loco por LaRoja スペイン代表の定点観測 2023.03編
どうもアトレティコ・デ・マドリーのマッチレビューを書いている人です。
スペイン代表、せっかくだから書いておこうか。
●招集メンバー
☆をつけた選手はカタールW杯代表非選出。
ペドリ、ジェラール・モレノ、ブライアン・ヒルが離脱。
追加招集は
ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)と
☆ボルハ・イグレシアス(ベティス)
では、EURO2024予選のノルウェー戦、スコットランド戦を見ていく。
●ノルウェー戦(H) ○3-0
4-2-3-1風のスタートポジションだが実際はメリーノが高い位置に出て行ってアスパスと並列。左大外はバルデが取りに行くのでガビはフリーに落ちる。レーン被りも許容。プラス1はたぶんここ。ガビのプラス1メイクに期待していたというよりは最近バルサでやっていることをやりやすい箇所に置いたらそうなったという印象。左SBがバルデだったのもそういうことか。というかSBはガヤだと大外ハイポジションではなくなるのか?
右側はダニ・オルモが大外に立って内側にアスパス。まじかよ
カルバハルはマドリーでやっているようなレーン選択とビルドタスク、そしてネガトラの質担保。デ・ラ・フエンテはこういう、クラブでやっていることをやってくれという落とし込みをするのが上手いのかもしれない。そうなるとアスパスが意味不明なんだが。
この試合におけるW杯からの、というか前任監督からの主なメンバー変更はケパ、ナチョ、メリーノ、アスパスの4人で、あとは元々使われていた選手。これは2つの印象があった。
・新メンバーの印象2種
最終ラインのナチョの起用は全体的なリスクヘッジの意味で十分にスタメン扱いと言える。GKケパはビルドアップの面を見たらこちらも必要条件を満たしつつ、いきなりビッグセーブもあった。肝心のビルドアップが怪しかったが。この2人の起用はタスクが理由だったように思う。
一方でメリーノとアスパスはどうだろう。メリーノの位置はそもそもどうせペドリのポジションである。デ・ラ・フエンテがやろうとしたことは、前任監督が呼ばなかった選手をまずピッチに置く、しかもスタメンで。というところに着目したに過ぎないのではないか。アスパスに至っては当然ベストフィットするポジションなんてこのチームにはないわけで。これで最後の可能性は全然ある。むしろそのために呼んだのではと勘繰りたくなる。
この監督がこの3月シリーズで準備しようとしたのが正しいチームではなく正しい競争であるとするなら策士だなと思うが、どうだろう。
途中から出てきたピノの右大外での仕事、オヤルサバルを左に置く&セバージョスのIHタスクでシステム変更など、選手交代に監督の狙いがちゃんと反映されていたのはまず良かった点。逆にホセルの代わりはいないよなという話になるが、保持が確立されてバーティカルなボールを入れられるメンバー構成になった時にこういうターゲットをピッチに置くというのはシンプルに説得力があった。点を取るためにはスタイルを突き詰めるのではなく使える武器は使うという意思が見られ、これも前任監督とは違うところに見える。先制点が早めに取れていなかったらこうはならなかっただろうなという試合であり、それは何となくこれまでも今後も変わらなそうなイメージになる。スコットランド戦は早速そういう試合になったのは面白い因果であった。
●スコットランド戦(A) ×0-2
ノルウェー戦から8人入替。ケパとロドリ&メリーノ以外は全員替えた。
結果を出したホセルをスタートから使う。ゲームチェンジャーだったオヤルサバル&セバージョスをスタートから使ったらどうなるか、を早速試したのはなるほどと思った。
このアウェーマッチはピッチ状況が悪くボコボコ。その影響かわからんがペドロ・ポロがすっ転んで7分に失点する格好に。
