§10.2 公党の精神は呑み込めぬ/ 尾崎行雄『民主政治読本』
公党の精神は呑み込めぬ
思うに,それは日本人の思想感情がまだ封建時代をさまよっているために,利害や感情によって結ばれる親分子分の関係と同型の私党はできても,主義政策によって結ばれ,国家本位に行動する公党の精神は,どうしても呑みこめないのであろう.力をめぐって離合する感情はあっても,道理をめぐって集散する理性がないからであろう.
アシカガ・タカウジの一族郎党は,タカウジが天子さまのお味方をしても,天子さまにそむいても,一致結束してタカウジを助けた.もし彼等の中に,天子さまにそむくのは悪いことだ,悪いことをする手伝いはできないという公党的精神があれば,タカウジが天子さまのお味方をする間はついて行くが,天子さまにそむくならついてはゆかない.去ってクスノキ軍に投ずるという正義の士が,少しくらいは出て来ねばならぬはずである.そのことのたえてなかったのは,タカウジ一味が,封建的な主従感情によって結合した私党だからである.
明治憲法の下で,できたりつぶれたりした幾多の政党も,見かけは立憲治下の公党らしくよそおっていたが,その議会の内外における進退かけ引きは,源平藤橘・北條・足利の流れをくむ私党の域を一歩も出てはいない.
底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年4月3日公開
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