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#2 在学中に弁理士資格を取得するメリット及びデメリット


1. はじめに

大学院修士課程在学中に弁理士試験に合格したたねまるです。

今回は、大学又は大学院在学中に弁理士試験に合格することのメリット及びデメリットについて検討していきます。

2. メリット

2.1. 試験対策適性が高い

実務経験がない点を除いて、学生受験生は次の3つの点から極めて弁理士試験対策の適性が高いといえます。それは、①学習時間、②学習頻度、③試験慣れ、の3点です。

①学習時間
他の国家資格の勉強にも当てはまることだと思いますが、社会人と比較して自由な時間が多い学生は圧倒的に勉強時間が確保しやすいです。

②学習頻度
総学習時間が長いからといって、必ずしも学習の質がよいとは限りません。法律系資格という特性上、暗記が重要な鍵となる弁理士試験対策において、学習の質の一つの指標となるのが学習頻度です。

忘却曲線というものがよく知られていますが、暗記において大切なのは反復と継続です。
前述した学習時間が確保しやすいという話に関連しますが、ミクロ(例えば1日あたり)で見ても、マクロ(例えば1週間あたり)で見ても、社会人(特に子育て中の受験生)と比較して、学生は繰り返し学習するタイミング、すなわち隙間時間が潜在的に多いです。つまり、個人の暗記に対する得意・不得意は別にして、学生受験生は暗記に向いている属性であるといえます。

注意:学習の継続については個人の努力次第です。頑張るだけです。

③試験慣れ
学生受験生は日常的に大学の定期考査という機会があるだけでだけでなく、高校入試や大学入試、大学院入試をたかだか数年前に経験しています。
すると、誰しもある程度の試験への耐性や慣れというものが身についています。

この試験慣れには2つの種類があると考えています。

ひとつは、試験までの過程に対する慣れです。
高校や大学の定期考査を思い出すと、学期のはじめから試験の数週間前までは予習や宿題を行いつつも、部活をしたり友人と遊んだりしていましたが、試験の1,2週間前からは部活動禁止期間になり、普段よりちょっと勉強時間を増やして、ときには夜遅くまで試験勉強していたのではないでしょうか。

この試験本番へのコンディションの持っていきかたといいますか、緩急のつけかたといいますか、ある種の勘どころというのが、学生受験生はまだまだ鈍っていないということは、弁理士試験対策において大きなアドバンテージであると考えます。

私のつまらない実体験で恐縮ですが、今年の3月から5月にかけて某予備校の短答模試を3回受けました。その結果が以下のとおりです。

筆者の短答模試の結果

みなさんご存知のとおり、短答の合格点は39点です。3回目の模試はたしか本試験の2週間ほど前に受験したものです。ひどい結果です。
惨憺たる結果でさすがに落ち込みましたが、本番直前の約2週間の追い込みでなんとか短答試験を突破しました。

本番前の短期間に、合格点までもっていける力を身につけられたのは、20代前半の記憶力と集中力はもちろんのこと、体力と調整力があったからだと思います。

もうひとつの試験慣れは、試験本番に対する慣れです。
短答試験では3.5時間、論文試験では合計で5時間、椅子に座って解答用紙に対峙する必要があります。試験は普段のデスクワークとは異なる緊張感をもって臨むものであるため、社会人受験生は試験時間中に集中力を維持するための塩梅だったり、休憩時間の使いかただったりと、学生時代に培ったはずのそのあたりの慣れを呼び起こすことが困難です。
また、論文試験については、例えば特許・実案では2時間でA4用紙8枚分の解答をボールペン又は万年筆で作成します。社会人になると、もう何年もペンを握ってないな、という実感がある方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

その点、学生受験生は、共通テスト(センター試験)の模試などでは1日で10時間ほど拘束された記憶も新しいですし、シャーペンである程度の長文を書いた経験も遠い昔のことではないはずです。

試験本番への慣れは場数という意味もありますが、試験を受け切る体づくりという意味で、学生受験生は社会人受験生と比して有利であると考えます。

2.2. 最小限の就活で済む

弁理士資格があれば、通常ルートの就活を多少回避できます。

すでに就活をしたことがある学生の方なら心当たりがあると思いますが、現代の就活は極めて不毛な工程の繰り返しです。

各企業ごとに個人情報を入力してマイページを作成し、ESを提出し、Webテストを受け、グルディス、面接、企業からのメールやオープンチャットで一喜一憂…この一連の工程が早期化かつ長期化していると言います

売り手市場と謳われるわりに、なぜこんなにも面倒くさい作業を強いられるのか意味がわかりません。

その点、最難関国家資格に在学中合格ともなれば、伝えかた次第では強力なガクチカになりますし、特に、企業知財部の選考には圧倒的に有利に働くことでしょう。職種別採用を行なっている企業のインターンに参加して早期選考まで漕ぎつければ、早期に終活することも可能です。

また、そもそも就活をしたくないという方は、弁理士試験合格後に各会派(弁理士の同好会のようなもの)が開催する合格祝賀会において、当該会派に所属する特許事務所がリクルート活動を行うので、そこに採用の機会を見出すこともできます。私も実際にいくつかの祝賀会に参加しましたが、年相応の格好で参加すれば、たたずんでいるだけで事務所のほうが声をかけてきます。

