調律師のルーティン
近年、ピアノ調律師を題材にした本や漫画がいくつか話題作になっている。
「羊と鋼の森」宮下名都 著
「調律師」熊谷達也 著
「ピアノのムシ」荒川三喜夫 著(マンガ) など
そして今回読んでみたのが
「ピアノ調律師」M.B.ゴフスタイン 著
この作品は「ピアノ調律師のルーベン・ワインストックは、毎朝目が覚めるとまっすぐにベットから台所に行って…」と約1ページに渡り“朝のルーティン”について書かれるところから始まります。
この書き出しから、私はほくそ笑みながら読み始めました。なぜなら、私の調律師である父も生活の1つ1つがルーティンになっているからです。
私はなかなか珍しい環境で育ちました。父、二人の叔父という身近な大人がみんな調律師!その大人の男の人たちはみんな動きが似ているのです。それは行動の中にルーティンがあるってこと。叔父の家に泊まりに行っても、目が覚めた時のリビングから聞こえる物音が同じ。家族が起きてくる前に部屋を暖め、(夏は窓を開け)簡単な床掃除をやり終え、朝食づくりではない部分の支度をルーティンとして行う。父と兄弟でない叔父なのに行動パターンが似ているのである。
父の朝のルーティンについてお話すると、朝目が覚めたら 起きながらに掛布団を畳む。この動作が見事!ともいえるほどのさばき方。片道3時間の運転をしていくコンサートの調律に行くときには朝4時起きというときもあります。そんなときもパチッと目を開き、この布団さばき。久しぶりに同じ部屋に布団を並べたときにびっくりしました。
1台のピアノの部品は、グランドピアノでおよそ10,000個、アップライトピアノでおよそ8,000個といわれています。それらの部品の1つ1つを丁寧に組み立て、そしてミリ単位よりも微妙な職人しかわからない単位の調整をしていく調律師にとって、“ルーティン”はとても重要であり、そういうことができる人だから調律師にもなれるのかな、と今更ながら思います。特にベーゼンドルファーの調律師(技術者)となると職人技のルーティンも必要かも!?
この本の中には、調律師の孫の女の子が調律師になりたくておじいちゃんのお仕事にかばん持ちとしてくっついていくお話なのですが、調律している様子が事細かに書かれています。特に調律に使う専門の道具の名前1つ1つまで。それがなんだか知ってる人だけがわかる、、、って感じでおもしろい。
また、コンサートが始まる前の誰もいないホールでピアノの調律の音が響く様子、それにピアニストとの会話など“あるある”の光景です。
この物語では偉大なピアニストのコンサートを聞いた後でも、この女の子が調律師になりたかったら本物だ、ということで偉大なピアニストが女の子に特製の革の調律道具入れと上等な道具を全部そろえてプレゼントをすると約束します。女の子はさらに「調整の工具もいれてください。」とまた専門的な名前の道具をリクエストするのです。そのマニアぶりにおじいさんもかわいくなっちゃうんだろうな。
この本の紙のカバーを外すと…、調律の道具が!とってもデザインがステキ。ハンマー=調律だと思いますが、その他の道具もスタイリッシュ。父の仕事を客観視するといろいろと面白い発見があるものです。
身近に調律師さんがいる方、ぜひこの本を手にとってみてください。ほくそ笑むことマチガイナシ♪