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サトチヒロ「水晶の絵」

美術家・サトチヒロさんは、なんと天然水晶で絵を描きます。きっと意味が分かりにくいですよね? まだ「水晶に絵を描く」のほうがピンときます。しかし彼は確かに水晶を使って絵を描く(創る)のです。聞けば世界で唯一の技法だろうとのこと。オンリーワンに弱い私は、彼へのインタビュー取材をしてみました。その驚きのライフストーリーと絵画観を彼自身の言葉で、ぜひ最後までお読みいただきたいと思います。


個展情報 サトヒチロ「水晶の絵」展

まず個展のご案内です。仙台市・晩翠画廊さんと提携しGALLERY SPEAK FOR企画として開くことになりました。あとでご説明しますが、サトチヒロさんが美術を学んだのは岩手県です。銀座にはすでに彼のギャラリーがありますので、初めて東北地方へ帰って展示をするのも有意義だろうと、今回の企画となりました。

サトチヒロ「水晶の絵」 2022年6月7日(火)~ 12日(日)
会場:晩翠画廊 宮城県仙台市青葉区国分町1-8-14 仙台協立第2ビル1階
TEL 022-713-6230 開廊時間:11:00~19:00 最終日のみ~17:00
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=783

カウンセリング活動から絵の道へ

Q : 絵はどのような手法、プロセスで制作するのですか?

サトチヒロ(以下、S) : いろいろな街や場所を取材して回る私的な「体験」が創作のもとになっています。あてもなく車で放浪することがもともと好きで、それが原点ですね。取材時はスケッチもせず写真も撮らず、ただその印象だけを持ち帰ります。取材した対象がそのままアートになることはありませんが、制作を始め下塗りをしている段階で、必ず何年前かに取材した場所の印象が画面に現れてくるのです。
下塗りはアクリルです。出てきたモチーフによって、そのままアクリルで描き進める場合もあれば、アクリルの上に油彩で仕上げる場合もあります。その表面に水晶を施すかどうかは、その作品によって変わるのです。水晶は、完全に作品ができあがったという判断がなければ貼ることはできません。
制作日数は早いもので約3週間、長いものでは6年以上も筆を加えているものもありますね。

クロッカス_note

「クロッカス」(2018年)318×410mm
キャンバスに油絵具、天然水晶

Q : なぜ絵を描くようになったのですか? 美術家としてのスタートのいきさつは?

S : 子どもの頃に画塾へ通っていたことがあり、ゴッホやモネなどが好きでした。高校時代から自分の絵の好みがフォビズム、キュビズムのほうに移り変わり、ピカソの絵を見たことをきっかけに現代アートにも興味を持つようになりました。さらに美術については大学時代に学んだ基礎があります。
卒業後は長く工業デザインの仕事をしてきましたが、転機へと導いてくれたのはその間もボランティアで続けていたカウンセリング活動です。様々な相談に接しカウンセリングをしているうちに、自分が描いている絵がクライアントの役に立つのでは、という直感があり、そこから本格的に絵画の世界に飛び込むことに。
今まで映画や音楽など幅広いカルチャーソースから影響を受けていると思いますが、大学時代に宮沢賢治を読み、岩手県中の山々を回っていたこともあり、石のことや、色や場面の詩的表現などについては、かなり宮沢賢治の世界からの影響があると思っています。

絵のエネルギーをより強くする水晶

Q : 水晶を絵に使うようになったのはなぜですか?

S : 工業デザインの仕事でパワーストーンを扱っているとき、それを自分のための表現材料ではなく、クライアントのために試してみたことがきっかけですね。
試作から水晶を画材として使った作品を創り上げ、その後にようやく自己表現の方法として今の一連の創作「水晶の絵」が確立しました。

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「Sunset Cove」(2022年)(部分) 242×333mm
キャンバスにアクリル絵具、天然水晶

長い間に試行錯誤してきたのは、魂のエネルギーや気の姿という目に見えないものを絵にできたらという願いのため。そのひとつの結論が、水晶を粉末ではなく細石として使い、油彩やアクリルと組み合わせる「水晶の絵」シリーズと、そこから続く作品群でした。水晶は「光を集める」ことで、絵の放つエネルギーをより強く豊かにしてくれると分かったのです。
本格的にこのスタイルを追求し始めたのは、2010年に10点ほど制作した最初のコレクションが非常に良い反響をいただいてから。すぐに完売し強い手応えを感じました。

より本質的な表現へ、終わりなき研究

Q : この絵の手法で難しい点はどのようなことですか?