スペインの中盤は序盤から真ん中にロドリ、右メリーノ左セバージョスで4-1-2-3風。スコットランドの撤退が潔かったのでマンツーでつかれるIHの向こう側にロドリが侵入、というノルウェー戦にはなかったバランスを多用する。先制点を取られたこともこの形を進めるきっかけになったと思うが、ネガティブトランジションの想定が一切できておらず、14分のシーンはただのボールロストで4バックの前のエリアをどんどん進まれて際どいシュートまでいかれた。決まっていたら色々終わってた。
攻撃は5バック気味に撤退するスコットランドに対して、5レーンを埋める配置を取ると硬直するでしょうね、という発想からか2-3-5ないし3-2-5アタックは行わずにSBを中間位置に配置。
特にオヤルサバルがHVの外側、WBの内側の位置を抜け出す動きを意識し、これでHVを一枚釣り出せれば大外からクロスを上げてホセルが待っている、という考え方には納得感がある。あとはスコットランドの最終ラインはクロスに対して5枚しっかりゴール前に絞ってくるので、クロスの跳ね返りを逆サイドでSB(ガヤ)が待ち受けていればどフリーでクロスを蹴れますね、という狙いを持った。そのためのホセルスタメン、であれば普通のチームならリソース通りであり納得できるが、果たしてスペイン代表がそれでいいのかは賛否あっていい。スコットランド戦のためのシステムを採用することにどれだけの意義があるのかは今後検証が必要になる。負けたし。ただ、ホセル自身はゴール前で可能性を見せまくっていた。なので敗因を別のところに求めることももちろん大切。様子を見てみよう案件だ。
後半に入って右WGにニコを入れたのも狙いそのものはわかりやすく、これでメリーノがさらにはっきりと高い位置に立つようになり、SB、IH、WGのユニットで侵入しましょうね、という目的をより明確にした。そのユニットのボールロストで2点目を失ったのが切なかったが。
正直撤退した相手を崩せなかった内容に関しては先制点を取られればこうなるし、さらに2点目を取られればこうなるわなという感想。それは別にエンリケの頃でも変わらないし、それを破壊するFWもWGもいないのだからこうなる。取られたのが悪い。左に移ったピノは前半よりは良かったが、まだここで突然チームを救えるほどの説得力はなかった。終盤になってようやくガビを投入したが、中央はパスの受け手より出し手の方が多いバランスを終盤まで引っ張った。選手起用そのものにはこの試合の勝ち負けよりも別のことを優先した印象があり、それも様子を見てみよう案件になる。
●総括と気付き
デ・ラ・フエンテ新体制の船出は1勝1敗。スコットランドに負けたのは1984年以来、などとセンセーショナルに報じられたが今回のEURO予選はグループ2位に入れば勝ち抜けられるレギュレーションであり、今回の2国以外はジョージアとキプロス。デ・ラ・フエンテの、少なくとも今回の取り組みは勝ち負けと別のところにあったと考える。以下、スコットランド戦後のデ・ラ・フエンテのインタビューをDAZNから引用する。
概ね、おれの見立て通りの見解を持っていると想像できる。この2試合でデ・ラ・フエンテが達成しようとしたことは選手に役割を与え、ピッチでプレーさせることだ。その結果が敗戦であることに頓着がない。”選手たちの姿勢には満足している”という言葉が持つ意味は”こういうサッカーをすれば勝てる”という意味ではなく、”おれがやってくれと言ったプレーを皆がやれていた”という意味に捉える。ポジティブな意味で言えばプレシーズンのような意識で見れば合格の90分×2、ネガティブな意味で言えば”そんな展開でも勝ち切れるチームだとは思っていない。少なくとも現段階では”という意識が透けて見える気がする。では、紐解く。
・招集する、役割を与える、起用する
今回の2試合のメインの目的であろう。ルイス・エンリケの明確な選手選考条件から外れ、一切選ばれることのなかった選手を招集し、起用する。新しいスペイン代表を印象付ける。この作業は成功していたと思う。
