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「家庭教師」は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で!

今日はね アルバイトの話を しましょ!

私は大学生になり 初めての夏休みに
アルバイトを始めたんです

当時の私は 親からの仕送りと 僅かな奨学金で
細々と生活していたんですが 高校生の頃から
買いたいと思っていたステレオ が 何だか急に
欲しくなり お金を貯めよう と思ったんです

学生ができるバイトと言えば 家庭教師ですよね

市内の「家庭教師の派遣会社」に登録した結果
さっそく小学校6年生の4人を紹介されたので
全員の担当を引き受けて 各家庭を順番に回る
ことにしたんです

ところが その4人の中に この話の主人公
戸田(仮)君
が含まれていたんです

戸田君の学校の成績は クラスの中でも
後ろから数えて3本の指に入る いわゆる
劣等生でした

戸田君のお母さんは 街で小さなスナックの
ママをしながら 女手ひとつで 彼を育てて
いました

夕方になれば お母さんはお店を開けるために
家を出るので 戸田君はいつも一人で留守番に
なります 彼は 俗にいう「鍵っこ」でした

しかしお母さんが帰宅する迄は いくらでも
好きなテレビゲームができるし 誰からも
勉強しろとは言われないので 学業が
振るわない一因だったかも知れません

ただ彼の場合は 勉強嫌いというよりは 
物事に集中することができないタイプの
少年
と言った方がピッタリでした
そう 今で言うところの ○○障害 などの
名前が付く様な 症状だった気がします

しかし当時の私は まったく医学的な知識
など持っていませんでしたのでどうすれば
戸田君が勉強に取り組んでくれるのかと
けっこう 真剣に悩んでいたのです

ところが  肝心の戸田君の口から出る言葉
といえば 大概 こんな感じでした …

「先生 エクアドルっていう国の名前の由来を知ってる? エクアドルってね “ 赤道” っていう意味で…」

「先生が好きなアイドルって誰なの? 僕はね 可愛い系より どっちかというと キレイ系の… 」

「この間 校庭に大っきな青大将あおだいしょうが出たんだよ 教頭先生の足に噛みついちゃって 大騒ぎになって…」

「何で 月はいつも同じ面を地球に向けてるか知ってる? 月ってホントはね…」

「今度 お母さんのお店に来てよ 先生だったらチャーム●●●●代はタダにするよ きっと …」

 等々 …

とにかく戸田君は 勉強とは無関係な話
次から次へと 涙ぐましいほど 速射砲のごとく
撃ち込んで来ます

時間潰しのためなのは分かってますが  その話題の
多さと  話をズラすタイミングの良さは まさに
天才の域に達していました

頭の回転がこれだけ  素早いのに  どうして
成績は芳しくないのか  不思議で  不思議で
仕方が ありませんでした

あっ ちなみに「チャーム」って何か ご存じですか? 居酒屋の「お通し」みたいなもので スナックで 最初に出す“おつまみ” のことで     もちろん有料です あと これとは別に「チャージ」料金が掛かるお店が …

い…いけない これじゃ戸田君と同じ状態だ!(笑)
家庭教師の話に戻しますね!

ある日のこと 戸田君との1時間30分の激しい
バトル
が終わった後 私はお母さんに声を掛けて
次回の日程を確認して それをノートに
書き込みました

このノートは 派遣会社へ報告書を出す時の資料
にしていたもので 生徒4人の名前 連絡先
それに訪問スケジュール 勉強の進捗状況
気付いたことを 事細かにメモしていました

この日は 珍しくダブルヘッダーで 戸田君の
次の生徒B君の訪問時刻が 刻々と迫って
いました

私は大急ぎで荷物をバッグに詰めて 戸田君の
家を飛び出します

B君の家は 歩いて20分ほどの所にありました
予定通りに到着し 勉強を教えて 無事に
終わった頃 次回の訪問日程をメモるため
バッグを開けました

ところが 大事なノートが見当たりません!

えっ? 落としたか? 
いやバッグは開けてない! まずい!

まさか 戸田君の家に忘れたのか~?!

あのノートには 勉強の進捗状況に 加えて
“ 思い通りに勉強してくれない●●●●●●●●” 戸田君への
数々の悪口が しっかり書き込んで
あったのです!

嫌~な汗が 額にジンワリと滲み出すのが
分かりました

あんな 罵詈雑言ばりぞうごん を書いたノートを
こともあろうに その当事者の家に
忘れて来るなんて … ドジの極みだ!

もう2時間以上は経ってるけど 
運よく二人は まだ読んでいない …!

な~んてことは 有り得ない!

どちらかが見つけて きっと二人で
読んでいるに違いない

慌ててB君の家を飛び出した私は
今度は 戸田君の家へと走って戻る

時は もう夕方
戸田君の家の玄関ドアの前に立つ
生唾をゴクっと飲み込んで チャイムを押す

しばらくすると お店に出る姿に変身した 
戸田君のお母さんが ドアを開けた…
「あらっ 先生~~」

実は 記憶にあるのは ここまでで …
その後のことが 全く思い出せない

きっと自分の心の中でトラウマになって
脳が 勝手に記憶を 消去したに違いない

私は
「他人を無闇に 誹謗中傷してはいけない!」と
神様から諭された気がした

そして

素直な気持ちで「今後の人生の糧にしよう」と
思ったのです

それ以来 私は 「家庭教師」という言葉
見たり聞いたりする度に 今でも
あの日のことを 思い出します

そして 
無理なことと分かってますが 出来ることなら 
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいに
あの日 あの時 あの場所に 舞い戻って
置き忘れた あのノートを 自分のバッグに
そっと押し込みたい●●●●●●と思ってしまうのです

もちろん あの“タイムパラドックス”
起こらない
ことが 条件にはなるんですけどね


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