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|013| 山田友梨/ハートビートプラン/35歳

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結婚して新居に引っ越した時、本棚を買った。夫の本はあちら、私の本はこちらと、最初はルールがあった気がするが、元々それほど几帳面な2人ではない。本が増えるたび適当な場所に並べていたら、いつしか境界線は曖昧になった。そのうち、雑多な「実家の本棚」のようなものが出来上がるのだとばかり思っていたが、そうはならなかった。

1年前に夫が突然死んだからだ。本棚の本の約半分は、あっという間に「遺品」になった。

主の片方を失ってじっと沈黙する本棚は、まるで墓石のようだった。結婚生活の亡骸の上に置かれた動かぬ墓石である。
骨になった夫の『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』の後ろで、私の『BASARA』も骨になった。夫の『水曜どうでしょう 放送事典』と『渋さ知らずズ』に線香があげられるのだとしたら、この2冊に挟まれた私のレイ・ブラッドベリ『十月の旅人』からも同じ白檀の匂いがするだろう。『女の子のしあわせ名前事典』が成仏出来るのはいつなのだ。

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全ての背表紙を順番に読み上げたら、念仏にでもなるかもしれない。墓石の前でするように、小さく合掌してみたこともあるが、何の意味もないように思えてすぐにやめた。

4歳になる息子が時折、この本棚から本を持ってくるようになった。

「このおじさんだれ」と持ってきたのは2008年5月号の雑誌『remix』。おじさんたちは電気グルーヴです。パパさん好きだったでしょ?「このキラキラのやつなに?」と手にしていたのは2013年3月号の『Meets Regional 食都天満』。表紙のキラキラしたのは八宝菜です。今度食べに行こうね。息子が取り出したまま居間に放置されていた『アンドレアス・グルスキー展』の図録は、目を離した隙に1歳になる娘がベロベロに舐めまわしていた。

娘よ、本は舐めるものではない。息子よ、出した本は元の場所に戻しなさい。そしてついでに言っておくと、父親を亡くした君たちが生きていくには、人より少し多く、物語が必要になるかもしれないね。この本棚に1つくらい気にいるものがあれば良いが、なくても別に構わない。

墓石は動かないが、本棚は形を変える。そしていつも、君たちに開いている。


●棚主プロフィール

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 山田友梨/ハートビートプラン/35歳
1984年大阪生まれ。まちづくり会社の片隅に籍を置く2児の母。人生の大波にもまれながら、ものを書いたりしています。note

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