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生きることは変わり続けること。家入レオが今「わたし」を愛することができた理由とは #セルフライナーノーツ

マイナビ学生の窓口にて2020/4/22に公開した記事を転載しています。

4月といえば新年度。なにか新しいことを始めるには最適な時期に思えます。いっぽう「失敗したらどうしよう」「挫折したときに立ち直れる自信がない」といった気持ちから、新たな一歩を踏み出せずにいる人もいるのではないでしょうか。

16歳で単身上京し、高校に通いながらメジャーデビューをした家入レオさんは、唄うことに自らの道を見出し、その道を進み続けてきた人です。芯の通った歌声とまっすぐな瞳が印象的な家入さんには「毅然とした人」というイメージがありますが、そんな彼女でも、「つまづいて、先に進めなくなることに対する不安」を経験したことがあるそうです。

悩みの日々を家入さんはどのように乗り越えたのでしょうか。最新シングル『Answer』にもあらわれている現在の心境について語ってもらいました。

早咲きの彼女を襲った「クオーターライフ・クライシス」とは

――家入さんは13歳の頃に歌手の道を志し、『音楽塾ヴォイス』に通い始めたんですよね。

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家入レオ:そうですね。当時のわたしはクラスの人たちの会話に合わせるので精一杯だったんですよ。嫌われたくないからそうしていたんでしょうけど、そういう自分の悲しさや苦しさを吐き出せる場所がなくて。

そこから音楽に救われていくことになり、そんななかで上京の話が出て。父からは反対されたし、自分でも迷ったんですけど、「ここで行かなかったら一生後悔する」と思って上京することに決めました。

上京してからの自分は……やっぱり今になってみると、尖ってたなあって思いますね。「社会に出るからには戦わなくちゃいけない」っていう固定観念が自分のなかにあって。「自分のことは自分で守らないと、大切なものを誰かに奪い取られてしまうかもしれない」と勝手に思い込んでました。

――学生時代に感じていた「居場所がない」という感覚は、音楽を生業にすることによって解消されましたか?

家入レオ:それがそうでもなくて……。「じゃあわたしは、いったいどこでならわたしらしく生きられるんだろう?」って悲しくなったこともあったし、ちょっと思い悩むような時期が去年まで続いていました。

――けっこう最近まで続いてたんですね。

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家入レオ:はい。「クオーターライフ・クライシス」っていう言葉があって、20代後半から30代前半の時期に訪れる「あれ? わたしは今この道を進んでいるけど、本当にこれでよかったんだっけ?」っていう感覚や、自分の価値を問い直す現象をそう呼ぶみたいなんですけど。わたしの場合、デビューが早かったからか、22歳ぐらいからそういう焦りが出てき始めたんですね。

デビューしてからの2、3年間は、時間の流れがとても速い場所に身を置いていて、苦しかったけど、目の前の壁が次のステージに続く扉になっていくような感覚がして、それがすごくおもしろかったんですよ。「あ、ちゃんと進めてる!」って。

だけど、あるときそれがパタッと止まったんですよね。目の前の壁が次への扉になるような気がしないというか。その壁をノックしてみても、ペンキで色を塗り替えてみても、材質を変えてみても、もうドアにはならない。どうやったら次に進めるんだろうっていう感じでしたね。


葛藤を経て手に入れた、ひとりぼっちになる強さ

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――その状況をどう打開しようとしたのでしょうか。

まず、「壁を越えられないということは自分のなかには答えがないのかもしれない」と考えて外の世界に出てみました。でもそれは上手くいかなかったですね。出かけた先でせっかくいい人に出会うことができたとしても、自分自身が未完成の状態のままで外に出ているから、結局自分が力不足だと思い知って、悔しさしか残らなかったんですよ。

それで今辿り着いたのが――それはこの「Answer」に込めたメッセージでもあるんですけど――自分と向き合うことを恐れて誰かと一緒にいることを選んでしまったりとか、そういうのはもうやめようと思いました。

