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黄金長方形と白銀長方形が美しい文系的な理由
はじめに
人間はどんなものを美しいと感じるのか?
この問いに対する解答の一つに、黄金比(1:1.618)と白銀比(1:1.414)があります。パルテノン神殿や法隆寺などに見いだされていますね。
しかし、「こじつけやんけ!」と思う人もいるはずです。
当たり前ですが、これらの比は美の絶対的な基準ではありません。「こことあそこの比率が黄金比になっている!」と言われても、その比だけで構成されているわけではないのですから、こじつけと思うのも納得です。
ですが、あえて言うと、黄金比は美しくないかもしれませんが、黄金長方形は美しいです。同じことが白銀比と白銀長方形にも言えます。
なぜなのでしょうか?
キーワードは「対称性」です。
その1:黄金長方形
まず、黄金比の定義を確認しておきましょう。
黄金比とは、a:b=b:a+b(b>a>0)となるようなaとbの比率のことです。a=1としてこの式を解くと、b=(1+√5)/2が得られます。だいたい1.618です。
ただ、この数字はどうでもいいです。重要なのは、a:b=b:a+bの方です。
そして、おそらく文系の方々はこの式を見てもポカンとされていることでしょう。私も文系ですので、もちろんポカンとしていました。
そこで、図形で考えてみましょう。ここに短い方がa、長い方がbの長方形を用意しました。ただし、aとbはa:b=b:a+bを満たします。
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さらに、短い方がb、長い方がa+bの長方形を用意します。
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a:b=b:a+bとは、この2つの長方形が相似であることを意味しています。つまり、ちっちゃい方をある程度大きくすると、おっきい方と同じになるということですね。黄金比とはこの”ある程度”のことです。
で、ここからが重要です。図2の右側から1辺がbの長方形を削り取ってみましょう。当然、短い方がa、長い方がbの長方形が出てきます。
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この長方形は図1の長方形とまったく同じです。つまり、図2の長方形から1辺bの正方形を削り取ると、削り取る前の長方形が小さくなったものである図1が出てくるのです。
さらに、出てきた長方形に対して同じ操作を行うとどうなるでしょう?
長方形から1辺aの正方形を削り取るのです。大きい長方形から正方形を削り取ると削り取る前の長方形の小さいバージョンが出てくるのですから、その小さいバージョンから正方形を削り取ると、さらに小さいバージョンが出てくるはずです。そして、これは無限に続いていきます。
ようするに、黄金長方形では、長方形から正方形を削り取るという操作が永遠にできるわけです。というか、この操作が無限にできるような長方形が黄金長方形と呼ばれています。
その2:白銀長方形
次に、白銀長方形を考えてみましょう。
白銀比の定義は1:√2、これだけです。基本的になぜ√2なのか説明されることはほぼありません。
ですが、√2でなければならない理由はきちんとあります。それは√2がc:d=d:c+c(d>c>0)という式について、c=1のときのdの値だからです。
まーた、変な式が出てきました。さっきの式と似ていますが、文系にはポカンです。
やはり、図形で考えてみましょう。短い方がc、長い方がdの長方形を用意します。ただし、cとdはc:d=d:c+cを満たします。
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加えて、短い方がd、長い方がc+cの長方形を用意します。
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c:d=d:c+cとは、この2つの長方形が相似であることを意味しています。つまり、ちっちゃい方をある程度大きくすると、おっきい方と同じになるということですね。白銀比とはこの”ある程度”のことです。ここまではさっきと同じです。
ここからが違います。図5の長方形の右半分を削り取ってみましょう。当然、短い方がc、長い方がdの長方形が出てきます。
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この長方形は図4の長方形とまったく同じですね。右半分を削ったのだから当たり前です。
そして、この長方形の長い方dをさらに半分にしてみましょう。図5は図4を大きくしたものなので、図5のときと同じことが起きます。つまり、短い方がdの半分、長い方がcの長方形が出てきます。この、長い方で半分にして片方を削るという操作は永遠に可能です。白銀長方形では、長方形を長い方で半分にして片方を削り取るという操作が永遠にできるわけで、この操作が無限にできるような長方形が白銀長方形と呼ばれています。
ちなみに、白銀長方形とはコピー用紙の規格でもあります。A4はA3の半分、A5はA4の半分、というように半分にするという操作が無限に可能です。
その3:対称性
黄金長方形と白銀長方形がどのような図形なのかはわかりました。
では、キーワード「対称性」とは何でしょう?なぜ黄金長方形と白銀長方形に対称性が絡んでくるのでしょうか?
答えは、黄金長方形と白銀長方形に無限の対称性が潜んでいるからです。
黄金長方形は正方形を削り取ることで、白銀長方形は半分にすることで、削る前と相似な長方形が得られました。そして、これらの操作が無限にできることが両者の特徴、本質でした。
つまり、ある操作をすると操作をする前に戻ってくるのです。
この循環こそが対称性です。
左右対称は左右ひっくり返すと、ひっくり返す前に戻ってくる。
三つ巴は120°回転させると、ひっくり返す前に戻ってくる。
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このひっくり返す前に戻ってくることが、対称性の本質です。
黄金長方形と白銀長方形は、操作後にタテヨコ比がもとに戻ります。かつ、無限に小さくできるし、無限に大きくもできるので、対称性は無限ですらあります。
そして、黄金長方形と白銀長方形に対して行われる操作はきわめて簡単で、ゆえに基礎的です。
黄金長方形の正方形を削るという操作は、「長い方から短い方を引く」という操作。白銀長方形は言わずもがな、「半分にする」という操作。おそらく、子どもに渡してもこれらの操作をごく自然に行うでしょう。
きわめて基礎的な操作の先に無限の対称性が潜んでいる。これが黄金長方形と白銀長方形の美しさです。
おわりに
最後に、この美しさのどこが文系的なのかを話します。
お察しの方もおられるかもしれませんが、これは幾何学です。
ただ、この美しさを示すのに1.618とか1.414とかの数字は必要ではありません。黄金長方形と白銀長方形の美しさの本質は、「長い方から短い方を引く」「半分にする」という基礎的な操作をすると操作をする前に戻ってくること、そして、この操作を無限に行えるということです。それは言葉で表すことができるものであり、多少カッコつけて言えば、ミクロコスモスとマクロコスモスの照応、輪廻転生です。
1:1.618という比率が美しいのではなく、この輪廻転生が美しいのです。黄金比は美しくないかもしれないが、黄金長方形が美しいと言う理由はここにあります。
(ちなみに、黄金比には連分数表示やフィボナッチ数列など数学的な美しさもあります。)