進路選択を間違えた男【第2回】 だから言わんこっちゃない編
納得のいく進路を実現するためには、そもそも「何のために進学するのか?」という根本的な問題に向き合わなければなりません。この連載では、そうした問題に立ち向かうことなく進路選択をしてしまった進路アドバイザー・鈴木のリアルな失敗談をお伝えします。
▼ プロフィール
▼ 前回のコラム
大学受験を乗り越え、高校の卒業式も終えた私は、これから始まる大学生活に胸躍らせながら春休みを満喫していました。この時点での自己評価は、「志望した大学に合格し、楽しい大学生活と明るい未来が約束された鈴木くん」です。しかし、私のした進路選択の実態といえば、
文理選択:「なんとなく!」
志望校:「有名大学!」
志望学部:「UFOに関係のありそうなところ!」
オープンキャンパス:「なにそれ? 受験当日が初めての訪問ですがなにか?」
という状況です。進路について真剣に考えている人からすれば、作り話だと思われるかもしれません。しかし、これは本当にあった怖い話なのです。
大学入学後、まず私がぶつかった壁は専門科目。といっても、その中身は基礎の基礎。「高校の物理は得意だったはず! なんとかなるだろう!」と思っていたのですが……。
では今回も、カレンダー形式(再現した表情&過去の自分へのツッコミ付き!)で振り返ってみることにしましょう。
■ 1999年4月○日(大学1年春) 1限の物理数学。
この授業は、物理で必要となる基礎的な数学について学びます。1年生のうちに特殊相対性理論の基礎まで辿り着くとおっしゃる教授。そんな話を聞きながら教科書をめくる私。しかし、教科書を何ページめくっても宇宙の神秘、ましてやUFOのことなど書いていない。そこにあるのは謎の数式ばかり……。
3限の電磁気学。同上……。「この教室の中に、ゴール(UFO)までたどり着けるヤツがいったい何人いるのだろうか?」と授業初日から不安がよぎります。
初日に感じた不安は、他の授業を受けてみてもぬぐい去ることはできませんでした。周りの同級生はいったいどんな心持ちで授業を受けているのか。そもそもUFOに関心があるのかないのか(!)。教室内で縮こまっていく自分を感じながら、先行き不透明な大学生活がスタートしたのでした。
スタートからつまずいた感のある私ですが、華の大学生活はなにも勉強だけではない!ということで、とりあえずサークル探しを始めます。新入生を迎える4月には、大学内の各所でサークルごとに新歓説明会なるものが行われていました。
■ 1999年4月△日(大学1年春) サークルの新歓説明会。
いわゆる“テニサー”や“オールラウンド系”と呼ばれる団体のやや垢抜けた風貌の先輩方が、学内のあちこちで女子学生に声を掛けまくっています。もちろんそんな団体には目もくれず(あ、声を掛けてもらえなかったわけじゃないんですよ……)、興味のあった音楽サークルの説明会に直行!
薄暗くジメジメした練習室の中には渋いビジュアルの先輩方が鎮座しています。「自分の居場所はここしかない!」と直感し、即入部を決めたのでした。
サークルも決まり当面の居場所を手にした私ですが、授業では相変わらず謎の数式を追うばかり。7月の前期試験は友達の力も借りながらなんとか切り抜けたものの、早くも将来(UFO)への希望は薄れ始めていきました。
試験後、長い夏休みはそれなりにエンジョイしたものの、やはり勉学と将来への不安や違和感は消えません。しかし、悩みを棚上げするという得意技を持つ私は、そこでもまだ真剣には悩みません。
当然、後期に入っても状況は変わるわけもなく、常に後ろ向きな姿勢で勉強に取り組んでいる状態。一方、周りの熱心な同級生たちは違います。
■ 1999年12月△日(大学1年秋) 学食でのランチ。
お昼休み、混み合った学食でいつもの仲間とお昼を食べていた時のこと。この日はそれぞれ「将来」についての話で盛り上がっていました。
友人たちからは「○○研究室っておもしろそう!」だの「大学院は東○大に行く!」だの「○○に就職したい!」だの、将来についての前向き発言ばかり。もちろんUFOを語る人は誰もいません。私は何も語ることなく、友達の話にただうなずくことしかできませんでした。
同級生たちの思いに比べ、自分の展望になんと現実感が伴っていないことか。愕然はとしながらも、具体的な目標をすぐに見つけることなどできません。ここまで来て初めて、「自分はいったい何のために大学へ進学したのか」という根本的な問題を抱えることになってしまったのです。
そして、その答えは見つからないまま、日に日に勉強への意欲も低下。やる気が出なければ当然単位も落としまくり、2年に上がる段階では事実上留年(4年間ではどうやっても卒業できない!)という状況にまで落ち込んでいくのでした……。
大学生活2年目に突入すると、「楽しい大学生活と明るい未来が約束された鈴木くん」はどこへやら。もはや「辛い大学生活と暗い未来しか見えない鈴木くん」。そこには、希望に満ちた自分はいません。
そんなやる気の出ない私にとって前向きに学べる数少ない教科が、一般教養で受講していた「心理学」と「哲学」でした。授業を受けるうちに「ヒトの心や思考について学ぶことができたら楽しいだろうなぁ。そういえば、高校生の時も興味があったような……」という考えを持っている自分に気づきます。
秋の連休。たまたま両親と親戚の叔父との旅行に同行することになった私。事件は、夕食後のまったりした時間に発した何気ない一言から始まりました。
■ 2000年11月△日(大学2年秋) 家族旅行の夕食後。
私:「はぁ……なんで理系に進んじゃったんだろ……」
父:「ん、なんだ? なんか悩んでるのか?」
私:「そもそも親父が理系だからなんとなく選んだんだよね……ほんとは文系がよかったのかも……」
父:「なんだと! おまえは自分の進路がしっくりこないのを、人のせいにして恥ずかしくないのか!」
叔父:「ちょっとちょっと、まあ落ち着いて……」
父:「ウチの問題に口を挟まないでください!」
叔父:「仮にも義理の兄にその言い方はなんだ!」
私&母:「……(アワワワワ)」
家族のみならず、親戚の叔父さんまでを巻き込んだこの一夜のことは、今でも夢に見ます。言葉には出しませんでしたが、父は以前から私のことを本気で心配していてくれたのでしょう。こんなに軽い気持ちで話してはいけなかったのかもしれません。
翌朝にはなんとなく事態は治まり、父からは将来を真剣に考える時間を持つように言われました。そして考えがまとまったら改めて話すことを約束し、久しぶりの家族旅行は幕を閉じたのでした。
巻き込まれた叔父さん、本当にごめんなさい。
■ 今だから言える、自分のココが間違ってる!
「適当」な進路選択が自分の首を絞めることに。悩みを棚上げしてきた結果、自分だけでなく家族や親戚にも迷惑をかける始末……次回最終回に続く。
▼ 次のコラム
▼ 進路選びに役立つトークライブを定期的に開催中!