大学(院)留学|なぜあなたの essayは評価されないのか?| Bloom's taxonomy
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アカデミック・ライティングが9割
海外大学(院)留学の成績を左右するのは、一部のプレゼンテーションや実習を除けば、アカデミック・ライティングの力がほぼ全てを占めると言っても過言ではない。
このアカデミック・ライティングにおいては、授業の資料やリーディング課題文献、先行研究の論文などで、他の人が言っていることをそのまま提示するだけでは何も評価されません。そうではなく、他者が掲げる主張や論を踏まえて自分の考察を論理的に展開するという、critical thinkingこそが求められるものなのです。
しかし、日本の「英作文」の授業や教材では、critical thinkingを鍛えて説得力のある論理を英語で展開する力を養える機会は、まだまだ少ないと言えるでしょう。
本記事では、アカデミック・ライティングにおいて役に立つ ‘Bloom's taxonomy’について解説します!これを意識することによって、essay questionで何を求められているのかが明確になり、時間も労力もかけたのに、低い評価しか得られなかった…というような事態を避けることができます。
Bloom's taxonomyとは?
Bloom's taxonomyとは、1956年に Benjamin Bloomという教育心理学者が提唱した、critical thinking skillsを 6つのレベルに分類したものです。発表から70年近く経とうとする現在でも、その有用性は評価され続けており、海外のアカデミック・ライティングのテキストで紹介され続けています:
Bloom's taxonomy
上に挙げた 1~6が、Bloom's taxonomyを構成する 6つの critical thinkingのレベルと、それぞれの達成目標です。
以下、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
Knowledge = critical thinkingの前提
日本の各種試験では、それこそ「Benjamin Bloomが Bloom's taxonomyを発表したのはいつ?」(A: 1956年)のように、単に知識を問うだけの出題も多いが、Bloom's taxonomyにおいては、knowledgeは critical thinkingの前提となるものに過ぎず、大学(院)留学における、成績に反映されるような課題では、単に知識だけを問われるようなことは無いと考えて良いでしょう。
したがって、この ‘knowledge’のレベルは、留学時にレポートや論文に取り組む前の段階である、講義やリーディング課題において、扱われたトピックが正確に頭に入っているか?という点を確認するために用いるべきものです。
Knowledgeに関するチェックポイント
授業で扱われたトピックについて、まずは習った通りの表現で説明・定義づけ・項目のリストアップなどができたか?
Comprehension = 自分のことばで説明しよう
留学に向けたアカデミック・ライティングの練習として、最初に重点的にやらされるのがパラフレーズと要約ですが、これは Bloom's taxonomyで言うと comprehensionのレベルに到達していることを示すためのものです。
現在では、ChatGPTをはじめとする AIツールを利用することで、パラフレーズや要約を生成してもらうことも可能となってしまっているものの、その正確性と妥当性をチェックするのは、あくまでも人間側の責任です。
UCLの授業の中で、クラスメイトのレポートを生徒同士で peer reviewする機会もありましたが、きちんと講義やテキスト、論文の内容を理解してパラフレーズや要約を行った英文と、ただ言葉尻だけを置き換えた(あるいは置き換えてもらった)英文は、見れば違いがわかります。ましてや、百戦錬磨の教授陣なら一瞬で見破ることでしょう。
Comprehensionに関するチェックポイント
講義資料や論文内にある表現の繰り返しではなく、自分のことばに置き換えたり要約して書いたか?
学んだ内容について、専門知識を持たない友人や家族に説明するとしたら…という視点で、最も重要なポイントを抽出できたか?専門的な内容を噛み砕いて説明できたか?
Application = 例題から練習問題へ
ここからが留学の課題で試される本番、といった感じがします。「試験: exam」の場合は、最低でも applicationの力が問われていると考えると良いでしょう。
Applicationというのは、数学の授業を思い浮かべてもらうとイメージがしやすいと思います。すなわち、まず「例題」で定理や解き方を一緒に確認した後、「練習問題」で類題を解く練習をする段階が applicationと理解してください。
最初は難しいと感じるかもしれませんが、日本人留学生ならではの applicationのアイディアとして、学んだ事項を日本の事例に当てはめてみると何が言えるか?という視点を持つと、留学時のレポートが書きやすくなるので覚えておくと良いと思います。
言語学ならば、授業中に英語の例文を用いて学んだ言語現象について、日本語でも同じことが言えるか検証することができますし、例えばビジネス分野においても、授業で学んだ企業分析の手法を日本企業に対して用いてみるだけでも、立派なレポートのテーマとなり得るものです。
Applicationに関するチェックポイント
授業で学んだ内容を、異なる事例(ex. 日本の場合など)に適用して考えることができたか?