――〈ひとりぼっちになる 強さを贈るよ〉というフレーズはそういう経験から出てきた言葉ですよね。

家入レオ:そうですね。わたしは「周りに感謝することができて初めて自分も幸せになれる」、そういう順番だと思ってたんですよ。でもきっとそうじゃなくて、自分で自分を満たせないと、周りにいる人のことも大切にできないんだなって気づいて。

日本人ってすごくまじめで素直な国民性だから、自分の幸せよりも他者に承認されることを選びがちだと思っていて。でもずっとそうやって生活してると、空虚な気持ちになってくるんですよ。

同じようにわたしも、誰かと会うことによって、自分の心にある穴を見て見ぬふりをしてたんですね。だからそうじゃなくて、その穴を自分で覗き込んで、次の世界に行く必要があるなって思ったんです。

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穴を覗き込むっていうのは「自分のやりたいと思ってることに関して勉強する、練習する、習得する」っていう作業なんですけど、それは怖いことでもなんでもなくて、むしろそこから逃げててもなにも始まらなくて。

だけど今って、それを難しくさせてしまうツールが多いじゃないですか。映画のDVDを観ながらスマホでインスタを見ちゃったりとか、誰かと喋っている最中にLINEを気にしちゃったりとか、そういうことをついやってしまう。それによって「今を生きる」ということがおざなりになってしまう。

でも、一人の人間が人生のなかで大事にできる物って限られてるから。腹を決めて、それととことん向き合って最後まで生ききる、っていうことが必要なのかなって思いました。


生きることは変わり続けること。「答え」ほど信じちゃいけないものはない

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――人生って有限だから、自分にとって大切なものや人、もしくは自分自身に費やすのが本来一番有意義なんですよね。

家入レオ:本当にそう思いますね。わたしにも(CDの売上)ランキングを気にしながら、自分と他のアーティストさんを比べていた時期があったんですけど、ふと思ったのが、「わたしがこうやって順位を気にしてる間に、あの人(比較対象となるアーティスト)は今、おいしいものを食べて笑っているかもしれないなあ」っていうことで。

そう考えたら馬鹿らしくなってきちゃって。

もちろん人間だから、人のことを羨んだことが一度もないっていうことはないと思うんです。だけどそこに時間を使うよりかは、自分で自分を抱きしめてあげることや、自分の足で好きな人に会いに行くことに使いたいですよね。

――とはいえ、自分で自分を幸せにするのって難しくないですか?

家入レオ:わたしもずっとそう考えてたんですけど、そんなことなかったんですよね。実際に「どんなときに幸せを感じるのかな?」って考えながら、自分がなにに幸せを感じるのかを箇条書きにしてみたんですよ。

そしたら「友達からLINEが来た」とか「朝晴れていた」とか「期間限定のアイスを食べられた」とか……本当に他愛もないことばかりで。

確かに「石油王になりたい」とか「宝くじで3億当てたい」とかだったら、実現は難しいと思います。でも、「本当にそう?」って、ちゃんと自分に問いかける時間を持つべきだと思う。

――たとえばSNSを見て、ブランド物の洋服やバッグの写真をアップしている人のことを羨ましく思ったとして、真似をするのもいいけど、一旦立ち止まって「そもそも自分は本当にブランド物が好きなのか」「そういう写真をSNSで公開することによって幸せを見出す人物なのか」と考えたほうがいいということですよね。

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家入レオ:その通りですね。「ブランド物の洋服を着ることが幸せ」っていう人もいれば、「どろんこになりながら自然を駆け回ってるときのほうが幸せです」「だから汚れてもいい洋服を着ていたいです」っていう人もいるし。

だから「あ、こういう人に追いつかなくちゃ」って焦るより前に「本当に追いつく必要ある?」って考える時間を持つべきだと思うなあ。

わたしもこれまでは「どうしよう」「追いつかなきゃ」って勝手に頑張って、潰れて……っていうのを繰り返していたけど、今は「自分が心から好きだと思えるような人と一緒に、素朴に暮らしていければ十分幸せじゃない?」って思えていて。

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この生き方はきっと、100年後も語り継がれるような派手な生き方ではないです。でもそうやって「家入レオ」とともに歳を重ねられる環境が、わたしにとっては幸せなんですよね。

――そう気づけたことによって、先ほど話していただいたような「壁が扉にならない感覚」もなくなっていったのでしょうか?

