見出し画像

話して聞いて再発見!物語る地図の味わい方|『手書き地図の教科書』出版記念トーク(後編)

後半は、会場の皆さんとまちネタを持ち寄って話してみるミニワークショップの様子をお届けします。(↓編はこちら

手書き地図ワークショップはいつも、①ディスカッション→②フィールドワーク→③マップメイク→④発表会→⑤再発見→⑥地図の完成、というステップを踏むのですが、今回は①の「ディスカッション」パートを再現。2冊目の新刊『手書き地図の教科書』に収録されているQ&Aをいくつかピックアップして行いながら、1冊目(『手書き地図のつくり方』)で伝えた“みんなでつくる手書き地図の面白さ”を追体験してみようという時間です。

赤津研究員いわく、ワークショップや地図づくりを楽しむたった一つのコツは「恥ずかしさを捨てること」。反省もしなくていいし失敗もない、というのが手書き地図のいいところ。大内研究員からは「今日は今日のジャムセッションを楽しむ」のが大事だよ、とのアナウンスが。出身も居住地も様々な参加者の皆さんの、超個人的な思い出や地元話を寄せ集めた一夜限りの架空のまちネタ集め、スタートです。


Q1.食にまつわる超個人的な思い出

観光地ならではの思い出を教えてくれたのはAさん。イギリス人留学生の友人に浅草を案内していたその日は、あいにくの土砂降り。かつ、お目当てのもんじゃ屋は満席。雨をしのいで待つ場所もなく入店を諦めかけたとき、同じく席待ちでようやく入店というタイミングの台湾人女性が、「一緒に食べませんか?」と相席を申し出てくれたそう。旅の味は特に、心温まる出会いとセットですよね。

葛飾区の推しローカルスイーツについて話してくれたのはBさん。パティスリーコトブキという地元の洋菓子屋がつくる「キャプテン翼サブレ」は、同郷・四ツ木が生んだ漫画家・高橋陽一先生とのコラボ商品。このサブレを常に持ち歩き、周りに配ったりウェブ記事やTwitterで発信したりと、勝手に推しの営業活動をしていたBさん。するとある日、ウェブ記事を見た南葛SC(主人公・翼くんの所属チーム)からBさんが勤めるウェブ会社に直接連絡が!本物の南葛SCゼネラルマネージャーから仕事のオファーが来たんだそう。「好きなものを好きって言っていると、自然と仕事になりました」と話すBさん、かっこいいです。

手書き地図研究員からは、ほろ苦い思い出も。漬物嫌いの跡部研究員は昔、三軒茶屋のラーメン屋さんで間違えて高菜ラーメンを注文してしまったそう。野菜ラーメンと空目したんでしょうか。ラーメンが出されると大将に「ごめんなさい、漬物嫌いなんで食べられません」と謎の謝罪。お金だけ払って店を出たそう。大内研究員は埼玉県新座市のうどん屋さんでの思い出。地元の人気店として有名なその店は、案の定その日も店先に長蛇の列。なんと2時間(!)も行列に並び続けたそうですが、入店前にまさかのうどんがなくなり営業終了……。嬉しい記憶も哀しい記憶も思い出になればオイシイのでよし!と思えるのも、手書き地図のいいところ。

Q2.知らないとモグリといわれるあの食べ物

跡部研究員と大内研究員には地元の馴染みの味、宮城県塩竃市の銘菓「マコロン」。落花生と卵を使ったクッキー風のお菓子らしく、マカロンではなくマコロン。そんな、地元民だからわかるあの店のあの味を教えてもらいました。

Cさんにとって忘れられないのが、吉祥寺の和菓子屋・小ざさの羊羹。1日150本しかつくらず1人3本までしか買えない超有名店だそうです。早朝から並んだ行列で居合わせたのは「ここの羊羹は半年経ってからがうまいんだ(※賞味期限は3カ月)」と話す常連のおじさん。Cさんはおじさんの言葉を信じて、入手した羊羹のうち1本を冷蔵庫に寝かせておいたそう。なのですが、そのまま忘れて2年経ち、結局食べられなかったといいます。半年後食べていたらいったいどんな味がしたんでしょう……。

上石神井が地元のDさんおすすめ地元グルメは、青梅街道沿いにある町中華・梁山泊の肉あんかけチャーハン。1番人気のメニューで、40年以上つぎ足している秘伝の細切り肉あんが絶品なのだとか。Dさんいわく、徒歩での来店がおすすめ。駐車待ちの来店者よりも徒歩の来店者を先に案内してくれるらしく、地元の人は皆、少し遠くに車を置いて訪れるのだそう。

Q3.自分だけの秘密の絶景ポイントは?

