いから」という理由はどんな地方に行っても当てはまることなのですが、東京の名店をしのぐほどの腕前の職人が握るお寿司が安いのが驚きです。
地元の人に聞くと、「これでも国内外の観光客が増えたことで飲食店の値段はかなり上がった」と聞きました。でも金沢のお寿司は、そのためだけに北陸新幹線に乗ってわざわざ出かけて行くのに十分な価値があります。
僕は何度か訪れているうち、初めてこの土地を訪れる友人に、「いかに金沢は素晴らしいか」を一生懸命に説明している自分に気づきました。