家入レオ:そうなんです。気づいたらね、壁がボロボロボロ……って崩れていったんですよ。今はすごく楽しく毎日を送ることができています。

やっぱり、世の中的に正しいとされているものが、自分に当てはまるかどうかなんてわからないっていうことですよね。「答え」ほど信じちゃいけないものなんてないと思う。

――今回のシングルで一番興味深かったのがそこだったんですよね。「Answer」というタイトルの曲なのに〈答えはいらない〉という歌詞があります。

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家入レオ:そう、いらないんですよ! だって、1年前に正しいと信じていたことでも、今の自分からしたら「いや、今はもう違うかな」って思うことって、普通にあるじゃないですか。それなのに、今の自分の選択をファイナルアンサーみたいに思ってしまって、ここから絶対に変えちゃいけないって思っている人が多すぎる気がする。

それでいいじゃんって、わたしは思いますね。だって、生きるって変わり続けることだから。考えが後々変わったとしても、それはそれ、というか。人生って、そういうことの繰り返しなんじゃないかなって思うんですよね。


消していい過去なんてない。そう思えるのだから、人生、生きてみるもの

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――でも、たとえば転職をするにしても「ここまで積み上げてきたキャリアを捨てるのが怖い」という考えから、なかなか踏み出せないという人もいると思うんですね。家入さんは変化することに対して恐怖心を抱いたことはありませんか?

家入レオ:いや、わたしも毎回(恐怖心を)抱いてますね。

だけど、その「怖い」っていう感情があるからこそ歌える歌もあるじゃないですか。だから、今まで培ってきたものが全く無駄になるってことはないと思っていますね。死ぬ以外は全部音楽にできるからなあ、って。

――今は10代の頃とは全く違う気持ちで唄っているけど、「あの頃があってこその今なんだ」と実感できているからこそ、充実した気持ちでいられているんでしょうね。

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家入レオ:そうですね。消していい過去なんてないと思う。それも含めて全部わたしだから。
確かに間違ったこともあったかもしれない。負けたこともあったかもしれない。だけど、ずーっと勝者でいるほうが怖いですよ。いっぱい苦しかったし、たくさんの人を傷つけたけど、これでよかったです。

――今、10代の頃の自分に会いに行けるとしたら、どんな言葉を掛けてあげたいですか?

家入レオ:もう、走って行って「大丈夫?」って抱きしめてあげたいです(笑)。本当に気を張ってたと思うから。……でも、歌を唄うことを選んでよかったですよね、本当に。

――というと?

家入レオ:みなさんの場合、10代の頃に書いた日記を他の人に読まれてしまうことってそんなにないじゃないですか。

でもわたしの場合は、そういうものが全部曲になって残っているんですね。そのことに対して「耐えきれない」って思った時期も正直あったんですけど、よくよく考えてみたら、自分ですらも認められない自分を「好き」って言ってくれる人がいること、「この音楽いいなあ」ってCDを手に取ってくれる人がいること、それ自体がもう、わたしが音楽をやってきた意味なんですよ。

〈今になって分かった あの日の愛が〉と歌詞にも書いたように、「あの頃はどうして、あの人のやさしさがわからなかったんだろう?」っていう経験が、わたしのなかにはいっぱいあるんですよ。自分のなかにタイムカプセルがたくさん溜まっているというか。

だから、人生、生きてみるものだなあと思いますね(笑)。それだけいろいろな人が、たくさんの愛情をわたしに注いでくれていたということだと思います。

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文:蜂須賀ちなみ
写真:佐藤友昭
編集:学生の窓口編集部


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