横溝正史シリーズ　人形佐七捕物帳の謎•羽子板娘の巻

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▲さるにても、ねぇ親分さん。この歳になって横溝正史の人形佐七捕物帳を初読たぁ、人間長生きしてるてぇと何が起こるか分からねぇもんでござんすね。

いぇね、あっしがちょくちょく中井英夫なんぞの背取りでお世話になっている例のカモの古本屋ね、あすこで角川文庫版自選人形佐七捕物帳の初版を仕入れたんでござんすがね、これぁあっしが中学生の頃に出てるブツなんでござんすよ、えぇ。

で、あっしはてぇと、その頃はね、ご多分に漏れず、大ブームの金田一耕助に夢中でござんしてね、ところがドウモ捕物帳てぇのはさしもの耕ちゃんの作者の作物でも読む気がしなくってねぇ、トウトウこの歳まで一字一句たりとも読んだこたぁねぇんで、えぇ。

…で、今回始めて第一回『羽子板娘』を読みやしたが、、、あっしぁイキナリ魂消させられましたよ、これぁタダの時代物捕物帳じゃねえやとね。

この『羽子板娘』のトリックね。これぁ、クリスティ『ABC殺人事件』であり安吾『不連続殺人事件』であり『八つ墓村』ぢゃねぇかと。

ツマリね、テメエが本当にヤッつけてぇ奴が居る。シカシ、ソイツだけを殺るとすぐにテメエが犯人だとバレる。そこで、その ヤｯつけてぇ奴に関連性はあるけれどもテメエには何の関わりもねえ奴ね。そいつらも殺っちまう。スルト、犯人なるテメエには嫌疑がかかりにくくなる…てぇ寸法でさあ。

…参りやしたよ。一本抜かれましたね。たかが暇つぶしの小遣い稼ぎの捕物帳たぁ、あっしのとんだ見立て違い、見損ないもここに極まれりでござんす、へぃ、親分この通りでござんす。

この『羽子板娘』、昭和13年初出でござんすが、当時はってぇと『鬼火』で不治の病肺結核から不死鳥の如く再起し『真珠郎』で『エジプト十字架の秘密』よろしく幻怪妖美な首なし死体の謎で唸らせたのがヨコセイでござんすね。ぃやまったく探偵小説のトリックの鬼ヨコセイ、面目躍如でござんすよ。

新たなヒーロー佐七っつぁん、これからひとつ、このふつつか者、よろしくおねげぇ致しますでござんすよ、えぇ。

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