特に明確だったのはCBの起用である。ビルドアップモンスターを2枚並べることに固執した結果、最終的にはロドリが使われるなどしたエンリケ体制とは違う基準を明確に示した。それがナチョであり、ダビド・ガルシアであろう。どちらもニーズを満たすプレーをしていたと思う。デ・ラ・フエンテは”だからといってビルドアップを不問をするとは言ってないぞ”という雰囲気を出していたのは上手いなと思った。
前任時代に一切使われなかったメリーノ、スビメンディを呼んだこと、アスパス、ホセルというラリーガで結果を出しているベテランストライカーを呼んだことは、明確に彼らではなくその他スペイン人サッカー選手へのアピールが含まれているだろう。彼らに役割を与え試合で起用したことは、今後の代表チームの指針を示すデ・ラ・フエンテからのアピールであった。続いて、ネガティブな面。
・ワールドクラスがいない
いません。贔屓目なしにロドリくらいでしょうね、今回のメンバーだと。
デ・ラ・フエンテもおそらく同じ感覚なのではないかと思う。他に2,3人ワールドクラスがいればスコットランド戦はスタートからスビメンディを使ってたでしょ。では、各ポジションの印象と今後。
GK
ケパに文句はないが、ケパで十分なわけでもない。7人くらいのグループから選んでいくんじゃないかな。今回の2試合でケパの序列が上に出た印象も特にない。ここからはクラブレベルでの結果で序列がごっそり入れ替わる可能性があるし、EUROまでにスタメンを確保してそこで結果を出すことが重要な気がする。ということで大事なのは来季(23-24シーズン)でしょう。ウナイ・シモンはビッグクラブに移籍するんじゃないかな。CLで要件を満たせることをアピールできないと序列をひっくり返すのは難しいように思う。
CB
CBの片方は純粋ストッパーを置くという明確な意思が見られた。なので2戦目はナチョではなくダビド・ガルシアがスタメンになると確信していた。想像通り。嘘つけと思う人はきのけいに聞いてみてください。
ルイス・エンリケはCBにビルドアップマシンを置くことを優先し、ラポルトとパウ・トーレスの併用、さらにはエリック・ガルシアが試され、結局W杯本番ではこのポジションにロドリを使うなど独特の評価軸を持っていた。結果は知っての通り。
ノルウェー戦でのナチョは当然のパフォーマンスで、正直もうテストもクソもない。見ての通り。なのでテストマッチ的な発想だと別にこれ以上彼を試す必要も特にない。本番だけ使えばいい。まあ今やってるのはテストマッチではなくEURO予選だけど。
ダビド・ガルシアはスコットランド戦が代表デビュー。ソシエダのル・ノルマンは国籍の問題が解消次第招集されることは既に周知の事実であり、次回はダビド・ガルシアではなく彼が選ばれるのではなかろうか。あとは個人的にずっと期待値が高いアトレティックのダニ・ビビアンを見てみたい。
左利きビルドアップ兵器枠にはまだパウ・トーレスもいるのでどこかで呼ばれるはず。まあ使えるならラポルトを使わない理由が特にない。
SB
右はペドロ・ポロがカルバハルに取って代わるほどのインパクトはなく、まだその他数人を含めたメンバーでカルバハルとの世代交代を狙うことになりそう。
左はホセルへの斜めのクロスという意味ではガヤが合いそうだが、左WGに大外立ちする選手がいないバランスを考えるとバルデの優先順位が高そう。来季のマドリーでのプレー次第ではフラン・ガルシアが絡んでくるかも。
左右ともにレベルは高いが、明確な特徴を持つのがバルデぐらいで、固定されることなく競争が続きそう。そういえばスペイン人にはCB、SB兼任タイプがあまりいないな。
CH
ブスケツが代表を引退した今、ロドリが中心となる。バックアップはスビメンディなのだろう。
