石黒 浩「アバターと多様性」
インターネットやAIやロボットの技術の進歩に伴い、我々人間は日常生活や仕事において、様々なメディアを利用するようになってきた。特に人とのコミュニケーションを支援するメディアの進歩はめざましい。ラジオから始まり、電話やテレビ、そしてインターネットと、メディアによって我々の生活や社会は大きく変化してきた。
人間がこれほどメディアに魅了されるのは、人間の生きる目的が人とのコミュニケーションにあるからに他ならない。人間は他者と関わりながら自分を理解するとともに、他者と共に社会を発展させている。
そうしたメディアの新たな技術として、私はこの二、三年、特にアバターの研究開発に力を入れている。アバターとは遠隔操作で動くロボットやCGのエージェントである。アバターを使って、遠い場所で活動したり、メタバースのような仮想空間で活動することができる。
ただこのアバターの技術はごく最近になって開発が始まったものではない。私自身、二〇年以上前の一九九九年に、テレビ会議システムと移動台車を組み合わせたごく簡単なロボットアバターを、ロボットの国際会議IROSで発表しているし、私にそっくりのロボットアバターであるジェミノイドの最初のモデルは、二〇〇六年に開発した。そして、二〇一〇年頃には、世界中で数多くのスタートアップ企業が、ロボットアバターを開発し販売していた。
―『學鐙』2023年秋号 特集「共に在る、共に生きる」より―
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