S : 「水晶の絵」は色や抽象的な表現だけでは完結せず、あえてルネサンス絵画的な具象表現、技法にこだわった表現、ドラマチックな場面などの描写へ、いったん立ち返り学び直す必要がありました。そのため、今でも細密的な具象表現の作品も多数描いています。
もともとは具象を描くことから入っていますが、それらを突き詰めていくとやはり抽象表現にならざるを得ないところがあります。抽象画の中で美しさや私の本質をさらに表現していけることを目指しています。
水晶を扱う上で一番難しいのが、水晶特有の屈折率を生かした画面構成の仕方。そしてなるべく長期間保持できる定着方法などです。10年以上の月日のなかで得た最適解が今の手法ですが、まだベストな方法は見い出せていない現在進行形の課題です。

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「窓 The window」(2018年)1455×1120mm
木パネルに油絵具、天然水晶
(本作はサト氏にとって最も核心的で重要な作品という)

Q : 絵のモチーフになっている少女や生き物たちは何を表しているのですか?

S : 初めは全く何のイメージもせずキャンバスに向き合います。その時の感覚で色をのせていくうち、それが何になりたいか、絵が語りかけてくるのです。本格的な制作作業が始まるのはそこからで、森が出れば森、人らしきものが出てくれば人を表すことになる、という具合です。ただし定番の作品に関してはその限りではありませんが。
例えばF100号2枚分の「飛天龍神図」という作品があるのですが、そこに出てくる登場人物たちは全てインドから中国に伝わった仏教と、もともとその土地に伝わる土着信仰などが合体した「飛天」、日本で言う「天女」が現代風に蘇ったものだと自分では認識しています。

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「The Blue DEMETER」(2022年)410×410mm
キャンバスにアクリル絵具、天然水晶

ガンダーラ美術の塑像で「豊穣の女神」という作品がたくさん出土しているのですが、それに触れたときに突如インスピレーションが沸騰するように湧いてきて、何作も連作で少女像を描いたことがあります。それらはすでに完売しましたが、今回仙台での個展で発表する少女たちもまた、その「豊穣の女神」の現代版と言えるものです。僕はその少女たちに、ギリシャ神話に出てくる女神である「デメテル」という名前を付けています。

「気を変える」絵、国境を超える

Q : 創作に取り組み続けるモチベーションになっているのはどんなことですか?

S : 私の絵を複数持ってくださるオーナーが多いですね。ひとつの作品だけでなく「この作品も良い」と言っていただけるのはとても嬉しいことだと思います。お部屋に飾るだけで部屋の気がガラッと変わった、この絵を持つことで人生の転機になったと言われることも多く、もともと、誰かの助けにもなる絵というコンセプトから始まった創作活動ですし、そういうフィードバックがよりよい作品を生み出そうという励み、エネルギーになっています。

Q : 今後、近い将来の目標をお聞かせください。

S : 自分自身に課していることは、ひとりでも多くの方にサトチヒロの作品を知っていただくこと。もうすぐマレーシア、シンガポールのギャラリーと契約予定ですし、NFT化、海外販売の計画も持ち上がっており、これが目下の目標となっています。年内に銀座での個展をあと1回予定していますが、今回の晩翠画廊さんでの個展は銀座以外で初めてとなる個展ですし、このために描き下ろした新作をぜひ多くの方たちに見て知っていただきたいと思っています。

サトチヒロ近影

サトチヒロ 美術家 / カウンセリングヒーラー
岩手大学教育学部特設美術科を卒業後、工業デザイナー、画家、カウンセラーとして活動を開始。長年のデザイナー及びカウンセリングヒーラーとしての経験をもとに、音楽と絵画、ヒーリングの統合を目指して創作活動を続けている。最近の個展に「水晶の絵展」(2021年、銀座・アートストンギャラリー)など。二科展、ポルトガル美術賞展、パリ国際サロン展、日仏現代美術世界展など入選歴多数。ルーブル美術館アートショッピングにも出展し好評を博した。現在、埼玉県在住。

仙台での個展後も、サトチヒロさんの作品の一部は現代アート通販の「タグボート」でご注文可能です。ぜひご利用ください。


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