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めくるめく『超建築パース』の世界 1

2021年8月10日に刊行する『超建築パース 遠近法を自在に操る26の手描き術』。超建築パースとは「CADやCGが普及し、建築パース表現がデジタルも含め多様化するなか、手描きでしかできない技をさらに伸ばすために追究したパース術」のことです。

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『超建築パース 遠近法を自在に操る26の手描き術』田中智之 著

臨場感や雰囲気を伝える図法の飽くなき探究 ―伸びやかに湾曲する地平、効果的な省略や誇張、透視など、手描きパース最大の魅力はCADでは表現しえない“適度な補正”を含んだ空間描写にある。正確さに基づきながらも自由な情報編集の応用術として“図法の拡張”をすすめる画期的な指南書。建築コンペやプレゼンテーション、地域ビジョンに「見えるわかりやすさ」を!


著者・田中智之先生の描くパースは、巷で “タナパー“(=「タナ」カさんの「パー」ス)として知られます。そして本書は、そんな田中先生のパース術を実例とともに徹底解剖しよう!という一冊です。

例えば地平線のわずかなたわみが生む「ここに居る」感じ。遠近線の微妙な省略とか誇張で生まれる「画の一体感」。線の密度差やハッチのバリエーションでつくる「個性と雰囲気」。どれも脳から手へ瞬時に伝達される “描き手の絶妙な匙加減“ で施されるものです。

CADと違って画の隅々までその配慮が感じられると、パース全体に生気が生まれます。スルメのように噛めば噛むほど味わい深い、見る人を惹きつけるビジュアルは、空間構想を共有するツールとして欠かせません。そんな手描きの魅力は書店さんで本書を手に取ってご覧いただけば一目瞭然かと思いますのでお楽しみに・・・。

ということでこの記事では、そんな本書の内容をフライングで少しお見せしたいなと思います。

副題「遠近法を自在に操る26の手描き術」の言葉どおり、そのテクニックを26に整理して解説している本書ですが、今回はその6つ目、「かまえる」をご紹介します。


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第3章 図の極意


|構図

|06. かまえる|


●見せ場が最もよく伝わるアングル探し


構図とは文字どおり図の構えであり、スクリーン(画面)と図による構成のことを指す。写真などの三分割法* が有名であるが、構図の良し悪しは画面のフレームと被写体の関係で決まる。ここではスクリーンに対する構え方として正対と斜視の2 通りについて考える。正対とは画面に対して正面に向かうことであり、斜視は斜めに向かうことである。


* 三分割法:画面を縦横均等に三分割し、線の交差した4つの点に被写体を配置すると、バランスの良い構図が作成できるという方法。


●重畳する風景| 茅野市民館(プロポーザル案)


長野県[新茅野市民会館建設及び周辺整備設計プロポーザル]におけるメイ
ンパースである。


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まず下の構図検討用に描いた下書きと、上の完成パースを見比べてもらいたい。当初は斜視でのアングルと構図を検討していたが、最終的には上の正対の構図に変更している。


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斜視の構図は、跨線橋と接続する長さ120mのスロープを経て、ホールや美術館につながる全体構成、スロープの道中にある図書館や練習スタジオ、展示など多様な使われ方を伝えることが目的であった。しかし斜視の場合、どうしてもスロープの“長さ”が必要以上に際立ってしまう。


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そこで正対の構図に変えてみる。しかも「望遠レンズで奥行きを絞った」ようなイメージである。奥行きを圧縮し、道中の多様な場所や使われ方が“重畳”している構図で、賑わいの連鎖を表現した。



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いかがでしたでしょうか? 「正確さに基づく自由な応用」の可能性、少しは感じていただけたでしょうか。手描きパースに苦手意識がある方にはちょっと高度なテクニックに感じられたかもしれませんが、1章・2章では基本図法などもおさらいできますのでご安心を。

ちなみに「はじめに」では  “いい加減” に描けることが手描きの良さだと表現されています。「雑」「テキトー」という意味ではなく、アスリート同様日々の基礎トレに裏打ちされた「いい加減さ」です。長年の経験に基づく “絶妙な匙加減“ ともいえるかもしれません。

なので、これを読めば簡単にタナパーが描けるようになりますとは口が裂けても言えませんが、少なくともパース上達の推進力にはなりそう。それに、パラパラとページをめくるだけできっとわくわくします。書店さんで見かけたらぜひ手に取ってページをめくってみてください。気に入ったら家に連れて帰って、穴があくほど凝視してください。

掲載された45枚のパースはどの作例も、言及されたメインのツボだけでなく、いくつかのツボの掛け合わせで描かれているので、どのツボの組み合わせかを読み解くのもおススメです。

コンペやプレゼンなど、頭の中にある空間のアイデアや魅力を誰かに伝えようと思ったとき、イメージを具現化する一助になれば幸いです。



本書の目次・はじめに・あとがきは下記URLよりチェック可能です。

『超建築パース 遠近法を自在に操る26の手描き術』田中智之 著

体 裁 B5変・128頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-2780-8
発行日 2021-08-10



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