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レストレーションポリシー【東京セイコー Vol.1】
1970年代までのツーリング・ピニンファリーナ・ベルトーネ・ツァガート社が手掛けたアルファロメオ 及びその仲間のイタリア車を対象にボディー・フレーム・メカニカルの復元・修理を行っている東京セイコーの代表、渡辺忠俊氏のインタビューです。
第1回は、レストアに対するポリシーを中心に、お話を頂きました。
1930年代以降から近年に至るまでの作り手の方々、機能も含めて非常に完成度が高いし、まあ先人達の経験値がふんだんに盛り込まれていて、その形も無駄がなく整理されて完成度の高いものですね。そういったものに改めて触れることができるって本当に嬉しいです。
今であれば釣り用リールなんて非常に高精度なものが日本で作られてるんだから、巻いた時の細かさとか、感触とか、しいては音まで含めて「やっぱりこれだよなあ」という方々の感じというのがあると思うんですよね。
今までずっと共にしてきた品物ではあるけれども、場合によってはまあ何らかの事故が起きて壊れてしまったと。今までずっと付き合ってきたと。これ、無くしたくないよね。「何とか復活できないかな」っていうことになると、色んな物が伝えてくれる。もしくは自分がその当時の作り手、考えた方の時代にタイムスリップしたような感じで。それを再現するということは、僕が手を加えることによって今までとは全く別の物にしてしまっては無意味がないわけで、その境地、同類項、若しくは上手くいけばそれを少しでも超えるような形で戻せられれば良いですね。物を作るっていう世界では、ある意味ではジャンルはないと思うと僕なんかは考えちゃっているので、そういった事に関われるのは嬉しいなと。
その時は気が付かないんだけれども、思い入れがあるし、気に入っているからこそ日常で使ってる品物があると思うんですよ。各々が当たり前に使ってるんだけども、見てても飽きないような姿形だったりという物があると思うんです。楽器であったり釣り道具であったり、はたまた車であったり。改めて見直すと、これはとても完成度が高いな、と。やっぱりそういったもの達というのは、時間の経過と共に一部は手直しされたり、手を加えながら完成度の頂点に達している物達だと思うんですよね。それが「本当の本物」。
多分そういった物達というのは、今から50〜60年以前の物が多いと思うんですね。やはり世界で各ジャンルのメーカーが「我こそはこういう物を作ったんだ」という世界に対しての表現であり、能力を示すため鎬を削って競い合っていた時代だったと思うんですね。だからこそ濃縮されたいろいろなものが生み出されているので、完成度が高くて、多分それが「本当の本物」だと思うんです。だから何らか実際に触れることによって、場合によっては人の在り方なり、企業の考え方なり、そういうものが良い意味で伝わるんじゃないかなと。だからそういった物達が、できれば今後も使われ続けて頂きたいなと、そう思っています。
自動車の世界でいうフルレストレーションになりますとね、部品的なものは全然違うものが搭載されていますけれども、ある意味そこらへんも全てフォローできて復活できないとトータルでの完成度の高さというのは得られないんですよね。ここ壊れてしまったから何らか近似的なものをつければ良いじゃないか。機能面だけ見ればそれで事足りるかもしれないですけど、仮にこの車を世界レベルのところに持ち込んだ時にね、最終的には車自体のもの、精度、機能、全体のフォルムのまとまり、それから備品に至るまで一貫した流れがないと良い評価は得られませんね。そうすると、必然的につまらない小さな部品でもちゃんと理解して復活歴が加算されていないと、一つ二つ足らないものになるんじゃないかと思うんですよね。だから、やたら変なところで時間をかけてしまう場合も多々あります。
車っていうのは色んな要素の複合体、ガラスもあるしエンジンもあるし、はたまた内装のシートとか異種素材の複合体ですよね。すると必ずといって良いほどそのジャンルの専門職の方がいらっしゃるんですけれども、これまた難しい話で、極めて目の利く方々が見たときに不一致を感じないように。機関もそう、とても良い状態でエンジンも回るし、足回りもよく動くし、操作性も軽くて。じゃあ内装やその他諸々見た時どうなのという時に良くあるのが、分業で主たるところが外注さんで色々まとめて頂いてそれを組み込む形になるんですけど、各分野の方々に依頼するのは構わないんだけど、どういうつもりで自分がまとめ上げているのか、どこがポイントなのか、ここはしっかりと表現をしてほしいとか、機能をさせてほしいとか、「ただ形にまとめてね」というような事ではなくてですね、そこら辺の考え方なり技術レベルも一貫性を持っていないと筋の通った品物にはまとまらないと思うんですね。得てしてそうなるんですよ、バラバラに。だからパッと見た目は非常に煌びやかに光ってて、「新車のようだね」というような場合が多いんですけど、でも一瞬見ただけでまとまりがない、そういうものには魅力を感じませんね。
確かに現実的には予算の問題だとか、期間の問題だとか、それから目的によっては「この車はレースに使うんですよ。次の参戦のために間に合わせなければならない」とか色んな条件があるんで、「それ絶対ダメ」とか言うつもりはないんですけど、「本物が欲しい」という場合にはね、やはり感性が欲しいと勝手に考えています。
仕事に着手する時に自分なりの考え方、それから要望されている内容等々、非常にうまく擦り合わせるというかしっかりお互いが納得しないと、そこから進めないと不一致が起きますから。仕事にかかる前もオーナーの方が何が欲しいのか、そこら辺を正確に僕の方で把握してやることがとても大事ですよね。
このフルレストレーションという世界に入ってくると、世界的にも僕と似たような仕事をされているレベルの方々が、もう非常に難しい世界。ましてや仕事と重ね合わせて進行していくとなると、すごくバランスの取り方が難しいということは皆さん言ってらっしゃいますね。口には出さないまでも、ものすごく本人も葛藤の連続だと思いますよ。僕の性格を見抜いているのか理解されたのか諦めたのか分からないですけど、たまたま僕に依頼された方々は「時間も含めて任せた」という感じの方が多いですかね。
辺な捉え方をされても構わないんですけど、僕も時には筋肉疲労を起こしたり、どっかが痛いとかいうことも当然あります。そうなると頭を働かないしということでモチベーションも上がらないので、そういう時はもう手はつけないですね、逆に。非常に頭がよく回って、冷静に冷静に対処できる時は関わりますけど。あとは車の横を別なことで、道具を取りに行ったり何なりで往復してる時に、今対処しなきゃならないところをチラッと横目で見るだけ。でも頭の中はちゃんと、どうやって組み合わせて処置していけば良いかなって考えてる。
不思議なことに、僕はずっとモノづくりに関わってきた人間なんですけども、モノは正直で、例えば壊れていても破損していても「自分ははこういう場面でこういうふうに壊れちゃったんですよ」とか、「どれくらいの時間をかけて、こうなって疲れちゃいました」とかね、それを物理的に伝えてくれるんですね。ですから僕はそれを見て紐解いて、「ああ、そういう事なんだ」っていうのを理解してあげることができるんですけれども、それくらい物は正直に表現してくれるんです。
サビが入っていたり、ヒビが入っていたりとか色々ありますけども、大体何年ぐらい前にこういうことが起きてというところまでは読み取れますね。だから正直ですよ。仮に他の方からはこういう説明を受けたと言っても、元オーナーが「いや、こうなんですよ」って言われれても、それが嘘か本当かは物が語ってくれるんで、もう一瞬にしてそれは正確に出せますね。サビでも色んな種類がありますし、錆の色にしても時間経過によって変化していきますから、大体割り出せますね。嘘はつけないです。