神田 さやこ「異国・インドに出会う」
私は南アジア経済史を研究している。主な研究対象地域は、ベンガル地方(現在のインド・西ベンガル州とバングラデシュを含む地域)である。学部は経済学部で、日本経済史のゼミに所属したので、経済史を専攻するのは不思議ではないだろう。では、なぜ南アジアなのか。それは大学生の時にインドに出会ってしまったからにほかならない。大学二年生の時、一週間程度インドを旅行した。それはイラクがクウェートに侵攻した一九九〇年八月のことである。訪れたのはカルカッタ(現コルカタ)。このカルカッタ旅行での経験が私の研究の原点となった。最初は「強烈な異国感」を感じたが、心を捉えられてしまったのだ。異国感という大きな壁を感じたにもかかわらず、なぜそうなったのか。自分の研究の原点を考える上で面白い問いなので、その旅を振り返ってみたい。
大学一年生の時、父が仕事で滞在していたシンガポールを訪れてから、私は東南アジアに関心を持つようになった。アルバイトでお金を貯めては東南アジア諸国に出かけた。旅に出る前には、ガイドブックや書籍でその国の歴史や文化などを調べたり、東京の各国料理店で現地の食文化を予習したりもした。大学の授業でも学んだ。もちろん実際に訪れてみると頭で理解していたこととは異なることばかりなので、新鮮で楽しかった。そうした中で、好奇心旺盛な友人と旅行中に「インドに行ってみよう!」ということになり、バンコクでインディアン・エアラインズの航空券を購入してみたのである。行き先はカルカッタ。ここを選んだのは一番安かったからにすぎない。しかし、私はいつになくとても緊張していた。今思えば「イギリスに植民地支配された貧しい国」に十分な下調べなしに行くことになったからだろう。
―『學鐙』2024年夏号 特集「私の原点、転換点」より―
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