|011|杉田真理子/建築・都市・まちづくり専門編集者、ライター/30歳
移動が多く、持ちものは出来るだけ最低限に留めている私の本棚は、恐らく同年代の同業者に比べて、小さい方だと思う。
本はよく読む方だが、図書館か電子書籍、買っても読み終わったらすぐに寄付して、物質としての本の所有にはこだわらず、本の「中身」を頭のなかの本棚にしまう癖をつけている。
けれど、引越しの度に、これだけは....と手放さずに共に移動し続けている本が何冊かある。これらの本は、既にどれくらい私と一緒に旅をしてきたのだろう。そんな私の本棚には、「ここではないどこか」に想いをはせられる、「旅、越境、移動」がテーマになった本が多いような気がしている。
最近買って非常に満足しているのが、Guy Delisleの『Jerusalem(エルサレム)』。カナダ・ケベック地方出身の漫画家による作品で、残念ながら邦訳本はまだ無いようだ。彼は、国境なき医師団で働く妻の付き添いで、エルサレムや深圳、北朝鮮などを転々としながら、そこでの生活や街の情景を、鮮やかに描き出している。漫画って、軽視されがちな分野だと思うけれど、彼が細やかに描く日常生活と街の姿は、生々しくて美しい。まさに、都市における文化人類学、といった感じ。
『トーキョー・トーテム 主観的東京ガイド』は私のバイブルで、週に1回はインスピレーションを求めて手に取る。この本を作ったアムステルダムのスタジオ・Monnikは、世界中を訪ねて現地でワークショップやリサーチをし、そのアーカイブを本としてまとめているようだ。同じスタジオがつくった、レバノンの首都・ベイルートについての『Beyroutes: A Guide to Beirut』も良い。テキストだけでなく、写真や地図、イラストなど盛り込まれているから、何度読んでも楽しい。
こちらも邦訳が無いが、編集者Helen Constantineが手掛ける『City Tales』シリーズは、まだ行ったことのない街に足を運ぶときは、必ず読むようにしている。ローマやウィーンなど、その街が舞台になった各時代の小説を集めた短編集で、登場人物に感情移入したり、シーンの情景を思い浮かべたりしているうちに、その街と自分の関係が、グッと近くなる気持ちになる。
服と同じで、本当になんども繰り返し読みたいお気に入りの本を探すのは楽しい。杉田さん、またあの服着てるの、みたいな感じで、またあの本読んでるの、みたいな。そんなエモい関係性を、本と築きたいなと思っている。
●棚主プロフィール
杉田真理子/建築・都市・まちづくり専門編集者、ライター/30歳
デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。ブリュッセル、ウィーン、コペンハーゲン、マドリードの4拠点を移動しながら、エリアブランディング、都市人口学、まちづくりの計画理論などを学ぶ。株式会社ロフトワークで空間デザイン・まちづくり系プロジェクトのプロデュースとマーケティングを務めたのち、独立。都市に関する取材執筆、調査、翻訳、リサーチやアーカイブシステムの構築など、編集を軸にした活動を行う。海外のまちづくり事例を集めたWebサイト「Traveling Circus of Urbanism」、アーバニスト・イン・レジデンス「Bridge To」運営。オンライン名刺はこちら。
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