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40年前に買ったスピーカー「タンノイ・スターリング」をオーバーホールした話
今から40年前の大学生のころ、亡き父親と一緒に買いに行ったスピーカー「タンノイのスターリング」。オーディオ好きの間では、家庭用として定番のスピーカーの一つですが、最近は時々音にノイズが入るなどくたびれてきました。でも、外見はきれいですし、まだまだ使えそうです。なにより父の形見としてまだお付き合いしたいと思い、専門の業者にオーバーホールをお願いしました。
4か月待ちの修理
2024年5月に修理の予約をしてから4か月たった10月、ようやくスターリングを修理に出す日がやってきました。山形県鶴岡市にある修理工房には、全国各地から同じような予約が殺到しているそうです。
1台22キロあるスピーカーは、工房から送られてきた資材を使って長旅に耐えられるよう梱包して送り出します。サイズがぴったりなのは、スターリングのようなサイズの修理依頼が多いからだと勝手に想像しています。
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修理が終わるのは年内とのこと。その日が来るまで楽しみに待つとします。
いってらっしゃい!
スターリングとの出会い
スターリングを買ったのはおそらく1988年か89年。父親と店に行ったことを覚えています。
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テレビの下にはバブル期に出たビデオデッキ NV-V10000も
当時はレーザーディスクが映画を楽しむソフトととして広まっていて、父親は大画面テレビでレーザーディスクを楽しんでいましたが、もっと迫力ある音で鑑賞したいというような動機だったかと思います。
私は大学生で、いろんな音楽を聴くようになっていて、中学生の時に買ってもらった国産のコンポより、もうすこし本格的なオーディオで聞きたいなと思っていたところでした。
思惑が一致して親子で出かけたのは家の近くにあった「ラオックス」。当時、郊外の電気店は「ヤマダ」でも「ノジマ」でもなく「ラオックス」でした。そしてどこの店にも結構広い「オーディオコーナー」がありました。
サンスイとかJBLなどは知っていたのですが、店員に勧められたのはタンノイのスターリング。当時で1台22万円×2。さらにはスピーカーを置く専用の台があってこれも×2。なんだかんだで50万円少ししたのでしょう。ちなみにこの時に買ったアンプはサンスイでしたね。
スターリングが家に来た時に、父親はさっそくレーザーディスクをかけました。コッポラの「地獄の黙示録」です。あのヘリコプターの爆音と「ワルキューレの騎行」を最初に再生するのは、このスピーカーにとっていいのだろうかと考えましたが、シンバルがすごくきれいに響くことに感心しました。
以来、大学の授業が終われば、学生時代につきあっていた今の妻とのデートも早々に切り上げ、家に帰ってCDやLPをかけて楽しんでいました。このことは今も妻からも嫌味たっぷりに指摘されます。
私のスピーカー遍歴
その後、まもなくして私は就職して地方都市に赴任し、一人暮らしを始めました。実家のスターリングとはお別れで、その代わり少し安いスピーカーを社会人2年目くらいに買いました。それが下のモダンショートというスピーカーです。
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さらに、結婚してしばらくたった時に、確かボーナスでオランダのディナウディオ、コンター1.3という少し小さめのスピーカーを買いました。モダンショートよりもこぶりながらも迫力があり、解像度も高い音楽を聞かせてくれました。
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こうして振り返ってみると、キャビネットは木の風合いを生かしたものが好みで、音もばりばりのハイファイサウンドではなく、家で聞きやすいことを軸に一番に選んでいるのだと、あらためて思いました。
そしてスターリングは、2000年に父が死去してから自宅に放置したままだったのを、2002年に私が自宅を新築した際に譲り受け、リビングダイニング用のスピーカーとして使っています。
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40年間の劣化
修理工房にスピーカーが届くとしばらくたって、修理の見積りが来ました。
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分解点検して劣化している場所を調べ、どのくらいのコストがかかるかが示されています。ただ、このスピーカーの修理は経験豊富らしく、事前の見積もりとさほど変わりませんでした。2台の修理費用は、新品で買った時の1台の値段より少し高いくらいです。
けして安い金額ではないですよね。ただ、私は父親の唯一ともいえる形見で、自分が死ぬまでこのスピーカーを聞こうと思っています。あと20年くらいでしょうか。だとしたら、この値段は高くはないと思います。
ちなみにこの修理工房、先にも書きましたが山形県鶴岡市にあります。この工房の前身はオーディオショップで、今は亡き社長さんと私は面識がありました。
20代のころ2年ほど鶴岡市に住んでいた私は、オーディオ機器を買いもしないのにこのショップに遊びに行っていたのです。確か、ヒョウタンの底をくりぬき直径5センチくらいのスピーカーを取り付け、吊るして聞く自作のスピーカーを作った際に持ち込んで聞いてもらいました。
「このスピーカーはこんな音楽があいそうですね」
そう言って店長は、ウクレレのCDを聞かせてくれました。これ以外にもオーディオの楽しみ方をいろいろ教えてもらった素敵な大人の人でした。
リフレッシュしたスターリング
2024年も残り僅かになった12月26日。鶴岡からスターリングが戻ってきました。
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どの音楽を最初にかけようか。
最初の一枚が終わったら、クラシックからジャズ、ロックまでありとあらゆる音楽をかけるつもりですいが、最初の1枚はこれにしました。
ブラジルのギタリスト、PAULO BELLINATIが、同じくブラジルの作曲家GAROTOの作品だけを集めた一枚です。
ギターソロなのでスピーカーの再生音域を試すとかそういうことを意図したわけではありません。それでもこの端正なギタリストが奏でる音楽とその響きをスターリングで聴きたかったのです。
感想をいうと、それはそれが薄皮が一枚はがれたように新鮮な音でした。40年前の感動を思い起こす音の説得力でした。
このあと聞きなれたCDやLPを聞くたびに「あ~いいな」と聞き入っています。なにより、40年の時がつまったスピーカーに、新たな命が吹き込まれたようで、音楽が聴くのがいっそう楽しくなりました。
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古い物を大切に使うとはよく言いますが、それが電子機器である場合、性能が劣化すると愛着そのものが薄れてしまいます。今回のスターリングの修理は、モノと所有者の関係をもう一度温め直してくれたと感じます。そのための修理代も、けして高くはなかったと感じています。
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