【クラシコレビュー】理想を語る権利 スーペルコパ準決勝マドリーvsバルサ 2022.1.13
スーペルコパ準決勝。まずはマドリーvsバルサからレビューしていく。
ラリーガで独走気味の首位に立つマドリーと、6位のバルサ。とはいえこれはクラシコだ。順位もチーム事情も関係ない。存在するのは勝者と敗者だけである。それは誰よりも、チャビが理解している事だ。
●スタメン
・マドリー
クルトワ
カルバハル / ミリトン / ナチョ / メンディ
カゼミーロ / クロース / モドリッチ
アセンシオ / ヴィニシウス / ベンゼマ
アラバが筋肉系の負傷で欠場。ナチョが出る。あとは普段通り。
・バルサ
テアシュケーゲン
アウベス / アラウホ / ピケ / アルバ
ブスケツ / フレンキー・デヨング / ガビ
フェラン・トーレス / デンベレ / ルーク・デヨング
アウベススタメンに、フェラン・トーレスがデビューとなった。2戦連発中のルーク・デヨングがここでも先発する。
アラウホが右、ピケが左だったのはヴィニシウスのスピード対策か。
●前半
両チームの設計、狙いを確認していく。
・前半のバルサ
まず守備から。思うような保持が出来る時間があまりなく、非保持のサンプルが多かったので。
4-4-2風で配置した。ガビが右だった理由の一つはここかな。
前2枚は相手CB、GKクルトワまでボールが戻る際は二度追いするタスクだった。
個人的にはここは疑問。CBにプレスしていた理由が何だったのか?の部分。ロングボールを蹴らせるためか?というと、違うと思う。
相手CBがボールを保持している時に、テレビ画面に映るほどにブスケツが前進する試合はそんなにない気がするが、ここまで前に出ておいてロングボールを蹴られては、何のメリットもない。クリーンな足下のボールを3CHから出させないためであったはず。
①CHにターンされ、クリーンな縦パス
②FW目掛けたロングボール
の順で警戒していたという事だろう。①は一定の効果があったが、後述するアセンシオのポジショニングでここも使われる場面があった
保持。
基本的に"デンベレが全て"だったと言っていい。彼の立ち位置、ボールの受け方で攻撃が成り立った。
マドリーはライン間を圧縮。ガビのプレイエリアが消される。ルーク・デヨングはそもそも地上戦でやり合うつもりはなく、フェラン・トーレスはガビの位置が近く、ダニエウ・アウベスが大外を取らないのでほぼ仕事がなかった。
デンベレである。この日は左のWGポジションでスタメン。右SBカルバハルがマッチアップしたが、この周辺。デンベレがボールを受けた外側or内側のチャンネルがバルサの生命線だった。
41分のルーク・デヨングのゴールもここから。
内側に立ったアウベスからロブパスが出る。カルバハルがデンベレに引っ張られ、空いていたミリトン-カルバハル間のチャンネルにフレンキーが侵入。彼の得意なプレーである。話が戻るが、この動きがガビが右だった理由その②。
最後はラッキーなフィニッシュになったが、デンベレの立ち位置をマドリーは常に気にしてバルサの侵入を許した。
・前半のマドリー
さてマドリー。こちらは保持から。
いつも以上にGKからのビルドアップを模索した。特にゴールキックはGK+2CBで繋ぎながら前進を試みた。
・プレスに来てほしいマドリー
まず、どんな前プレが来ても回避する自信があるマドリーからすれば、前プレに来て欲しかった。無論ヴィニシウスのランニングスペースを準備したかったからである。ショートパスで前進出来るならそれでいい。出来ないほどにプレスに来られたら蹴ればいいのだ。無敵である。
上述のバルサのGKまでの二度追いを利用してバルサのCHを引っ張り出し、背後のベンゼマがいそうなところ目掛けて蹴ればそれなりにチャンスは作れる。バルサは4枚DFを残してはいるが、正直ベンゼマとヴィニシウスなら2vs4でも一点くらいは取れる。
・プレス回避
さらにこのチームはプレス回避が出来る。というかめちゃくちゃ上手い。
一つ目は8:20頃に見せたクロースの回避。
バルサの前プレがそれなりにハマり、前向きのCH2人がカゼミーロ、クロースを消せている。
ブスケツを引っ張っていたクロースが、やや外側へもう一つ落ちる。やや外側へ、がポイント
フェラン・トーレスの気をひいた
これでボールはカゼミーロを経由してメンディへ。メンディとヴィニシウスが2vs2のゾーンを持てればそれだけで相手PAまで前進出来るだろう。相手がマークを受け渡す距離を微妙にチェックするクロースのエロいポジショニングである
この場面ではブスケツが外へ出ていく羽目になり、ブスケツがいなくなったエリアを再度クロースが使った。
二つ目。先制以後くらいからモドリッチが目に見えて低い位置を取り、アセンシオがハーフスペースで浮くポジショニングに。
これで右サイドはそれとなく地上戦でも進み始める。アセンシオは今のマドリーのシステムにおいて非常に有用な選手だ。それでいて際どいシュートチャンスも2,3回あった。