正規の選考ルートでも、事業拡大中の事務所や後継者問題に悩む事務所なら、まず若手弁理士を敬遠することもないと思われます。

また、司法試験でいうところの四大法律事務所、のような大手特許事務所は知財業界にはないので(ですよね?)、事務所就職の場合は、同級生との社格デュエルに参加しなくてもよいというメリットもあるかもしれません。くだらない話ですが、内定先の社格で壊れる友情もあるのが現実なので、これを回避できるのは嬉しい誤算です。

知財業界への新卒就活については、次回のnoteで深掘りする予定ですので、更新をお待ちください。

2.3. 初任給はやや高めにスタートできる

企業知財にしろ特許事務所にしろ、学生ゆえに実務未経験といえども、多くの企業及び事務所は資格手当というものがつきますので、無資格の同僚と比較したら多少初任給は多いです。

ただし、前述したように知財業界に四大特許事務所というものはないので、新卒から年収1,000万円のようなおいしい話はないです(あったら教えてください…!)。

また、その後の昇給具合や生涯年収の話になると、完全に個人の努力次第です。弁理士資格はある程度の最低年収は保証してくれますが、年収を増大させるには、試験合格後も努力を怠ることは許されません。

3. デメリット

3.1. 金銭的負担が大きい

最大のデメリットはこれです。

最短ルートの合格を目指すには基本、資格予備校の門を叩くことになると思いますが、通信形態の予備校でも最低200,000円程度はかかります。

私は大手資格予備校のとあるコースを受講していたのですが、割引を使っても総額365,000円かかりました。

その他にも、法文集の購入やオプションの講座受講(任意)、模試の受験等に細々とした費用がかかります。
遠方に住む受験生は、東京・大阪への交通費及び宿泊費も必要になってきます。

さらに、弁理士になる、そして弁理士であり続けるためにはとてもお金がかかります。

ここにいう弁理士になる、というのは弁理士試験合格後の話です。
弁理士試験合格後、弁理士登録を行うためには日本弁理士会が主催する実務修習を修了する必要があります。

実務修習の受講料は118,000円(非課税)です。

そして実務修習終了後、弁理士登録をするためには、さらに次の金額を日本弁理士会に納付しなければなりません。

  • 登録料:35,800円

  • 登録免許税:60,000円

  • 会費:15,000円(月額)

つまり、実務修習の修了証を受領後、最短で弁理士登録をしたい場合、11月から翌年3月までに総額228,800円の出費が確実です。

に、にじゅうにまん…!?
一般的な学部新卒の初任給より高いです。高すぎる。

実際には学生合格者の場合、卒業後・修了後に弁理士登録をすることがほとんどだと思われますが、そうであっても試験勉強開始から弁理士登録の一歩手前まで最低500,000円は必要と見積もっておいたほうがよいでしょう。

この金額を、親の援助があるならまだしも、アルバイト等をしながら自力で捻出するのは非常に大変だと思います。無理をして体を壊さないよう、金銭問題については熟考したうえで、弁理士試験受験に挑むか否かを決める必要があります。

3.2. 何があっても自己責任

上記のメリット及びデメリットは在学中に弁理士試験に合格したら、という前提のもと検討してきましたが、当然のことながら在学中に合格する保証はどこにもありません。弁理士試験の最終合格率は6%前後であり、学生だから受かりやすいという試験でもありません。

在学中の合格が叶わなかった場合に、もっと遊んでおけばよかった、就活に力を入れてもっと大企業に入るべきだった、研究に集中して業績をつくっておくべきだった、と後悔するのは人間だから仕方がないと思います。

しかし、自分で受験を決めた以上、不合格という現実を受け入れ、自分で責任を取らなければなりません。

そんなの当たり前の話だろ!と思われるかもしれませんが、学生は法律的には成人であっても、その精神性はまだまだ未熟です。不合格に起因する後悔を受け入れるだけの器が完成しているとは言い難いです。

試験勉強になんの代償も払わないということはあり得ない以上、そのような場合でもくさくさせずに、すべて自分の責任と受け入れ、また歩み始める覚悟があるかどうか、試験勉強を始める前に自分の心に問いかけてください。

4. おわりに

在学中に弁理士資格を取得するメリット及びデメリットをまとめます。

メリット

  • 試験対策適性が高い

  • 最小限の就活で済む

  • 初任給はやや高めにスタートできる

デメリット

  • 金銭的負担が大きい

  • 何があっても自己責任

あまり目新しいことは言っていないかもしれませんが、現役学生合格者の言葉という意味では、多少の説得力を感じてもらえたら幸いです。

私としては金銭的負担というデメリットから、すべての学生のみなさんに弁理士試験受験を推奨することは、残念ながらできません。自身が幸運にも在学中の合格を実現できたのも、自分の周りに何重ものセーフティネットがあったからだと断言することができるからです。

しかし、前述したデメリットを厭わないという方には、果敢に弁理士試験に挑戦してほしいと切に願います。知財の仕事は無資格でもできるし、無資格で素晴らしい活躍をされている方も大勢いらっしゃいますが、資格を取らないと見えない世界が確実にあります。

近年は合格者の平均年齢が低年齢化しつつあり、ライバルも学生のみなさんと同等程度に優秀で手強い相手になってくると予想されます。挑戦できるゆとりと覚悟がある学生であれば、今すぐにでも試験勉強を始めるべきです。

最後に、弁理士試験は決して楽な道ではありませんが、このnoteを読んだ学生受験生が合格を掴み取り、弁理士としてご活躍することを願って、筆を擱かせていただきます。


たねまる🌱🚢

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