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|009|海野玄陽/竹中工務店/31歳

私は竹中工務店というゼネコンで設備設計を行なっている。建物の中の電気や給排水、空調を設計する分野である。言い換えればハコモノの建築物に機能を与える職種であるとも言える。

しかしより包括的に、そこで住む人やその建築が建てられる街全体のことを考えると、一つの建築物の機能だけを考えているのでは全く不十分である。人々の行動心理、知的生産性、健康、歴史、都市の持続可能性、省エネなど、建築を起点としたあらゆることを考慮に入れなければ本当の意味でいい建築は作れない。建築学生だった頃からずっとそんなことを考えて、あらゆるジャンルの本を読んできた。

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新しい発見が何もない本は読む価値がない。自分の住む世界と全く関連がないと思われる本も読む気が起きない。原理的に本は、常に手が届きそうで届かない未知の世界と私との間にある。そんな思いで再び本棚を眺め返すと、いるわ、いるわ、

渇望していたもの、切迫していたもの、背伸びをしたかったもの、誰かが見ている世界と同じ世界を見たかったもの。その時の私が埋めたかった欠落感を代弁しているのは、『なめらかな社会とその敵』『芸術の中動態』『スピノザの方法』『ミースという神話』などといった背表紙の数々である。

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欠落感を埋められる日が来るとは思わないが、読書をしている間だけその何かに僅かに近づいているように感じる。そしてその瞬間は何物にも変えがたい至高の時間である。


●棚主プロフィール

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海野玄陽/竹中工務店/31歳
設備設計者。しばしば絵を描きます。読書と旅行とスポーツが趣味。最近は英語のスキルアップに勤しんでいます。


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