非保持。
4-5-1のような形できっちりブロックを形成。たまに中盤から誰かがベンゼマと並列に出てプレッシャーを掛けたが、あまり前から奪う意思はなかった。
ポイントはライン間を使いたい選手(ガビ)を自由にさせない事、大外で数的不利を作らない事の2点。口で言うのは簡単だが、カウンターの最前線を走るヴィニシウス、アセンシオがこの守備タスクをこなしてくれるのは非常に強い。エンバペがこれをやるのだろうか。来るか知らんけど
ここまで引いてしまって3CHに縦のスピードが無い編成だとポジトラで詰みそうだが、"走る選手は走る"を徹底しているのと、"ポジトラは再奪回されなければ良い"の2点で無敵の質を誇るマドリーはこれでいい。凄いチームだ。
後はベンゼマがいつもブスケツに背後からちょっかい出してるなと思って見ていたが25分の先制点はそこから生まれた。明らかに警戒されていた(毎試合だが)にも関わらず案外簡単に失ったブスケツ。シンプルにチョンボだと思って良いと思う。同じ場面は二度はないだろう。
●前半まとめ
マドリーはバルサに「どうぞ保持してくださいライン間は使わせませんよ」という守備。奪うとチャンスがあるならヴィニシウスの背後へ。無理なら地上戦でジワジワと押す。
バルサとしては糸口はデンベレ周辺にあり、そこから得点も生まれた。また、マドリーは前プレ上等でむしろ前までプレスに来てください。という受けて立つ姿勢。徐々にプレス回避の道筋も見つけて掻い潜っていった。
スコアは1-1だがリソースとアウトプットがアンバランスに見えたバルサと、広義な後出しジャンケンを続けていたマドリー。とはいえ現状の完成度でマドリーに分があるのは試合前からわかっていた事。チャビがクラシコで表現したいバルサイズムがどんなものなのか、後半で教えてほしいところだ。
●後半
・バルサの配置変更
バルサは2枚交代
ペドリとアブデを入れた。ペドリはお久しぶりの出場。ついにペドリとガビをIHに並べた。
これでバルサの保持が変わる。
両WGが一番外に立つ意識の2-3-5で立つ。
アウベスが内側に留まるのはペップバルサを見てきた身からすると不思議な違和感があるが。
主にアルバはデンベレより外、アウベスはガビ付近にポジションを上げてサポート、2-2を後方に残す形で両SBも片方は攻撃に関与した。この形で60分頃まで保持を回復。押し込む時間帯を作った。
まず、大外レーンにポイントを作れるようになった事で両IH(ペドリとガビ)が縦に抜けて深さを持つ形を意識出来るようになり、マドリーを押し込んだ。
PA角に両WGが入り込んでくる形で、主にデンベレにシュートチャンスが来る、という形を頻発。
マドリーは前線からの守備でまずはブスケツにクリーンに前を向かせない事を意識。後は撤退を受け入れてじっくり守った。
・チャビはピッチで理想を語る。アンチェロッティは勝利を求める。
66分にはルーク・デヨングに替えてアンスファティ投入。徐々にピッチはチャビの理想を描き始める。
対するマドリーの最初の交代はアセンシオ→ロドリゴだった。前半非常に良かったアセンシオを替えるのか、とも思ったが、2-3-5に変化したバルサの保持を考えた時に。
バルサはここを使われるのは嫌だろう。明確に配置の穴だ。内側に入り込んで仕事をするアセンシオから、外側でボールを受けて仕事をするロドリゴへの交代はアンチェロッティからのメッセージであった。実際、69分にはロドリゴへのサイドチェンジを使ってベンゼマがPA内でアラウホと1対1になり、決定機を作った。
モドリッチのターンが意味不明
ここでもバルサの配置に対して後出しジャンケンを続けるマドリー。まだ余裕がある。
2点目はそんなマドリーに入った。左サイド、クロースの保持から。
51分にイエローをもらってからやや後手に回っていたアウベスを振り切ったメンディのクロスから生まれた得点。流れも展開もひっくり返すクロースの球出しはやはり脅威だ。そしてヴィニシウス&メンディの対人のクオリティ。
しかしチャビは試合を投げない。78分にさらに2枚替える。
デパイとニコ・ゴンザレスの投入とあって、ガビとデンベレがoutかと思いつつ、交代はガビとアウベス。この交代は良かった。
カードもあり、対人でかなり後手に回ったアウベス。特にヴィニシウスとメンディはここからの時間さらに脅威を増す。元気なので。ここに手を加えた。それでいて、投入がミンゲサではなくニコだったのが印象的であり、チャビらしい。最終ラインの人数よりもネガトラの人数確保だけを意識し、同点ゴールを目指す姿勢を崩さなかった。
後方を3-2に変更。ここまで通り、2-2を残せば良い、という人数バランスを継続。副産物的にそれまでよりロドリゴのランニングを警戒出来るようになった。狙っていたかはどうだろう。押し込まれた時の事を考えていても仕方のない時間帯、チャビはポジティブなトライをしたと評価したい。
83分、同点ゴールは生まれる。
