青柳 いづみこ「歌うピアノをめざして」
二〇二三年二月、フランスのヴァイオリニスト、クリストフ・ジョヴァニネッティとのデュオで日本各地でコンサート・ツアーをおこなった。
曲目には、ドビュッシー、ショーソンなどフランス音楽の他に、シューベルト『ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ』三曲がはいっていた。古典のソナタは形が明確だ。まずヴァイオリンがピアノの伴奏で第一主題を奏でると、次は攻守交替して、ピアノが同じメロディを弾くことが多い。
それとはさとられぬようにピアニストが脂汗をかくのは、この場面なのである。
ピアノは指が鍵盤を押すとハンマーが作動して弦を叩き、それをボディが増幅させる仕組みになっている。メカニズム的には、打楽器なのである。
いったん出してしまった音はどんどん減衰する。発音したあと、運弓法やヴィブラートで思うままに音を操り、表情を変えられるヴァイオリンと対抗するのは至難のわざだ。
しかるに、コンサート・ツアーでは、ヴァイオリンを受けて「同じ旋律を歌いあうピアノのレガート」を褒めてくださる方が多く、努力してきて良かった、としみじみ思った。
―『學鐙』2023年夏号 特集「いま私たちが学ぶべきこと」より―
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