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裁ち鋏論 その5 東鋏論〜長太郎系その他について(正次郎、増太郎、常正)〜
前回からずいぶんと日を跨いでしまいました。
前回は一つのトピックを分割したので、次回は楽だぞ、と思っていたのですが、案外思う通りにいかないものです。
さて、今回は『東鋏』の中でも比較的手に入れやすい部類のものを紹介していこうと思います。
先ずはお馴染み系統図から。
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ただ、前回との間で新たに手に入れてしまった正次郎の鋏がありましたので、今回はこちらになります。
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先ずは偶々手に入れた正次郎から。
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ありがとう。悦子。
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こちら恐らくアシは鋳造のものだと思うのですが、金色に塗られています。
銀座菊秀のサイトにこんなものがあったので、同様に錆防止の加工を試していたんじゃないかと思います。
刃は全くいたんでおらず、持ち主の名前入りであるにも関わらず、恐らく未使用です。
箱には二代目正次郎さんの名刺まで入っていました。
二代目の作品かもしれません。
何となく金色が気に入ったのと、持ち主の名前入りが気に入り、次回のローテーションに入れようと思いました。
切れ味は初代よりは若干硬い感じはありますが、流石の切れ味です。
しかも、私好みの先端の刃の細さがあるので、活躍してくれると思います。
まぁ、今回の正次郎に限っては手に入れられた嬉しさ半分、自慢半分みたいな感じです。
さて、次は増太郎です。
私はスタンダードな裁ち鋏しか所持していませんが、有名どころだとこんなドライバー型というのがあります。
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私の所有ではありません
割と様々な鋏に挑戦するメーカーだったようで、パーティのテープ切り鋏、キッチン鋏などがオークションでは見られます。
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私の所持している中ではこの20センチのものは若干特殊です。
持ち手が簡易な感じで作られています。
指を4本入れることは難しいので中指、薬指、小指の3本を入れ、人差し指は外に添えます。
刃渡りは20センチものにしては長く、細かい部分を切るのに向いています。
細工鋏なんて呼ばれる種類の一つですね。
私は数本の細工鋏を所有して、パンツのピスポケット(尻ポケット)の作業だけ使うことにしているのですが、中々思い切りのいい切れ味があります。
通常の裁ち鋏は2本所有しています。
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若干古い増太郎と後期の増太郎。
後期は鋏のマーク(アシが心という字になっている)が有名です。
こちらのメーカーはかなり量産していたようで、オークションなどでは相当な本数見ることが出来ます。
割と手に入れやすい部類でしょう。
ここで製作者のことについて。
岩田増太郎さん。小学校5年生の時には鋏づくりの門に入っていた方で、金町で営まれていたそうです。
裁ち鋏メーカーとしては後発だったため、ステンレスや様々な新しいハサミを作っていったメーカーだったようです。対応の早さや質、品数で勝負していくメーカだったとか。(こちらを参考にしました)
ネット検索もたくさんヒットします。
鋏自体のレビューとしましては、切れ味はモノには左右されてしまうと思うのですが、平均して、長太郎譲りの柔らかい切れ味はあると思います。
割とお勧めできるのが増太郎です。
最後に常正です。
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このメーカーのものも比較的手に入りやすく、金物屋やネットショッピングでも未だに新品を置いているところがあります。
個人的には思い入れが強いメーカーです。
何故ならば、最初に大学卒業後、専門学校に入った際に支給(勿論学費に含まれるのですが)されたのが、このメーカー。
就職を決めた際に新調した裁ち鋏もこのメーカーでした。
その時は同じ方が作っていたとは知らなかったのです。
というのも、こちらの常正、鋏の銘が何種類もあります。
木屋に卸していたのが、團十郎。これが、当時専門学校の支給品でした。
一般流通が長十郎。これを就職時、新調した鋏でした。
さらに、(恐らく)出来が良いものが常正、本常正となるのだと思います。
私がもう一本持っているのは、銀座菊秀で購入したものです。銘は入っていませんが。常正辺りのランクになるのでしょうか。
私が長十郎を手にした頃、長太郎鋏が途絶えるなんて話が耳に入ってきました。
その時は「長太郎が裁ち鋏の頂点で、高い」というくらいの認識で、私は「それではこの『長十郎』というのはどこの誰が作ったのだろう、どんなストーリーがあるのだろう」と気になったのです。
そして調べると、作った方は松戸の人らしい、ということがわかりました。
私は生まれも育ちも松戸なので、運命すら感じたのです。
「この長十郎こそが私の相棒と言える鋏だ!!」と考えたのです。
そこからメインの鋏として長十郎を使い続けています。一番使用頻度が高く、一番手に馴染んでいるかもしれません。研ぎに出した回数も必然多くなるので、随分と変形してきてしまいました。
その後、さらに調べていくと専門学校で買わされた團十郎も同じ方が作っていた、ということが判明します。
製作者のお名前は初代は宇梶常正さん、二代目は宇梶国雄さんと仰るそうです。初代が仕事を教わる前に亡くなられ、二代目の国雄さんは苦労なされたそうです。
こちらではお仕事をされていた様子を見ることもできます。
そして、恐らく今では裁ち鋏づくりを引退されてしまっていて、流通している分しかないと知り、銀座菊秀で少しランクが高いものを手に入れたのです。
(今では専門学校の支給される鋏は違うものだったと思います)
と、このように裁ち鋏の沼にハマらせたキッカケをくれたのも常正ですし、この業界で仕事をしていくターニングポイントに常正がいてくれた訳です。
少しの贔屓目が入ってしまいますね。
肝心の切れ味ですが、長十郎は若干硬いです。ですが、團十郎、常正は柔らかさを感じます。
ある程度の個体差みたいなものはあるのかもしれないです。
手に入り易さ、長太郎に似た親指部分など、個人的にもお勧めしてしまう鋏ですね。
さて、次回ですが、長太郎系統の鋏はひと段落しまして、別の系統を見てみましょう。
最近、若干閲覧数が伸びてきて嬉しい限りです。
皆様の参考になれば。
たいら がくと