異なる事例でも同じことが言えるのであれば、どのような点に共通項が見出せるのか?もし同じ結果が得られないのであれば、その理由はどこにあると考えられるか?(→ 以降で説明する深い議論につながります)
Analysis = 「分かる」は「分ける」
風が吹いて儲かった企業と、倒産してしまった企業があったとしましょう。「風が吹いた」という状況は同じであるにもかかわらず、一方では儲かり、他方では倒産した…このようなときに「風」と「それぞれの企業」だけを眺めていても、お互いの関連性はおそらく分かりません。
しかし、風が吹いて儲かった企業・倒産した企業それぞれに見られる共通項を、たとえば「舞い上がった埃の量」や「盲人やネズミの増加」といった細かい項目に分けて調べることによって、風と企業の盛衰の関連性をつなぐファクターが浮かび上がってくる可能性があります。
このように、複数の項目について、要素を細かく分類し、共通点や相違点を抜き出して、お互いの関連性を明らかにする段階が analysisというものです。
もう少しレポート・論文を書く際の実践的な例で言えば、複数の参考文献を読む(読まされる)のは、この analysisの力を試されているからとも言えるわけです。それぞれをバラバラに、「Aさんは〇〇と主張している・Bさんの研究チームは××という実験結果を発表した・Cさんは…」と列挙するだけでは、せいぜいレベル1, 2の knowledge, comprehensionの力しか示していないことになります。先行研究 A, B, C…の主張を細かく分けて共通項や相違点を抽出し、自分の論との関連性を説明することで、analysisの能力をアピールすることができます。
Analysisに関するチェックポイント
授業やリーディングなどから得た情報を分析して、お互いの関連性について考えられたか?
Synthesis = 今度は自分で組み立てる
Level 4の analysisが「細かく分ける=バラバラにする」工程だとしたら、level 5の synthesisは「組み立てる」とイメージしてもらえば大丈夫です。
上で Bloom's taxonomyのリストの中に挙げたように、synthesisの力を問う essay questionで典型的に使われる動詞は invent, propose, create, plan, design, develop, theorise, compose, hypothesise…といったもので、かなりハイレベルな critical thinkingを求められていることが見て取れるでしょう。留学中に課されるすべての課題で synthesisを求められるわけではないのが、せめてもの救いといったところでしょうか。
留学の課題で synthesisが求められる状況として、ガリレオが思いつく範囲での具体例としては、修士論文〜博士論文レベルのものであったり、ビジネス専攻でのビジネスプランの提案課題、教育専攻での授業案作成課題といったあたりでしょうか。学んだことをベースに自ら新しいアイディアを組み立てていくのが synthesisの段階と言えます。
Synthesisに関するチェックポイント
学んだ情報を組み合わせて、新しいアイディアなどを生み出すことにつなげているか?
Evaluation = 自分の価値は自分で示す
ガリレオが実際に UCL留学中に取り組んだ課題の essay questionのほとんどが evaluationを求めるものでした。自分が学んだ内容の価値であったり、更には自分が書いたレポート・論文の価値を(足りないところも含めて)正しく評価することを求められるのが、この段階です。
UCLで Florian先生から頂いたアドバイスなのですが、evaluationを行う際には、自分が裁判官の立場になったように想像するのがコツです。裁判官は、原告側と被告側がそれぞれ示す証拠を査定し、一定の判決を下します。それと同じように、授業で学んだことや、先行研究で読んだ文献が示す「証拠」を、ひとつひとつ「本当にそうなのか?」と(良い意味での)疑いの目を持って調べ上げ、その証拠に立脚した上で、自分はどのように考えるのか?その理由は?といった内容を説明していくことが必要になります。
‘Compare and contrast’は「表」にして考える!
Evaluationの中でも特に、essay questionとして compare, contrastという動詞が使われていたら、少なくとも頭の中で「表」として情報を整理しましょう。
上の問題例を見ると非常に難しそうですが、「フォークとスプーンを比較しなさい」と言われたら何をするか?というくらい単純化して考えてみましょう。
その場合:
などといったように、情報をまとめることができます。
重要なこととして、「フォークは△△です。スプーンは〇〇です。」のように、単に事実を列挙するだけでは evaluationにならないということ。ニーチェとフロイトの例に戻っても、「ニーチェは『自己』という概念についてこう言っている。他方、フロイトは『自己』についてああ言っている。」というレポートを提出すると、どれだけ時間と労力をかけたとて、思ったような点数はつきません。
あくまでも、それぞれについて細かい項目に分けて分析し (analysis)、共通点や相違点をベースに、各々がどのような点において優れており、どのような点では問題があるのか、というところまで踏み込んで論じることが evaluationなのです。
自分の書いたもの自体にも、critically evaluateすることが求められる場合もあります。その際には、必要以上に「いかに優れているか」を強調するということではなく、あくまでも裁判官の視点で、
といったように、客観的な評価を下せることが重要となります。
Essay questionと評価
なぜあなたの essayは評価されないのか?
Bloom's taxonomyを意識し、essay questionで求められていることに答えれば、世界トップクラスの大学(院)の課題でも恐るるに足りません。
他方、Bloom's taxonomyと照らし合わせて、essay questionで求められているレベルよりも下位の範囲に止まったレポート・論文を提出してしまうと、思い通りの成績が返ってこないという結果になります。
例えば、‘Analyse competing theories: 競合する理論を分析せよ’という課題で、単にそれぞれの理論がどういうものであるかを、頑張ってパラフレーズや要約して(またはChatGPTに頑張ってもらって)書き連ねて提出したとしても、大した評価はされません。
あなたが取り組む課題では、どのレベルの critical thinkingが問われているのか?—これを明確にし、ただ留学して「良い経験だった」で終わらせず、留学先で「無双」して Distinctionを超える High Distinctionの成績を収められるよう、本記事で紹介した Bloom's taxonomyをぜひ活用してください!
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