ショートコーナーからアルバの100点満点のクロスに、新しい10番アンスファティが合わせて同点。点を取るにはファイティングポーズを取り続ける事。生まれるべくして生まれた、決して偶然ではない見事な同点ゴールだ。
●延長へ
マドリーの凄いところは、あと30分試合を続ける事を恐れないところだと思う。同点にされても特に慌てず騒がず。主導権を持っているのは自分達である、というスタンスをどこまでも崩さない。これがマドリーである。不気味なまでに冷静。
●延長戦の末
マドリーはルーカス・バスケスin
バルサは3-2-2-3継続。圧倒的にバルサが保持。しかしマドリーは引き続き、慌てず、騒がず。
98分、決勝点はマドリーに入る。スピードがあったわけではないが、奪取からしっかりボールを繋いでのロングカウンターで6人がPA侵入。最後は後半途中から出場のバルベルデが決めた。さすがにキレが無くなってきていたデンベレのロストからの失点だったが、デンベレの単独侵入しか決定機を作れなかったバルサは、ここが限界だった。最後はアンスファティのオーバーヘッドが当たれば、という場面は作ったものの、一歩及ばなかった。マドリーは、これがクラシコ100勝目となった。
●試合結果
チャビ監督最初のクラシコを終えた。結果は延長戦の末、マドリーが3-2で制した。
まずバルサのサッカーは、ポジティブなものだっと思う。チャビ本人はポジティブすぎる嫌いがあるが。
個人的な意見を言う。後半、45〜65分辺りの2-3-5で押し込んでいた時間帯。ワクワクした。おそらくチャビのやりたい事がピッチで具現化されていた時間だったように思う。僕はこの時間帯のペドリ、ガビのライン間ワークに改善の余地があるように思った。
もちろん相手はマドリー、ペドリは復帰したばかり、この2人が並ぶのはほぼ初めて、このシステムに慣れているわけではない、
そんな事はわかっている。ただ、あの時間帯に得点が取れなかった理由は、IHがライン間で特別な違いを生めなかったからであり、改善の余地があると判断した。
狙った攻撃をしていた事は百も承知だ。この2人に特別なタレントがある事もわかっている。ただ、この試合の話である。この試合では、足りなかった。今後改善されていき、ペドリとガビ、アンスファティの3人が世界を席巻するかもしれない。その検証するのは、別におれの仕事ではないので、この試合の印象の話をしている。
少なくとも、"まだ若いのにマドリー相手に結構通用した!"なんて言ってちゃ駄目なんじゃない。当然本人はそんな事思ってないはずだけども。
アンチェロッティは試合後、チャビの言葉を真っ向から否定した。
事実マドリーにはまだ余力があった。ビルドアップ、選手交代、どこを取ってもバルサの変更点を確認する余裕があり、後出しを続けた。90分終了時点で戦術的にも体力的にも余力があったのは間違いなくマドリーだ。そして一度もリードを許さず、そして勝ったのだ。
この2人の発言を見ても、この両クラブは永遠に相容れないんだろうなと思うと、面白い。
チャビは理想をピッチで具現化し、その攻撃がマドリー相手でも決して夢物語ではなかった事をポジティブに表現した。それがバルサだ。
アンチェロッティは、試合に勝ったのは自分達だ。精神的に優位もあり、リードされてもいない。試合を支配されたなど冗談だろう。と言っている。それがマドリーだ。これが、両チームのフットボールのアイデンティティであり、クラシコなのだろう。
良い試合だった。勝利に値したのはマドリーだったように思う。しかしチャビのバルサも、理想を語るに充分なクオリティだった。これからポジティブな未来を示す事が出来るのは、果たしてどちらか。
1/13
キング・ファハド国際スタジアム
マドリー 3-2 バルサ
得点者
【マドリー】'25 ヴィニシウス '72 ベンゼマ '98 バルベルデ
【バルサ】'41 ルーク・デヨング '83 アンス・ファティ
●ピックアップ選手
デンベレ(バルサ)
何度も個で違いを作り、左サイドからチャンスを演出した。理想を言えば一点決めたかったが、希望を示す出来。この日120分熱く戦った姿が、本来の彼だと思いたい。
ジョルディ・アルバ(バルサ)
大外の押し合いで優位に立ち、バルサの時間を作った。同点ゴールをアシストしたクロスも見事。
ピケ(バルサ)
スピードのある相手に難しいタスクだったが、実質3バックになって以降も慎重に対応。存在感があった。
ベンゼマ(マドリー)
この日も一発。常に危険な存在で、ヴィニシウスのランニングレーンを開ける動きも見事。止められない存在だった。
クロース(マドリー)
相手にボールを握られた時間でも個人戦術で保持の時間を作り、そこから得点も生まれた。二手三手先が見えているゲームメイクを見せた。
ヴィニシウス(マドリー)
ロングカウンターで脅威を作り、アウベス相手に何度も突破を見せた。ベンゼマとのコンビネーションで取った先制点は、もう見飽きた程の再現性。
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