隣には2戦連続でメリーノが務めた。今回呼ばれた中盤選手はセバージョス、ファビアン・ルイスがライン間タスクを得意とするIHであったこともあるだろう。そしてセバージョス&ファビアン・ルイスはパスレンジが長く、バーティカルにゴールを目指すボールを使える強みがあった。引いた相手を崩す作業はペドリやガビ、スペースが生まれればセバージョスやファビアン・ルイス、という発想はありそう。今回の召集外からはカルロス・ソレールもこのタイプだろう。亜種であるコケ、ギジャモンのタスクはこの2試合ではとりあえず思い付かなかったのではなかろうか。
上で書いたが基本はペドリが使われるか、普通に4-1-2-3になっていくかどちらかだが、スペインの代表監督は4-4-2ブロックを作れないスタメンはあり得ないと思っている人が多い感じで、そういえばデルボスケもブスケツを単品のアンカーでは使わなかった。
WG
ダニ・オルモの優先順位が高いようでありつつ、彼自身がライプツィヒで良いシーズンを過ごせていない。怪我明けのオヤルサバルは可変のキーになれる選手という意味で不可欠である。ガビは5レーンアタックのバグメイカーとして既に世界でも有数の能力を有し、当然IHもこなせることを考えればしばらくは便利屋として使われそう。ニコ・ウィリアムズ、ジェレミー・ピノは引き続き目に見える結果が欲しい。
FW
ジェラール・モレノの負傷離脱がなければ考え方違ったのかもしれないが、この2試合ではターゲットを務める選手が求められた。モラタは申し分なく、ノルウェー戦の先制点の起点にもなった。
ペナルティエリア内での仕事をアスパス、ホセルのベテランコンビに期待したがアスパスはセルタでのプレーと違い、求める形でボールを受けることができず、今後の起用にも一切の目処が立たなかった。ホセルは2点取ったがそれ以上にスコットランドのDF陣相手にも空中戦で優位を持てたことは高く評価される。鋭い縦パスへの反応も良く、これからも呼ばれるだろう。問題は同型のFWが全くいないことで、困った時にホセルと心中するチームになってしまうのは望ましくないだろう。彼は33歳だ。まあ、ジルーになれる可能性もあるのかもしれないが。
●デ・ラ・フエンテ監督について
選手起用・配置において、あまりにも合理的だったなという印象の2試合である。ルイス・エンリケが一切合理性を優先しなかったから尚更そう感じる。エンリケは哲学を信じ、その方向へ一直線に進んでいた。
果たして哲学→合理への転換は、監督の交代に起因しているのだろうか。そこを含めて今はまだ様子を見たい気持ちでいる。単純に今のスペインには"哲学と共に死ねるに値する選手がいない"からではないかと思う自分もいる。デ・ラ・フエンテは、ただリアリストなだけではなかろうか、と。
ここでいう哲学とは言うまでもなく、圧倒的なボール保持、ティキタカ・スタイルを指す。チャビ、イニエスタ、ブスケツはいない。ピケとラモスもいなければダビド・シルバもセスク・ファブレガスもいない。ペドロが不足分を埋めてくれることもない。ヘスス・ナバスの理不尽な縦突破もない。だから合理化した。それは進む道を示す啓示ではなく、必要に迫られているだけなのではないか。その証明がホセルなのではないか。
一方でポジティブな見方もできる。それはエンリケの期待条件を満たさない選手は悉く呼ばれなかったこれまでの代表とは雰囲気が一変することである。上述のホセルにしてもイアゴ・アスパスにしても、そして久しぶりの召集になったナチョ、ケパもそう。29歳で初招集されたダビド・ガルシアももちろんそうである。個人的にはそれ以上に象徴的に感じたのはエンリケから必要とされなかったスビメンディ&メリーノのソシエダ勢である。この2人は明確に"監督が変わったから呼ばれた選手"の典型と言える。起用は明暗が分かれたが、ロドリを外す選択が取れなかったのは合理化によるところだろう。そのバランスとのせめぎ合いは代表チームでは当たり前のことだ。ただ、生存競争に参加する権利を持つ選手がエンリケ時代よりも格段に多いぞ、という印象をスペイン国籍を保有するすべての選手にアピールした2試合であったという評価をしておく。デ・ラ・フエンテが生み出す正しい競争が始まった。
次はバリオスを呼びなさい。以上です。