Eさんは、地元・中板橋がひそかに誇る絶景を教えてくれました。普段はおじいちゃんおばあちゃんが行きかう地元密着型の中板橋駅ですが、実は春先になると地元民だけがひっそりと楽しむ見事な桜並木があるんだそうです。花見シーズンには大混雑する中目黒などと違って、出店もひっそり、ベビーカステラの屋台が1軒だけのんびり営業しているといいます。Eさんにとっては“このくらいがちょうどいい”んだとか。Fさんが見つけたのは通っていた大学があった蒲田の、猫が集まる絶景。餌をやっている人がいるのか、猫に大人気のスポットだという西蒲田公園は、昼のあたたかい時間帯に行くと猫が20匹くらい集まっているのだそう。

Q4.地元に長く住んでいる証? 呼び名でわかる、地元民かそうじゃないかの判別法

日頃のモヤモヤを訴えてくれたのは長野在住の江村研究員。地元・長野の人たちにとって「シンダイ」といえば信州大学(信大)のことらしいのですが、お隣・新潟の人にとっては新潟大学(新大)を指すのだとか。ちなみに筆者含め関西ローカル民にとっては、シンダイというと神戸大学(神大)一択です。たしかに、「あのひとはシンダイ出身だよ」の会話、地元を一歩出たら全然通じないんですね。

大内研究員も通じない問題を提唱。仙台から東京に出てきて中央線沿線に住んでいる大内研究員にとって、「ムサコ」は武蔵小金井を指すそうですが、関東民にとって「ムサコ」は、武蔵小金井でもあり、武蔵小山でもあり、武蔵小杉でもあり……ムサコ問題も根深いですね。

ほかにも、山形出身のGさんは、秋田との県境にある鳥海山を秋田県民は「ちょうかいさん」、山形県民は「ちょうかいざん」と読むという違い、大阪出身のHさんは、大阪の難読地名・十三(「じゅうそう」と読む)について、紹介してくれました。

Q5.実は気になっていたシモキタのアレやコレ

最後は本日限定のお題、イベント会場だった本屋 B&Bさんがあるシモキタの気になるウワサ、お店について。川村研究員が気になっているという喫茶店のウワサについて。若い頃、当時付き合っていた彼女(今の奥さん)とよく訪れた〈マサコ〉というジャズ喫茶。惜しまれつつ閉店したシモキタの名店がなんと最近、移転して違う場所で復活したという風のウワサを聞いたそうで。調べてみたところ2020年に移転していました。

最近も駅前再開発などで大きく変化しているシモキタのまちですが、まちの歴史はこうして脈々と受け継がれているのですね。シモキタにはよく来るんですという跡部研究員が気になっているのは、茶沢通りにある「喫茶オールド」というお店。なんでも手書き地図の研究をしているマスターがいて、いくつか地図が貼ってあるのだとか。これはぜひ、委員会として取材に訪れてほしいところです。

5つのお題のネタを持ち寄ったところで時間切れとなり、ミニワークショップが無事終了。短い時間にもかかわらずたくさんのネタが集まりました。駆け足ではあったものの、他人の超個人的なエピソードって、自分にないあたらしい視点のオンパレードだなあと、改めて感じさせてくれる時間でした。

そしてなんとなんと、敏腕デザイナー・江村研究員が、当日集まったネタを即興でビジュアライズしてくれた絵がこちら!

最後に、この一枚の絵の中を、旅先でふとだれかの日常に思いを馳せてしまう感覚で「歩いて」みてください。モクモクとわくエピソード雲の向こうに薄っすらと、架空のまちの道や交差点、山、川が、そこに暮らす人たち見えてきませんか。

一夜限り&一期一会のワークショップですら、まるでそのまちやその店に行ったことがあるかのような気になれる面白さがあり、聞けば聞くほど自分のまちメガネに磨きがかかる。忘れかけていた自分の思い出や経験も再発見できてしまう。これぞお得感満載、ワークショップの醍醐味です。まちネタをお寄せくださった参加者の皆さん、ありがとうございました

最後に赤津研究員から「みなさんにお伝えしたいのは、こういう日常の楽しみ方もあるよ!ということです。日記を書くように地図を書くと、いつもの日常がぐんと広がるんです」とメッセージが。「自分のまちには、ほんとうに何もなくて……」と思っているそこのあなた。騙されたと思って『手書き地図の教科書』を読んでみてください。きっと見方が変わるたくさんの発見があります!

イラスト:江村康子

この記事は、下記イベントのレポートです。
川村行治×赤津直紀×跡部徹×大内征×江村康子「自分だけが知っている、自分の街の最高なところを見つけよう」『Q&Aで地域を再発見! 手書き地図の教科書』(学芸出版社)刊行記念(2024/07/31|東京・オンライン)


いいなと思ったら応援しよう!

学芸出版社
いただいたサポートは、当社の出版活動のために大切に使わせていただきます。